39 チュートリアル卒業
『カトウさん、やっぱり居なくなってしまうなんて寂しいです』
シャルが私を抱きしめながら、目を潤ませ上目遣いで語り掛けてくる。しかし、その体を引き離す。残念だけどシャルの想いを受け止める訳にはいかない。
「ごめんシャル」
そして顔を横に振ると、シャルが一歩、二歩とよろけながなら後ろに遠ざかる。代わりに後ろからビジンが前に来て私の横に並ぶ。
『ごめんなさいねシャルロッテさん。カトウさん、カトウさんは今回の件で責任を感じていらっしゃるのですよね』
頷いて肯定する。確かに悪魔を大量に呼び寄せてしまったし、皆には余計な労働をさせてしまったし、ビジンには危険な仕事を何度もさせてしまった、大変申し訳なく思っている。
『そう、カトウさん私に申し訳ないという気持ちがあり、多くの命を頂きました』
そういって両手でヘソの辺り、ポシェットのちょっと上辺りを押さえて、上から覗き込むように押さえた辺りを見つめている。
『『『「ええええ~~~~」』』』
一斉に皆が私を見るが、私だって何の話だか全然理解出来ていません。顔を左右に振り、顔の前でも右手を振って否定する。何にもしてないよね? ね?
全然そんな記憶無いですよ、落ち着いて、落ち着け俺、でも何もした記憶がない。記憶が無いけど、ビジンは言っている、知らない間に私が何かをしてしまった可能性がある。でも/INSTALLとかそんなコマンドを発行した記憶は無いし…、/TRADE位じゃないのかビジンとしたのは、でもこれで何かが起きるなら、とっくに師匠や先生との間にだって子供位出来ていても良い筈だ。いや、流石にそれは無いか、このゲーム初めて三カ月経ってない、十カ月経過していないからな。
『カトウさんには責任を取って貰います。これからの人生を一緒に過ごしましょう、ここで宣言して下さい、いや一生の契約を結びましょう。貴方に一生ついていきますわ。』
何の話だよ! 全然理解出来ないんですけど。皆からの視線が気になる、どうする、どうすればいいんだ。あれ? もしかして……ビジンのポシェットの位置が左前面から七cm位ずれて体の正面だ、いつもと場所が違うのはなんでだろう。
『ええー! 一生の契約』
『プロッポ、プロ、プロッポ、ズ』
『カトウはビジンを選んだのね』
別の事に気が取られていたら、シャルと師匠は驚き、先生は私がビジンを選んだと思っている。いや、ビジンには世話になったし、お礼というかお詫びをしないといけないと思っている……。
ははーん、わかったぞ! 全部、マルっと、ずばり、びしゃっと、完璧に、正確に理解したと思う、多分、きっと、かもしれない。ビジンの想いは理解出来たと思うが、流石に一生というのは厳しい。
お金だって二人分稼がないといけないだろうし、今は手持ちがあるけど食い扶持をずっと維持し続けるほどの自信は無い。いや現実世界の金はあるんだけどねドヤッ。あっいけない、とりあえず返事をしないとな。
「ビジン、その契約一カ月じゃ駄目かな?」
『グハッ、でも一か月でも良いです、お願いします』
俺の妥協案を真正面から受け止めてくれた。なんて、なんて都合の良い存在なんだ。
『『おお』』『おめでとうございます!』『やるなあー』『いや、それ目出たいのか?』
皆が多分祝福の言葉をビジンに対して掛けている、シャルは走ってどこかに行ってしまった。先生がズボンを引っ張るので、しゃがんで先生視点まで顔を落としたら、耳元でささやく程度の声で話しかけて来た。
『カトウ、本当にそれで良かったの? 貴方シャルの事が…』
私も先生の耳元に囁く。
「はい。またシャルに会いたくなったらここに戻ってきますので、なんなら来月はシャルでも良いですよ」
『この外道! 見損なったわカトウ』
酷い言われようです、ビジンとは傭兵NPC契約を結んだだけなのに…。ビジン程のLVになると一カ月で三MGにもなるんですよ。
『紛らわしいわ! じゃあ沢山の命はなんだったのよ』
「それは復活アイテムですよ、ビジンが押さえていたのはお腹ではなくポシェットだったんです。そうですよねビジン」
ビジンがテヘペロって感じではにかんだ後に、自分で頭をゴツンって叩いてた。しかし女性って怖いわー。まあ、珍しい先生のツッコミを貰ったところで、周りのみんなの誤解も解かれていく。勝手に勘違いされてもね迷惑ですよまったく、どうやらシャルの誤解も解けたみだいだし良かった良かった。
今度こそ、皆とお別れになる。皆と会話しては引き留められて、なかなかチュートリアを後にできない。お世話になったし、別れも辛いんだけど、そろそろログアウトしたい。今度こそ本当にお別れだ、通りの角を曲がり、皆が見えなくなった。
『『カトウさーん』』
しかし、しばらく歩いたところで、奥の通りから村人が一斉に走り出して追いかけてくる。みんな、もうーーー本当に大好きだよーー、仕方がないなあ。
『『装備返してください!!』』
あっ忘れてた、装備を返して本当にログアウトした。
翌日。いよいよだ、ついにゲームの本編を始める。他のプレイヤーと馴染めるだろうか不安だ。始まりの村、エルフの里に着く。周りをみると私と同じようなエルフが…、居ないな、普通のスラっとしたエルフばかりだ。それと初心者はそこそこいるが同LV帯の人は居なさそう。
まあいいや、初心者ガイドに従い、村の案内や機能について説明が行われる。初期村だけあって装備もしょぼいし、クエスト内容も低LV向けで受けれない物が多い、さっさと次の村に向かうのが良いだろう。
でもその前にビジンを召喚する、いつの間にかビジンが横にいた。お前どうやって来たの? 契約の指輪があると契約者の側にテレポート出来るのかへえー、便利だね。
初心者PTがゴブリンに対して集団で戦っている、ほのぼのするわー。あんな感じで戦うんなら、何とかなりそうな気がする。
しかし、しばらく進むと全く同じを動きをしているプレイヤーの集団を見かけた。しかも、複数の集団が同じような動きをしている。名前は記号と数字ばかりで読み難い、一糸乱れぬ動きが滅茶苦茶気持ち悪い。怖いわー、集団プレイ怖いわー、有る程度LVが上がるとあんなに息が揃ってないとPTプレイって出来ないのだろうか不安になる。
次の村というよりも町に着くと、プレイヤーが結構いる。いやー、どうやってこの輪の中に入っていけばいいのだろうか、入り方が分からない。ゲーム内掲示板を読むと色々と解説が載っている、なるほど、PT募集のルーム一覧を見て、募集要項を確認すればいいみたいだな。
LV15で募集している内容を確認すると、ヒーラー募集、ヒーラー募集、盗賊募集、前衛募集、ヒーラー募集、前衛募集、……。あれ? そもそも私は何職なんだ? 攻撃系魔法使いだとは思う、でも職業には就いてない。あっ誰でもって書いてあるので尋ねてみる。
『はい誰でも良いですよ。え? LV15なのに一次転職してないの? 生産職についているでも無く? 服は上下初期装備? 戦闘スキル無いの? しかも回復魔法も無いの? いや流石に無理でしょふざけてんの?』
やばいふざけていると思われたらしい、ごめんなさいと謝ってチャットを終わらせる。別にふざけている訳でないのですよ、知らないものマナーとかルールとかさ…。
人に話しかけるのが怖くなってきた。どうして良いか分からない。でも折角普通にゲームを始めたんだし、もうちょっと頑張りたい。とりあえず情報を集めよう、掲示板やインターネットでWikiを確認してローカルルールや転職を調べないと。
現在判明(公開)している転職の条件は、大抵初期村のクエストを達成している必要があるらしい。だいたいLV10近辺になると、その転職前提クエストを達成してから、次の村に向かうのが常識との事。
クエスト場所は初期村とはいえダンジョンなので、PTプレイ必須のようだ。どんなに遅くてもLV12位には達成しているので、LV15の人がPTに入るのは非常に難しそう、なんじゃそれ。六人以上のPTで向かうのが推奨されているので、ビジンが居ても二人ではちょっと辛そうだな。
とりあえず装備を整えるのも大事だから、放置露店している人の価格や、店売り価格、ゲーム内掲示板で売り買いしている人の価格などを確認して、何の装備にするかを考えないと。詐欺られるのも嫌なのでしっかし相場はチェックだ、勿体ないしね。でもプレイスタイルを先に考えるべきなのか?
純粋ヒーラーは光魔法を取って聖職者系の職業に就くらしい、バッファー(支援魔法)は、無属性魔法を始めとして最低三種類から五種類位の魔法を覚えるらしい。で、それ以外が魔法使いという範囲でくくられる職業に就くみたいだ。
範囲魔法が気持ちいいから、範囲魔法を使う魔法使いになりたいんだけど、あんまり評判が良くないみたい。普通狩場が被らないように近くで戦っている人達はお互いに配慮するんだけど、範囲狩りだと敵を多く集めて倒すので、周りの人達から煙たがられるようだ。
なので範囲狩りが行われる場所は、主に人が少ない場所か敵が大量に湧いているような場所に限られるみたい。一人用狩場、PT用狩場、範囲攻撃用狩場、自然とローカル的な区分が出来ているらしい。
しかも範囲狩りをするには、敵を集めてきて攻撃が耐え続けられる人と、それをヒールする人、MP回復する人、範囲攻撃出来る人、その辺りが揃わないと成り立たない。MP回復かあ、いままでずっと妖精だよりだったけど、普通にゲームしたらその辺も考えないといけないんだな、ふぅー。
大きな町だったので魔法ショップを探していたら、魔法ギルドが見つかった。ここでも魔法が売っている様だな。どれどれ、あれスキルLV2までのしか扱ってないじゃん。まだ初期村に近いからこんなもんなのか? ゲーム内掲示板を見ると、どうやら現在の店売りは最大でスキルLV3までらしい。
折角火魔法がLV8、風がLV5になっているのに、使える魔法が無いとか不遇過ぎんだろ魔法使い。こういう手は使いたくなかったけど仕方がない、高LVの魔法書を店で販売するように運営に媚びるメールを送っておく。
『あなた、転職に来たのかしら?』
ギルド内にいた魔法使いのお婆さん(NPC)が話しかけて来た。残念前提クエをしていないので、受けれないと思いますよ。
『いえ、貴方はLV15以上で火魔法がLV8以上だから、放火魔になれるわよ』
えっ普通に嫌なんですけどその職業、どう考えても牢屋にぶち込まれますよね? メリットが有ったとしても、会う人会う人に、変な目で見られちゃいますよ……。ん、違う、違うぞ、良いじゃないかネタっぽくて、俺に必要なのはこれじゃん!
メリットは火魔法に必要なMPが十%減、火魔法の威力十%増、カルマ値が若干悪側になるので、ヒール系の効きが僅かに悪くなるのと、NPCから若干嫌われるらしい。いやいや良いじゃん、好感度については他の称号と合わせて行って来いでチャラみたいなもんだし。




