第三十五話 迷惑行為
曰く、突然現れて、『番はどこだっ』と叫び暴れまわったかと思えば、『次に来るときまでに番を差し出せ』と言い残して去っていった。
その日の被害は、店内の備品の数々が破壊されたことであり、総額六万リア。
曰く、番であろう人物の予想はついたものの、その人物は店員達全員が守ろうとする人であり、カモフラージュのため、全員が番避けを使用し、ゼラフと対峙した結果……前回以上に暴れ、数々の備品がまたしても破壊されそうになったため、憲兵を呼んでことなきを得た。
曰く、その次の時は、家の権力を使ったのか、憲兵に助けを求めてもゼラフに逆らうことができず、やはり暴れて備品のみならず、人的被害まで発生。怪我をした店員は、全治一週間の傷を負った。
そして……今回、ゼラフの番であろう人物は、怯えながらも諦めていたのだそうだ。自分が身を差し出しさえすれば、誰も傷つかないのだからと、悲壮な覚悟を決めて……しかし、そんな時に、私達に突っかかったゼラフは、セインさんに追い払われたのだそうだ。
「……元婚約者が、すみません……」
途中、様子を見に来た店員……あのパフェを持ってきてくれた女性に、私は一先ず謝罪する。
いくらなんでも、これはない。そう思えるほどのゼラフの愚行の数々に、謝りながらも頭痛を抑えることはできなかった。
「いっ、いえ、その……私が怖がりさえしなければ、こんなことにはならなかったんです。だから、謝らないでください」
パフェを持ってきてくれた時には明るく見えた彼女は、今、酷く落ち込んた様子を見せている。そして、その言葉の内容はつまり……。
「話して、良かった……?」
「はい、恩人であるあなた方には、せめてお話したいと思ったんです」
レモン綿菓子なんてものがあるのであれば、まさしくそんな柔らかさと色合いを兼ね備えたふわふわの髪に、大きくクリっとした水色の瞳。ウエイトレスとして働く姿は元気いっぱいに見えたものの、今は、儚げな美少女、といった様子だった。
ミーナと名乗った彼女は、やはり、ゼラフの運命の番らしいと自覚しているようだったが、彼女自身は獣人ではない。つまり、運命の番だと言われても、それを認識する能力などないのだ。
「運命の番、ですか。あなたも、随分と迷惑な男に気に入られましたね」
『迷惑』というセインさんの言葉に、ツキリ、と胸が痛む。
……そう、私が、セインさんのことを運命の番だと思うのも、きっと、迷惑なこと……。
分かってはいても、こうして、言葉にされるとツライものがある。もちろん、それが自分に向けられたものではないとは分かっているのだが、そういう問題でもないのだ。
「リコさん?」
「……元婚約者、迷惑かけて、ごめんなさい」
どうやら、表情に出ていたらしいということで、ひとまず、少しだけ誤魔化せば、ミーナさんが再び『謝らないでください』と慌てる。
「お二人のおかげで、決心できました。私、この店を辞めて、他国に行きます」
ただ、聞かされたその決意は、何とも重いものだった。




