第15話 細海先輩と御森くんと原体験
注意!
今回、幼少期のトラウマに触れるシーンがあります。
・子供の残酷な行動
・恋愛感情を人前で茶化す行為
・共感性羞恥
上記が苦手な方は読むのをお控えください。
恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「その箱はこっちにお願いします」
てきぱきと在庫の確認をしながら指示を出す細海先輩に
「はーい」と従いながら言われた通りダンボールを運ぶ。
「重くないですか?無理な時は言ってください」
「これくらいならちょっとした運動なので大丈夫ですよー」
俺の言葉に若干引いてる細海先輩に首を傾げつつ
業務そっちのけで倉庫作業をしているのには訳がある
その日は全ての仕事が一段落していて、居室全体が和やかムードだった
先輩たちは慣れたもので、普段できないマニュアルの見直しやデスク周りの整理をしていた時だ
「誰か倉庫整理できる人いるー?」
そんな問い掛けに
「御森くんも込みで立候補して良いですか?」
と細海先輩に聞かれたので
「大丈夫です!」と二つ返事をした。
まだ研修中の身からすると、自分で仕事を見つけられない中で業務があるのはありがたい
俺の返事を聞いて
「細海、いけます」と細海先輩が手を上げたので
「俺もいけますー」と元気に答えたのだ。
「御森くんの身体能力は宝ですね」
整理できていなかった備品を一通り所定の場所に移動させ
残り少ない物が無いかを確認しながら細海先輩は言った。
「これくらいで大袈裟ですよ~」
謙遜しながらも自分では大したことじゃないことが
役に立ってると分かるのは嬉しい。
俺は俺で倉庫内の配置をメモしていたが、ふと気になっていたことを聞いてみようと
少し緊張しながら声を出す。
「ところで、いやなら答えなくて良いんですけど」
声色で気づいたのだろう、いぶかしげな表情の細海先輩と目が合う
「前に言ってたアロマンスって、生まれつきですか」
自分と違う性質に対する純粋な好奇心が無視できなかった
とは言え
かなり認識に注意が必要なことだし“聞いてみよう”と結論が出るまで、これでもかなり悩んだのだ。
「あぁ、いえ、生まれつきではないけど小さい頃からですよ」
意外にもあっけらかんと答える細海先輩に拍子抜けしながら
「どういうことか深掘りして良いやつですか?」
お伺いを立てると細海先輩は困ったように笑いながら話し始めた
「幼稚園の時のことです、ある日仲良くしていた友達が好きな男の子の名前を教えてくれたんですけど、自分が好きな男の子と同じだと分かって頭を抱えるところからこの物語はスタートします」
当人目線で行くといきなり内容が深刻だが
まだ子供のころの思い出だ、一体ここから何が起きるのかと静かに続きを待った。
「とはいえ、当時から恋愛感情に対する過剰な執着がなかったので『お友達が好きな人と両想いになったらいいな』っていう結論にいたりまして」
「いや、どんな園児ですか」
達観しすぎてません?
なんか幼稚園の時って、もっと自分の感情に素直というか頑固というか
我慢とか絶対したくない時期じゃないんですか?
「まぁまぁ、そんなある日、クラスの男の子数人に幼稚園の裏庭に連れて行かれましてね」
不穏な展開になり先輩の顔色を伺う
「そこには好きな男の子が待ってて、何が起こるのかと思ったら『おまえ、こいつのこと好きだろ』って連れてきた子たちにはやし立てられたんですよ」
……最っ悪だ、もうここからの展開はどう転んでも良いことなんて起こらない
これ以上は触れてはダメだと話を止めようと出そうと思った声が
“男の俺の声ってこの状況で恐怖にならないか”と一瞬の迷いで出てこない
「好きだったけど、友達の恋を応援したいと決めてたのと、恥ずかしさとか居た堪れなさとかが混ざって、どう反応して良いか分からず下を向いていた時に『俺のこと好きなんでしょ』って聞こえて顔を上げると、みんな楽しそうな嫌な笑顔で私の反応を面白がっていて、私が大事にしてた感情って自分以外の人間にはオモチャなんだって思ったのを覚えてま…御森くん?」
細海先輩が〝アロマンス〟という言葉を使っている、という表現をしたのがよく分かった
自分から聞いておいて、俺にできる最大の配慮が棚の向こう側で正座して小さくなることで、それを見た細海先輩が側による
「何してるんですか、業務はまだ終わってませんよ」
そう言って目線をあわせてくれた
「いや、なんか、もしかして男の俺の教育係とか嫌だったかなと思うと申し訳なくて」
絶対思い出したくないだろう過去の話をさせてしまったことに、どうすれば良いか分からなくなっていた時だ
「しょんぼりーぃぬ」
と、なんともマヌケなワードが聞こえて顔を上げる
「私は性別ではなく君を後輩の〝御森くん〟として見てます、1人の人間として接してます、御森くんは?君にとって私は誰ですか?」
「……細海先輩は、細海先輩です」
その答えに「ですよね」と笑った
「まぁ、別に全てが嫌になった訳じゃないので深刻にならなくて大丈夫です。犬は好きですから」
「今、犬関係ありました?」
そんな俺に〝まぁまぁ、とりあえず業務の続き〟と会話の内容をうやむやにされつつ、空気が悪くならなくて良かったと胸をなで下ろして業務に戻った。
これは、細海先輩の隣の席に配置された俺と教育係の細海先輩が日々ただ普通の日常を過ごす、そんな物語です!




