4話. 初めての顔合わせ
僕の朝は早い。
おじいちゃんが起きるのが早かったのもあって、おひさまが昇る頃には目が覚めてしまう。
狭いお庭をグルグルと歩いてみては、雑草を味見してみたり、穴を掘って暇をつぶす。
毎日この時間になると、家の壁に付いている箱の中に何かを入れては去っていく人がいた。
最初は不審者だと思って唸って威嚇をしていたけれど、いつも同じ匂いの人だったし、それだけで何もしなかったので気にもしなくなった。
それに反して晃樹さんと仁美さんの朝は遅い。
いつも空が明るく、キラキラと眩しくなり始めてから起きてくる。
だけど今日の晃樹さんは、珍しく早くから起きてきて、いつもの上から下まで紺色のカッチリとした姿とは違った服を着ていた。
パトロールに連れていってくれる時よりも少しおしゃれな格好をして、大きく長い鞄を肩から下げて、手にも荷物を持って出てきた。
「ハヤテ~ゴルフいってくるからまたな~」
眠そうではありながらも、楽しそうな匂いをさせて車に乗ると出掛けていった。
きっと、ゴルフっていうのは楽しいものなんだな…なんて思いながら仁美さんを待つ。
しばらくすると、寝癖の付いたまま大きなあくびをして玄関から出てきた仁美さんは、箱に入った物を取って僕に向かい
「ハヤテ、おはよ~ご飯もう少し待ってね~」
そう一言いうと家の中に戻り、ご飯の器を持ってまた出てきた。
「待てよー…よし!」
良い子に座って待ってから、ガツガツと食べ始める。
本当は全然美味しくない。
おばあちゃんの作ってくれていたご飯と違って、色んな物が混ざったご飯ではなくて、カリカリとした小さな粒だけがいっぱい入ってる。
最初に出されたときは、食べ物の匂いはするけど、これは食べ物なのだろうか?
戸惑いながら口を付けた。
美味しくはないが、嫌いで食べられないような味ではなかったし、このお家ではこれがご飯なんだな…
もうおばあちゃんのご飯は食べられないんだな…と切なくなりながら食べた。
「あ!由利江さんからNYAINがきてる!ハヤテ今日お昼過ぎにお隣のお庭に遊びに行けるわよ!」
仁美さんは光る手のひらサイズの板を、見て見てと言わんばかりにこちらに向けて、嬉しそうにしている。
「そうとなったら急いで用意をしなくちゃ!」
バタバタと楽しそうな匂いを漂わせ、ご飯の器を忘れたまま家の中に入っていった。
◇◆◇◆◇
「凛子~今日ハヤテくん遊びに来られるって、今お返事が来たわよ~」
既に朝ごはんを食べ終わっている由利江ママは、NYAINの通知が鳴ったスマホを手に取り、目の前でパンケーキとフルーツを頬張ってる凛子にそう告げた。
「んーーーー…やったぁ!!」
喉にパンケーキを詰まらせそうになった凛子が、ぐいっと牛乳を飲んで喜びの声をあげた。
『えええええ…もう早速侵略しにくるの?…最悪にゃんですけど…休みの日は毎日雨だったら良いのに…』
ソファーの上でくつろいでいた私は、サッと窓際まで行きお庭を見る。
あー今日は本当にいい天気でお庭日和ですわ…
ため息まじりにリビングの端に置いてある爪研ぎボードへ向かい、無心になって爪を研いだ。
◇◆◇◆◇
おひさまが真上から少し沈み始めたころ、呼び鈴の音とともに歓迎しないお客がやって来た。
「由利江さん、凛子ちゃん、今日は早速お声をかけて下さって、お招きいただいて、ありがとうございます。ココちゃんもハヤテと仲良くなってくれると嬉しいわ~」
手に持った袋を由利江ママに渡して、丁寧にご挨拶をしたあとに、スッとしゃがんで凛子と私に微笑みかける。
仁美さんの後ろから恐る恐る顔を覗かせるのは、例の駄犬。確かハヤテとか言った名前だったかしら?
こちらを必死に見ているようだけど、私は目の端で確認して見てないふりをした。
◇◆◇◆◇
『わぁ~少ししかちゃんと見られなかったけど、やっぱり近くで見ると本当に綺麗な金色のキラキラだ!』
僕は思わず見惚れてしまった。こっちに目を合わせなくて、ちょっと怒っているような匂いはしたけどね…
凛子ちゃんの髪の毛に付いてた不思議ないい香りは、ココちゃんの匂いだったんだ!
何故だかシッポを振る勢いが止まらないよ!
「じゃあ仁美さん、早速お庭で遊ばせましょうか?凛子もハヤテくんもソワソワとしてることですし」
ママさんはそう促して、仁美さんからいただいた袋を玄関の横の部屋に持っていくと、直ぐに姿を現してお庭を案内してくれた。
「ハヤテくん!早く一緒にお庭を走ろうよ!」
どうやら凛子ちゃんは遊びなれたココちゃんよりも、新顔の犬の僕に興味津々らしい。
髪の毛を1つに結び帽子をかぶり、庭遊びに最適そうな格好をして待ちきれない様子。
凛子ちゃんからママさんに預けられ、抱き抱えられたココちゃんの方からは、玄関で顔合わせをした時よりもさらに張り詰めた匂いがして、どうするのが正解かわからずにいた。




