第四十三話 噂
「なるほど、良い方に巡り会えたのだな」
晩餐を終えて、お父様は満足そうにうなずく。
私が話した内容は、セインさんが運命の番だということ以外の全てだ。だから、当然……。
「あの男っ、姉様と婚約破棄したっていうのに、まだ姉様を傷つけようとするなんて!!」
「レノ、それはもう良いの。セインさんが守ってくれたから」
レノが憤慨する様子を微笑ましく思いながら宥めれば、『姉様がそう言うなら』と、不満そうにしながらも引き下がってくれる。
獣人というのは、大抵早熟であり、現在九歳に当たるレノは、人間なら高校生くらいの精神年齢だ。とはいえ、経験という面ではまだ浅く、学ぶことも多い。
今回の件も、レノは私が傷つけられたという点にのみ着目していたが、貴族家の後継者となると、そればかりではいられない。
「ふむ、ドーマック家は没落が確定しているようなものだが、それでも権力をかざすことができたのか? それか、平民にはその情報がなかったゆえの悲劇だったか……」
「……リコが落ち込むかもしれないと思って、後で話すつもりでいましたが、恐らくは、今の話に関係のある情報があります。リコ、聞く覚悟はありますか?」
私も感じた疑問をお父様が口にし、お母様は私の覚悟を問うてくる。
心配、かけてた……?
婚約破棄の騒動は、少なからず私にとって負担ではあった。もちろん、あのままゼラフと婚約を続けるなど考えられなかったが、それでも、家族に迷惑をかけることを思うと、心穏やかではいられない。
「大、丈夫……」
それが緩和されたのは、きっと、セインさんのおかげだ。そして、今なら、お母様が話すことも受け止められるであろうという直感があった。
「そう。では、わたくしが今日、お茶会の席で聞いたことをお話しますね」
そんな前置きの後に伝えられた言葉で、レノとお父様が怒り狂い、お母様もニコニコしながら凄まじい怒気を漂わせることとなる。
「お茶会で聞いたのは、とてもおかしなことなのよ。リコが、本当に傷物なのだという、根も葉もない噂よ。しかも、出処がドーマック家……。うふふ、そんなに我が家と喧嘩をしたいのであれば、言い値以上で買って差し上げるのに」
「ほう? それはそれは……他家の名誉を傷つけるような悪質な嘘が、どれだけの罪であるのか、知らないようだな? それも、最愛の娘にそんな暴言を吐くとはっ」
「姉様に何てことを……父上、ドーマック家は、本当に没落程度で済ませるおつもりですか? 僕は、それ以上のことを望みたいのですが?」
……どう、しよう……家の中に、三匹のドラゴンが、荒れ狂ってるように、見える……。
落ち込む落ち込まない以前に、これをどうにかしなければならないのではないだろうかと、私はつい、遠い目になってしまった。




