第13話 細海先輩と御森君と営業です
まだまだ肌寒さが残る今日この頃。
けれども、なぜかその日だけは、抜けるような青空にふさわしい暖かな空気に満ちていた。社内の空気も、どこか浮き足立っている。
「……多分、今日来社されるんだろうなあ」
とある人物の顔を思い浮かべながら、ポツリと呟く。
「なんか言いました?」
隣で作業していた御森くんが首をかしげた。
「あ、すみません、業務のことじゃないんですけど」と前置きして、
「今日、この時期にしては珍しく暖かくて過ごしやすいじゃないですか」
「そうですね! なんか起きてすぐ気分も良かったんで、新しく買ったカーディガン着てきちゃいました」
そんなことは聞いていない。だが、嬉しそうに裾を持って見せてくれたので、「よく似合ってると思ってましたよ」と伝えると、彼は「でしょー!」と無邪気に笑った。
「……まあ、そんなわけで。今日は若間さんがいらっしゃるなと思ったんです」
「どんな訳ですか!?」
御森くんのツッコミは、相変わらずキレがある。
「若間さんとは、そういう人なんです」
「いやいやいや、いくら若間さんでも気候を操るなんて「いつもお世話になっております」
居室に響き渡った爽やかな声と共にサイレントな黄色い声が上がり、御森くんが固まった。
「えーー……」
『マジですか』と、彼の表情が雄弁に語っている。
「ね、いらしたでしょう?」
なぜか若間さんが来社する日は空気が一段華やかにすがすがしくなるため、最近はおみえになる日が分かるようになってきた
「ぐぅ……若間さんのこと、めっちゃリスペクトしてるのに、何ひとつ理解できない……!」
悔しそうに項垂れる御森くんを横目に、「(理解したいのか……)」と自分とは真逆の性質の後輩に若干の尊敬を覚える
「じゃあ、若間さんと直接交流してみたらどうですか」
古くからお取引している会社の営業さんだ、親交を深めるのは悪いことじゃない
私の言葉に一瞬“はっ!”とした顔をした御森くんは意を決したように「いってきます!」と若間さんの方に走っていった、オトメなの?
少し見守っていたが二人ともコミュニケーション能力が高い者同士だけあって和気あいあいと会話をしている雰囲気を微笑ましく思いながら自分の業務に戻った。
「もどりましたぁ」
数分後、隣の席に戻ってきた御森くんの元気が明らかに無い
「どうしました?なにか悲しい事実に触れちゃいましたか」
そんな私の顔をちらりと横目で見ると
「若間さんに、色々な質問をしたんですけど」
「はい」
続きを促す
「年齢を聞いた時に“営業です”って言われて」
「はぁ」
眉をへの字に下げて悲しそうに肩を落としながら
「ちゃんと答えてもらえないなんて、失礼な質問だったんですかね」
そう言った御森くんは“しょんぼり”という擬音を背負っているように見えるが“営業です”か、なるほど
「若間さんは職業である営業に特化した年齢、歳のとり方をされている…ってことですね」
「どんな法則ですか!?」
御森くんは納得できないと訴えてきたが
「若間さんとは、そういう人なんです」
と一言返して業務に戻る
そんな私を信じられないものを見るような目で見つめながら
「ぐぅ……若間さんのことも細海先輩のことも、何ひとつ理解できない……!」
と彼は小さく泣き叫んだ。




