11 弟子入り?
LV表記のみ、漢数字からアラビア数字にしてみました。ご了承ください。
『ところで、カトウさんは雑貨スキルは持っているの? あら持ってないのね。試しにちょっと作ってみる? じゃあこちらに、シャルは店番よろしく』
マルグリットさんに連れられて奥の工房に向かう。声と見た目は幼女、しかし話す言葉お姉さん、決しておばあちゃんじゃない、ギャップに戸惑うな。
『聞いたわよ、イモリンの背中をモミモミしたんですって、いくら欲求不満でもそんな事しちゃだめよ』
「すみませんそれは誤解です。イモリンの吐いた糸に引っかかって転んで、転んだ先にイモリンが居て、偶々モミモミしたらイモリンの背中だっただけです」
立ち止まってジトーとした目で見上げている。
『一歩譲って偶々イモリンの背中に覆いかぶさったとしましょう。でもモミモミする必要性は無いわよね? もしかしてシャルのあれだと思ってモミモミしちゃったのかしら? もしそうだとしたら許さないわよ』
ぎくっ鋭い、流石に二百年も生きてないわ、腰に手を当て頬を若干膨らませて怒っている。
『ちゃんと欲望に赴くままイモリンをモミモミしたんじゃなくて、シャルと思ってモミモミしたのならイモリンに対して申し訳ないと思わないの!』
「そっちかよ!」
声を荒げたマルグリットさんのボケに思わずツッコミを入れてしまった。ツッコミを受けて凄く気持ちよさそうな顔している、多分変態さんかもしれない。とりあえずガラスの製作だね。
『じゃあ、その魔道窯にMPを注ぎ込んで……』
説明に従ってMPを注ぎ込むと窯の温度が上がる。一千五百度位になるから火傷に注意だ。普通の窯もあるけど燃料費が掛かるので、今回のような場合には魔道窯で作成した方がお金が掛からなくていいだろう。
十分に熱せられた窯の中に釜があるのでそこに砂を入れる。しばらくすると砂が赤くなってドロドロの状態になった。鉄パイプのような棒をそこに突っ込み、ドロドロとしたものを絡めて抜き出す。
椅子に座ると鉄パイプが水平におけるような台があり、そこで棒をコロコロと転がしながら、先端にある赤い部分に、厚手の布のようなものを当てて手で形を整える。
一旦立ち上がって、パイプの先端から息を吹き込みガラスを膨らませる。ガラスを下に向けて左右に振って延ばし、再度座って形を整える。反対側にガラスを付けた棒を取り付けて、最初につけていた鉄パイプ側をちょん切って外す。再度形を整えながら、最後に後からつけた棒から切り離して完成だ。滅茶苦茶大変なんですね、一個作るのに十数分位かかったと思う。
『はい、まだ一個目よ。まずは十個作って見ましょ』
マルグリットさん厳しい指導が続く、黙々とガラス瓶を作成し続ける。二時間位かけて十個のガラス瓶が出来た。どれも不格好でちょっと売り物に成らない気がする。
『残念だけど、これは売り物に成らないわね』
まあそりゃそうだと思う、十個作ったくらいで製品として売れるほどのガラス瓶が作成出来たら誰も苦労しないと思う。
『ちょっと砂をいただくわね』
作業台の上にレシピを開いてから砂を取り、ピカッと光ったと思うと軽くガッツポーズをした。ああ師匠譲りなんだなガッツポーズは。そして作業台の上には透明のガラスの塊が二個置かれた。今度はガラスの塊を手に取りピカッと光ったらガッツポーズしてガラスの瓶が二個出来た。
「はやっ!」
余りの速さにびっくりして思わず声が出てしまった。十秒位だぞこれ、寸分たがわぬガラス瓶が二個出来た。全て大成功か凄いな流石雑貨屋の店主だけあるわ。
『これが雑貨スキルよ、凄く便利でしょ。時間や燃料費またはMPも節約出来るし品質も良いわ。ただ生産するためには設備が無いと駄目だから冒険者ギルドのレンタル部屋で作成するか、店の手伝いとして作成するか、自分で道具を揃えるか、かしらね。
どう雑貨スキルを覚えてみない? 今なら三十万Gで良いわよ』
「高っ! いやすみません、お金が無いのとスキル枠が無いのでちょっと止めておきます」
三十万払うより、材料を提供する代わりに値引いて二百個売って貰えないか交渉した方が全然良いや。
『全然利用していないスキルは無いの? 鍛冶はまだLV1なら忘れちゃってもいいじゃない。お金についても値引いて上げてもいいわ二十七万Gでどうかしら』
そういえばスキルってチュートリアル中なら覚えられるんじゃないのか? 妖精に尋ねてみると冒険者ギルドに加入したので今後は有料との事、ぐはっ。でもそんなにお金を持ってないから、やっぱりお断りします。
『今いくら持っているの? えっ二万Gしか無いの? 本当にそれだけしかないの?』
ジトーという目で見られているがお金が無いんだから仕方ないじゃん。それに若干だけど鍛冶スキルの熟練度入っているし勿体ないもんね。
『まったく商売上手ね、じゃあ十万Gまで値引くわ。これ以上は絶対無理だから』
肩をすくめて首を振りながらしぶしぶという感じで、口を若干とがらせながら言ってくる。ちょっとカチンとくる。
「ちょっと人の話を聞いてください! お金は持ってません! それに鍛冶も忘れる気が無いので」
思わず声を荒げてしまった。言い終わって直ぐに不味いと思った、これは大分失礼だったので謝罪しないと。
『ごめんなさいね。こちらこそ無理に勧めてしまって、貴方才能がありそうだったからついね』
幼い姿の女の子に、しゅんって感じで謝られてしまった、大変に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません声を荒げてしまって、ところで才能が有りそうなのですか?」
『それは間違いないわ。貴方にはツッコミの才能がありそう』
「そっちかよ! 雑貨じゃねーのかよ!」
『やっぱり間違いないわ弟子に成らない?』
「なんのだよ!」
『料理』
「笑いでも雑貨でもねーのかよ!」
マルグリットさんが光悦したような顔で棒立ちになっている、まさに変態だ。下らない言い合いをしているとシャルロッテさんが走って来た。
『もう、またくだらない事を言って人をからかっていたんでしょ! 駄目ですよカトウさん』
「俺かよ!」
マルグリットさんが更にだらしない顔になって、今度は全身がビクンビクンしている。もうヤダここにいるの、シャルロッテさんが私の耳元に囁く。
『ごめんなさいねカトウさん。この方が話がスムーズに行くと思って、マルグリットさんはお金に厳しいところがあるから。交渉なら協力しますよ』
ありがとうございます。とりあえず信じますがこの店の店員という事で話半分位で聞いておきます。私もシャルロッテさんの耳元に囁き返す。
「いや実は雑貨スキルを勧められまして、スキル枠もお金も無いのでお断りしていたところなんです。しかし雑貨スキルというのはお金が随分掛かるのですね。三十万Gとか、値引いてくれて十万Gまで……」
言い終わる前にシャルロッテさんの顔つきが変わって険しいものになり、一旦こっちを見た後に、マルグリットさんに視線が移る。マルグリットさんは抜き足差し足で移動しようとしている。
『マルグリットさん、どうしてそんなに高い値段で吹っ掛けたのですか! 普通の生産スキルなら三万~五万Gくらいですよね!』
イタズラを見つかった子供ような顔つき、というよりも、見つかっちゃったかーテヘペロー位の顔だな。
『かなり親切な人みたいだから、人の話を信じそうだし、ぼったくれるかなーって、ただそれだけよ他意は無いの、ただお金を巻き上げられるかなって思っただけなの』
いやそれ随分と酷い事していますよ。
『それじゃ仕方ないですね』
「仕方ないのかよ!」
マルグリットさんは横に倒れて、海老反りになってビクンビクンしている。そこでシャルロッテさんが交渉を始める。
『人助けのためですし、ガラス瓶を多少安く用意しても良いでしょうか。素材は持ち込みですし、私が製作しますので』
『良いわよ用意しましょう、何個必要なんでしたっけ?』
マルグリットさんがだらしない顔のまま同意してくれた。なるほど、喜ばせて好条件を引き出すのですね。二百個と伝えるとシャルロッテさんが更にたたみかけてくる。
『じゃあ二万Gで』
「定価じゃん!」
『じゃあ三万Gで』
「値上がりしてんじゃん!」
マルグリットさんが床を右に左にゴロゴロ転がったあと、しばらくハアハア言って悶えている。なんとか話せる状態に落ち着くまで待った。
『わかったわ、これ以上されたらもうどうにかなっちゃうから、貴方の熱意は十分に伝わりました。私とシャルで無料で作るから素材だけ置いて行って。ギルドで薬草とポーションを作るのよね? 終わったらシャルにもっていかせるわ』
何が伝わったか分かりませんがとりあえず瓶の手配が出来た、次は薬草とポーションだね。




