13 変態店主再び
『申し訳ありません、それで最後になります』
冒険者ギルドの素材ショップでガラスの瓶を購入しようと思ったら五個しか買えなかった。他の素材も数個ずつしか在庫がないらしく大量購入が出来ない。何でNPCの店売りに在庫なんて仕組みがあるんだ、制限無く買えればいいのに。
金策のために回復ポーションの納品クエをやろうと思ったらガラスの瓶が手に入らない。いや店売り価格からしておかしいなと思ったんだよね、瓶と薬草買って調合したら元が取れそうな気がしたんだけどそう簡単にはいかなかった。
雑貨スキルが無いので自分では作ることが出来ない、他のプレイヤーからも買う事が出来ない、だって誰も居ないから……ああなるほどMMORPGだからか。他のプレイヤーから買う事で、協力しあう事でゲームが成り立つ訳か。
となると手段が限られる、というか雑貨店一択だろうな。あの店主に会うのは気が重い、でもシャルと会えるかも知れないのは少し嬉しい。
昨晩一緒に飲んで、ちょっと仲良くなった気がした。名前略して呼んで下さいって、シャル、シャリー、ロッテ、なんて呼ばれているらしい。
最初は“ャッテ”にしようと思ったんだけど発音が難しくて断念した、“シテ”は何かをお願いしている感じになっちゃうし、まあシャルが可愛い感じだからシャルって呼ぶ事にしちゃったんだデヘヘ。
『いらっしゃいませ。あら、カトウさんおはようございます』
「おはようございますシャル、昨日は楽しかったよありがとう」
うへへ、言っちゃった言っちゃった。ニコニコしているシャルは可愛いな。さてデレるのはこの辺にして要件を伝えないと。在庫のガラスの瓶五十個は買えたけど、これ以上は生産しないと無いらしい。しばらくすれば在庫が増えるらしいから、いまある分だけで製作して納品するか。
回復ポーションと毒消しの納品クエを行ったら、冒険者ギルドのランクがLに上がった。
『おめでとう。最初から何処かが違うと思っていたのよ、これからも頑張ってね応援しているから』
ガーマレットさんが自分の事のように喜んでくれている、蛙っぽい顔なのに嬉しい事が伝わってくるのは本心からそう思っているからなんだろうな。
もしかして私に気が有ったりして、モテモテだなうへうへへ。今度ご飯でも誘ってみようかな、でもカエルって何が好みなんだろう虫だろうか? この辺で虫だとイモリン、ヤモリンくらいかな。イモリンなら何とかあの口で丸っと咥えられるような気がするな。いや流石にそれは駄目か、ポリゴンになって消えちゃうからな。
「ごめんくださーい」
鍛冶屋に行くが相変わらず店主が不在だったので声をかけてみる。しばらくすると叩く音が止まり、店の奥から髭もじゃのちょっと背の低い、でもガタイが良いオッサンが出て来た。見るからにドワーフ、どこからどう見てもドワーフだな。内視鏡で体内を見たら分からないかも知れないけどドワーフだ。
『はいよ、何用だい』
つるはしを五万Gで購入したついでに、気になることを聞いてみた。
「カンカン叩いている音がしましたが、鍛冶スキルがあるのですよね? なぜ叩く必要があるのでしょうか?」
『ふぉっふぉっふぉ、確かに鍛冶スキルとレシピと機材と素材があれば出来る、だがレシピ以外の物を作ろうと思ったら一から作るしかあるまい』
なるほどね、レシピに無いものを作っていたのか。レシピに無いってことは相当なレアなんじゃないか? どんなものを作っていたんだろう。
『おっ興味があるのか? 遠慮するな遠慮するな、ほれほれついてこい』
誘われるがまま店主につれられて奥の工房に入る。そこには金属の不格好な人形があった、例えるなら呪いの藁人形の金属バージョンとでも表現すればいいだろうか。部屋の中は棚という棚が不気味な人形だらけだ。
『これはマルグリットさんをモデルにした人形じゃよ、可愛いじゃろ』
こんな不格好なものが? アホ毛だけは再現出来ているがそれ以外は人型ってだけで、とてもお世辞にも似ているとは言えない。これをオーカーやゴブリンと言っても通用するくらい汎用性の高い、逆に言えば人型っていう以外の何もでもない人形だ。
「へっへー、あっすみません、ちょっと用事があってこれで失礼しますね」
『ほれほれ遠慮するな』
無理に引き留めて人形を見せようとする、逃げようとしたのを察したのか出口を塞がれて逃げようがない。
『ちょっと作り過ぎてしもうた。素材が尽きたので調達しに行こうかと思ったところじゃよ、つるはしを入用という事は鉱石を取ろうと思ったんじゃろ? 良い採掘場所を教えてやるから一緒に来んか?』
『ユニーククエスト:“恋する男の感情は間違った方向に進んでいる、このままだと良く無い事が……”を受けますか? “はい” “はい”』
はい以外の選択肢がないのか、このクエストを受ける事が正しいのだろうか? 他に選びようが無いから受けるしかない。二人とも変態かも知れないけど間違った方向には進んでほしくない。いざとなったらこの身を挺してでも阻止しないと、シャルが悲しむかも知れないからな。
ドワージンさんと一緒に町を出る、並んで歩くと頭一個分位低い。ちなみにドワージンさんの装備は黒色の全身鎧だ、背中に斧、さらにその上に盾を背負っている。背中の斧と丸盾が意外に似合っていて恰好良い、これ欲しいなあ。
この斧と盾は戦闘の時どうやってそれを取り出すのか興味深い、絶対手が届かないだろう、というかどうやって背負ったんだろう?
この前の砂や薬草の採集した場所とは違う方向に歩く、道の左右は畑が続くが丘を一つ越えると森が見えた。道は森に向かて延びており、森に入ると道幅が少しずつ狭くなってきた。
『茂みの中からモンスターや獣が襲ってくることがあるから、注意しながら進むぞい』
幅五十cmくらいの道を進む、左右は茂みで視界が通らない。緊張しながら歩いているとガサガサと前方の茂みが揺れて二m以上ありそうな大きな熊が道に出て来た。こちらに気が付くと雄叫びを上げて両手を大きく上にあげて威嚇している。
『マグマじゃ! 任せろ、おぬしは危険じゃから下がっておれ。マグマ、わしが相手じゃかかってこい!』
背中にあった盾が何故か一瞬で左腕の側面に装備され、右手には斧を握りしめていた。そして顔の前で斧と盾をぶつけて大きな音を出して注意をひいている。あんな大きな熊に対して一人で向かっていくなんて恰好良い。
右足を一歩引いて左半身で構えている、マグマの右腕が物凄い勢いで振り下ろされるが、左腕に装備した盾をタイミングを合わせて突き出して弾く。弾いた瞬間に隙が出来た、右足を大きく踏み出し斧を横に大きく振ると、腰に当たって熊の体が横に歪む。
ドワージンが後ろに飛び跳ねると同時に、マグマの左腕が大きく宙を切っていた。大ぶりの攻撃に対して、今度は斧を足元に振るって左ひざに一撃を与えマグマの姿勢が崩れる。低くなった顔に下から斧を打ち上げようとしたが左手で柄の部分を抑えられて防がれた、再度一歩下がって距離を取っていた。
中々凄い戦いだな、でも何にもしなくて良いのだろうか? とはいえ手を出すなと言われたのだから出さない方が良いだろう。エンチャントアイコンの時間がカウントダウンが始まったので、支援魔法ならいいだろうと思い魔法を唱える。
「ファイヤーエンチャント、ウインドシールド」
『馬鹿よせ!』
魔法を唱え始めるとドワージンが叫んだ、何だと思った瞬間、マグマがこちらを睨んだ後に四つ足で突進してきた。え? え? え? 物凄い勢いでこちらにやってきた、ぶっぶつかる!
『岩砕き』
急にマグマの姿勢が崩れ私の斜め横に倒れこんだ、ざざざーと地面に体がこすれる音が聞こえる。正面から体当たりされて吹っ飛ばされると思ったが、それよりも早くドワージンのスキルが発動してマグマを吹っ飛ばしていた。倒れたマグマに両手でしっかり握った斧を何度も振り下ろす。しばらくして、ポリゴンになって消えていった。
『任せろと言ったじゃろ! 支援魔法は相手からのヘイトを高くする場合があるんじゃ、支援魔法をするならタイミングを見計らってしないと駄目じゃ。あるいは戦闘が始まるより前に更新するなどの工夫をするかだ。
すまんちょっと熱くなってしもうた。おぬしの力量を把握せずに注意事項を伝えていなかったワシの落ち度でもあるわい』
怒っているのは私を心配しての事だろう素直に謝罪した。PTプレイに慣れていないので色々と勉強になる。ちなみに、マグマを倒したら何故か武器コアと呼ばれるアイテムや熊の手、毛皮が手に入った。
『武器コアと素材を集めると武器を作る事が出来る。ただしその武器コアに対応したレシピか設計図がないと駄目じゃ。極々稀に武器そのものを落とすこともがあるが、一万匹倒して出ればラッキー程度じゃよ』
なるほどね。武器コア自体も簡単に拾えるものじゃない無いらしい、集めたら武器が作れるかも知れないので大事にとっておこう。
道からそれてしばらく進み林を抜けるとちょっとした丘があり、ダンプカー一台分位が通れそうな、大きな穴が開いている。
『あの穴に入って、しばらく進んだところが目的地じゃ』
どんな鉱石が入手出来るのか楽しみだな。




