第19話 細海先輩と御森くんとその日の始まり
まだ少し眠い目をこすりながら、スマホから流れるアラームを止める
「よっ……し、今日も頑張るぞ!」
グッと伸びをすると欠伸があふれ出た
顔を洗って鏡を見ると、少し前髪が目にかかっている事に気付いたのでユルく横に流してみる
「美容院予約しなきゃな〜」
最近は研修も大詰めという感じで基本的な業務を任される事も増えてきた
まだまだ慣れない事は確認しながら対応をするから、気がつくと思ったより疲れていて驚く
「よし、今日はお前だ」
クローゼットから取り出したのは先日の休みにアイロンをかけたお気に入りのシャツだ
シワになりやすい素材だと分かっていたけど、色もデザインもドンピシャで
悩んだ末に購入した特別な1着である。
細海先輩はご家族のお下がりを制服化して仕事着にしていると言っていたけど、俺はその日の気分にあわせて服を選ぶ。
疲れを自覚してるなら、パワーをくれそうな服を着た方がやる気が出ると思うからだ
「いってきます」
そうして
いつも通り部屋に挨拶をして
いつもの出勤時刻に出社した
期末という事もあって、今日は少し慌ただしい1日だった。
入社してすぐの頃に比べると、任される仕事も増えてきていて大変だけど
細海先輩から服装を褒めてもらえて
たわいもない雑談なんかしながら業務をすすめ
そして、いつもみたいに1日が終わろうとしていたのだ
時刻は午後5時45分
「御森くん…今日お願いした発注書の数字、これで合ってますか」
いつもよりも乾いた細海先輩の声に、俺は急いで入力した数字を見直した
「ーーーあっ」
1箇所、桁を間違えて入力している
明らかに一回の発注でしてはいけない桁と単位だ
見つけた瞬間スッと指先が冷たくなって体の中心が動きを止めたような感覚に、息がつまりながら声を押し出した
「すみません…、発注数、入力ミスしてます」
その瞬間、弾かれた様に細海先輩が時計を見て電話をかけ始めた
肩で受話器を挟みながら指はメールを打っているが、いつもは静かなタイピングの音が少しだけ大きく聞こえて細海先輩の焦りが伝わってくる
「…ぁ」
不安から、何か言おうとしたけれど言葉が出なかった。
何を言ってもこの状況が変わらない事だけは分かっていて
自分がしたミスが、どれくらいのもので
リカバリーができるかどうかも今の俺では分からない
「(確定前に、なんで総量の確認もう一度しなかったんだろう…ほんの一秒、もう一度見ればよかったのに)」
ぐるぐると不安で喉の奥がびりついていく
今日、仕事のために選んだ服の裾が視界に入り、朝の自分が随分と滑稽に感じて泣きたくなった




