1人と1匹の野営
クゥの足ならその気になれば今から飛ばせば着けそう村や街もあったがわざと野営になりそうな道を選ぶ。
「クゥこれからしばらくよろしくね」
ポンポンと首を叩いて、好きに走っていいよ、と指示を出すと、クゥは嬉しそうに鳴いてから走り出した。
この間よりはのんびりと。でも、他の脚では中々追いつけない速度で走る。
しばらく走って1度休憩をとった。
クゥには先程市場で買った果物と桶に入れたお水。自分でもコップに入れた水を飲む。
ついでに、とクゥがかけてる鞄の中身や籠の中身は収納魔法の中にコッソリと移す。これで大分軽くなったはずだ。
装具に軽量化魔法をかければもっと軽くすることも出来るけれどそれはとっておきにしておく。
魔物や盗賊から逃げなきゃならないこともないとは言えないから。
クゥは軽くなった身体で嬉しそうに鳴く。
果物をもう1つ出せば、ゆっくりと首を振って桶を嘴で突く。
「お水をもっと?」
聞けば嬉しそうに鳴くので、水を追加すると美味しそうに飲んでいる。
「今夜は2人で外で眠ることになる思うんだ。だから泊まれそうなところでクゥのご飯もありそうなところがあったらそこに向かって欲しいの」
水を飲むクゥを撫でながら、お願いをしてみれば、クゥが首を上げてこちらを見た。
「難しいかな?」
「クゥ?」
「んー…日が暮れる頃にクゥのご飯がある場所まで連れてって欲しい」
目が見開かれて、パチリと瞬きする。
なんとく伝わった気がした。
水を飲み終えると、クゥが早く、早く、といったように足を折って自分に乗るようにしてくるので桶を籠にいれるフリでアイテムボックスに入れてから騎乗する。
そこからのクゥは風のような速さで走った。
国境からテイトの街まで走った時より早い速度で走っていく。
その様子は楽しそうで、止める気にはならなかったので好きな様にさせた。
というよりも国内の道ならばクゥの方が先輩だ。
人の邪魔にならない様、邪魔しない様に駆け抜けていくその姿は風の精霊のようにすら見える。
あんまり楽しそうなのできいてみた。
「楽しい?」
「クゥゥゥ!」
一際高く楽しそうな答えと共にクゥのそくどがまたあがった。
日が落ちてもまだ少し明るい宵闇になってクゥはやっと足を止めた。
木がまばらにある草原のような場所。
その中の1本の木の下でクゥは足を止めて屈んだ。
即座に降りて「ここが目的地?」と聞けば、そうだよ、というように鳴くので、装具と鞄を外した。
「クゥ」
「お水ね」
桶に水を出すと美味しそうに飲んだ後、嘴でマントを掴まれた。
「なに?」
そのまま近くの茂みへと連れて行かれる。
そこにはスモモくらい実がなる低木があった。クゥはその実を美味しそうに食べていく。
クゥが食べるならと実を摘んでいると、食べろ、というようにクゥが自分が摘んだ実を1つくれた。
うーん…人が食べても平気かな?
ちょっとだけ心配だったので植物魔法で毒がないかだけ確かめてみる。
「大丈夫そうね」
齧るとスモモというよりは梨のような食感で甘さはさほどでもない。だか、瑞々しくて美味しい。
「美味しいね。ありがとう」
お礼をいうとクゥはまた食べ始めたので、抱えられるくらい実を摘んでから装具があった場所へと戻る。
さて、私も夕食を、と思ったところで思い出した。
タクハのお母さんからお弁当を持たされていたことを。
今夜はそれでいいわよね。
お弁当を広げて、カップにお湯を出してたら、もう真っ暗だったので、追跡魔法がかかったペンダントを出して灯りをつける。
この魔道具は明るさを調節できるので便利なのだ。
手元が見えればいいので、明るさは抑える。
今夜は星も月も出ているので食べたら消しても大丈夫だろう。
「いただきます」と手を合わせて、サンドイッチに噛み付く。
「あ、美味しい…」
卵をパンで潰すようにして一緒に焼き、味をつけてある。そこにハムを乗せて別に焼いたパンで挟んでいるのだ。
油と焦げた卵。それがよく焼かれたパンと一緒になっていてとても美味しい。
きっとこれあのスープと合わせて食べたら美味しい。でも、今日は我慢しよう。
食べ終わった頃にクゥが戻ってきたのでブラッシングとマッサージをする。
「ありがとね。沢山走って疲れなかった?」
大丈夫。楽しかった。というような鳴き声が返ってきて安心する。
「水は浴びる?」
ふるふると首を振られた。今はいいらしい。
ならば、とクリーンと軽い治癒魔法をかけておく。
これで全身綺麗になったし、マッサージ効果も高まるはずだ。
ありがとうなのか、気持ちいいなのかはわからないけどクゥが機嫌よさそうに鳴いているので、どうやらこれでいいみたい。
全身のブラッシングが終わって、すっかりモフモフになったところでクゥは装具の横に座り込むと羽を広げる。
どうやら寝よう、と誘われているようだ。
自分と旅装にもクリーンをかけて、サンダルの紐を緩めて羽の中に入る。
柔らかくて、フカフカで幸せだ。
「うふふ、気持ちいい」
そうでしょ?というようにクゥは嘴で私の頭を突く。
「モフモフ〜」
羽毛の間に指を滑らすとそれだけで物凄く気持ちがよかった。
ペンダントの灯りを消して「明日もよろしくね」とクゥに頭を預けると、任せてというようにクゥが頷いた。
夜明け前に目覚めるとクゥは既に起きていたようですぐに羽の中から出してくれた。
「おはよう」
桶に水を出すとそれを飲んだ後にじっと桶を見ていたのでまた水を出すと飲まない。
「どうしたの?」
すると桶に頭を突っ込むようにして濡らした。
ああ、水浴びしたいんだ。
「ここだと装具が濡れちゃうから少し離れよう」
歩くと素直に付いてきてくれたので上級生活魔法のバスの応用でシャワーの様にクゥの上に雨を降らせた。
クゥはもっとというように喜んで声を上げる。
存分に水浴びをしたクゥは少し離れていってブルブルっと身体を震わせて水を払った。
「気持ちよかった?」
こちらを見て頷いたクゥは昨日と同じ茂みに向かう。
朝ご飯を食べるのだろう。
装具のところまで戻って、桶の水を替えてから、朝食にする。
堅焼きパンとスープで軽くすませるとクゥが戻ってきた。
その嘴には果実が数個ついた枝が咥えられている。
それを目の前までもってきてずいっと突き出された。
「くれるの?」
手を出せばそこに枝が落ちてきた。
「ありがとう」と言って1つだけ食べてる。
クゥはおすましで水を飲んでいた。
「出発しようか?」と聞けば装具をつけやすいように屈んでくれる。
「今日もよろしくね。クゥが走りたいように走って。でもちゃんと休憩はしてね」
そうお願いして跨ると、任せて!というようにクゥは一声上げて走り始めた。




