第11話 細海先輩と御森くんと胃薬
普段から淡々とした雰囲気の人だから気のせいかもしれないけど
朝からどこなく浮かない雰囲気だな、とは思っていた
「御森くん、これいりませんか」
ランチタイム1時間前
そう言って細海先輩が個包装のアップルパイを差し出してきた
「え、くれるんですか!いります!」
「どうぞ」と手渡されたそれは上品なサイズ感だけど繊細な編み目から飴色のリンゴが見えるタイプで
持った感じもしっとりとしていてとてもおいしそうだ
「どうしたんですか、必要最低限の食べ物しか会社に持ってこない細海先輩が珍しいじゃないですか」
そう言って、自分の言葉にはたと気が付く
「…これ、どうして俺にくれるんですか」
そう、お土産やおすそ分けで全員分持ってくることは以前あったけど
食が細く間食をしないこの人が多めに食べ物を持ち歩くのは不自然じゃないか
「おなかの調子悪いです、デザートにと思ったんですけどおいしく食べてあげられないと思うので譲渡します」
“正統な継承者へ”と妙なポーズ付きで言われる
アップルパイはありがたくいただくとして
理由に少しモヤモヤするので
「お薬飲みました?」と聞くと
先輩は「持っています。備えは万全です」とポーチからスッと胃薬を取り出した
「……持ってるなら飲みましょうか?」
うん、先輩、お薬あるなら飲まなきゃ
それは持っているだけでは効果は無いんですよ
そんな俺の言葉に「この程度の不快感で?」と薬の裏面を読み始めた
「このサイズのアップルパイが食べられないなら十分ですよ!?」
そういう俺に
「いやいや、御森くんが持ったら大体の食べ物は小さく見えるじゃないですか」とお腹をさすりながら続ける
「昔から自己診断で薬飲むの苦手で…痛いなら飲むのも分かるんですけど、胃薬ってどのレベルの不快感でいつ飲めばいいんですかね……?」
と再度自問自答したあと
「今かぁ」となんとも間抜けな結論に達しタンブラーに手を伸ばした
「はい、今です」
どうにもこの人は自分の変化に敏感な割にメンテナンスが雑なところがある
「“食前の空腹時でも食後でも!”って書いてある、へぇー」
そう言いながら錠剤を飲む姿に、じゃあ今まではどんな状況で服用したんだと、少し心配になったが
ランチタイムを挟んで午後
少し丸まっていた背中がいつも通り真っ直ぐに戻っていたので一安心である
もらったアップルパイは思った通り美味しかったので、またどこで買ったか聞こうと思った




