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細海先輩と御森くん  作者: 紙屋川トカゲ
1章 研修期間(仮)
21/36

第20話 細海先輩と御森くんとその日の終わり

「御森くん…今日お願いした発注書の数字、これで合ってますか」


その日は期末ということもあり、あまり御森くんの業務を見ることが出来なかった。

時刻は午後5時45分。


せめて最後にできる限りの確認作業をしておこうとメールを遡っていると

添付ファイルの数字に違和感を覚え、そのまま声が零れ落ちる


「すみません…、発注数、入力ミスしてます」


慌ててエクセルを立ち上げて確認した御森くんの色の無い声を聞いた瞬間、咄嗟に電話に手を伸ばし相手先に電話をしながらメールをうつ

まだ5時50分、修正するのに間に合う時間だ


「……っ恐れいります、No.156で送付した発注書の件で修正をお願いしたくお電話いたしました」


緊張と不安で固まりそうな指を動かし修正したExcelを貼ってメールを送信

ひとまず大きなミスは潰せたが…

これは今日御森くんが対応したシートを全部確認してから帰った方が安心だろう


一旦、定時で上がってもらうために御森くんを見上げた時だ


「細海先輩…あの、俺…」


自分の手を握りしめながら不安気に私を見下ろす姿が目に入り、どこかで聞いた様な言葉が次々に浮かびあがってくる


〝見つけられたから良かったものの、そのまま発注してたらどうするつもりだったのかな!?〟

〝あーぁ、もう少しできる新人だと思ってたのに〟

〝確認すれば済むミスだけど、なに、仕事なめてる?〟


あーうるさいなぁ…と目を細め奥歯を食いしばった

あなた達、自分だって新人だったくせにそんな事しか言えないんですね。

ガンガンと頭の中で鳴り響く嫌味や暴言を振り切るように頭を振る。

改めて御森くんを見据えると、分かりやすく彼の体が震えるのを押し殺しているのが伝わってきた


なんですか君、私なんかよりずっと体も大きくて、社交的で、器用だし力だって強いのに、やっぱり仕事でミスをするってそれだけ怖いことなんですね


「今回の件、君がここまで仕事ができるようになった証拠なので私は嬉しいです」


そう、入社してまだ仕事を覚えたばかりの人間が慣れない状態で頑張った結果だ

だからまずは、君のことを怒ったりしないと安心してほしい


「細海せんぱ…」

「とはいえ、ミスはミスです…残りのシートも確認しておきますから御森くんは明日に響かないように今日は定時であがってください」


そう言う私に「じゃあ俺も残って確認します!」と御森くんは主張したが首を横にふった


「新人さんが1番キツいのは自分のミスの上にミスが重なった時です、まずはそこを避けるために私に任せてください」

それでも食い下がろうとする御森くんをまぁまぁ、と落ち着かせる


「そんな不安そうにしなくても、私はもっと修羅場を経験してるんです、これくらい大したフォローじゃないですよっ」


さぁ帰った帰った、というハンドジェスチャーに御森くんが納得いかないと表情を滲ませた時だ


「御森くん〜、分かるよぉミスした日って1人で帰りづらいよねぇ〜?この物部お姉さんが一緒に帰ってあげよう!」


そう言って物部が御森くんを器用にくるりとドアの方に向かせて引っ張っていく


「物部先輩…でもっ」

「じゃあ細海ちゃん!また明日!」


「はい、また明日」

そうやって2人を見送った直後


「細海さん、随分とかっこいいじゃないですかぁ」

と部長が声をかけてきた


「そうですね、私ちょっとかっこよかったかもしれません」


キャラじゃないけど、ミスして不安そうな後輩の前だったのだ

少しくらいカッコつけてもバチは当たらないだろう


「さて」と気合いを入れ直し、パソコンに向かった時だ


「で、僕はここからチェックすれば良いですか?」

と言う言葉に慌てて部長の顔を見る

「いえ、部長も定時であがってくださいっ」

元はと言えば、私が彼の業務チェックをおざなりにした結果だ、巻き込む訳にいかない


「えー?僕はもっと凄い修羅場も経験してるんです、これくらい大したフォローじゃないですよ」


〝じゃあ僕は夕方の分からチェックするので細海さんは朝からの続きで〟


そう言って、私が了承をしないまま

部長は再確認の手伝いをスタートした


自分も何か手伝おうか、と確認してくれる同僚や先輩に

「大丈夫です、ありがとうございます」

と言う度に、気が引き締まる思いがする。

もっと強くて頼れる人間になりたいと思える日だった

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