3話. なんでこんにゃやつと!!
由利江ママと凛子が帰宅してしばらくの時間が経った。
手洗いとうがいをサッと済ませて、凛子は自分の部屋に飛び込んでくると、窓辺に私がいないことに気付いて辺りを見渡す。
布団の中やベッドの下、椅子の下や机の下などを名前を呼びながら探し回り、背の高いクローゼットの上に丸まっている私を見つけ出した。
『真っ黒い姿って、隠れるのに本当に便利よね』
私を探す凛子を眺めながら、かくれんぼをしているようで少し楽しくなっちゃったわ。
「ココ~ただいまぁ~。なんでさっきはいなくなっちゃったのぉ~? 降りてきて遊ぼうよ~」
私に向かってそう呼びかける。
『さっき…そうよ、さっき私見てたのよ!あんにゃ薄汚い犬を相手にニコニコ嬉しそうにしちゃって!帰ってくるのが遅いから心配してたのに!』
窓辺から見ていた犬と戯れる光景を思いだし、何だかまたムカムカしてきたわ!
私は、相変わらず涼しげに無視を決め込む。
凛子は相変わらず私を呼び寄せようと、お気に入りのオモチャをチラつかせたり、おやつを持ってきてみたり、試行錯誤をしながら奮闘中。
「ココ~おいでよぉ~なんで今日はそんなに不機嫌なの~??」
私は相変わらずクローゼットの上で丸まりながら、ピョンピョンと届きもしないジャンプを繰り返しては哀願している凛子を冷やかな眼差しで眺めていた。
『はあ…あまり意地悪してもかわいそうよね…凛子が悪いわけではないし』
いよいよこれは凛子も泣き出してしまうのでは?
私は渋々床に飛び降り、少し不貞腐れて小さなほっぺたを膨らませているかわいいご主人様の足に擦りよった。
あっという間に機嫌がなおった凛子は、私を抱きかかえて嬉しそうに1階のダイニングへと向かった。
『不貞腐れてて忘れてたけど、もうお夕飯の時間だったわね!』
危うくハンガーストライキと決め込むところだった自分のお腹がペコペコだったことに気付いた。
◇◆◇◆◇
1階のダイニングは、ママさんがお料理を作る姿から、パパさんや凛子がテレビを見ながら寝っ転がるフカフカのソファー、椅子が8脚も並ぶ大きなテーブル全てが見渡せる広さがある。
床には私の毛並みに負けないとばかりのふわふわの絨毯が敷いてあった。
天井にはキラキラの石がたくさん付いてるシャンデリアというものが2つ。
昼間はおひさまでピカピカと輝き、夜はおひさま以上に明るくなってまたピカピカと輝き出すの!
私も少し前までは風に揺れるキラキラをどうにか取ってやろうと、椅子から跳んでみたり、机から跳んでみたりとチャレンジしたけど…
机の上の器を蹴っ飛ばして割ってしまい、いつもは優しいパパさんから大目玉を食らってからは、敢えて目に入らないように、興味を持たないように自制しているの。
『さて、待ちに待ったお食事の時間よ!今日はどんなご馳走なのかしら?』
ペロリと舌なめずりをして凛子の隣にある私専用の高さの椅子に跳び乗る。
机にはみんなとお揃いのランチョンマットが敷いてあって、中央には綺麗なお花がかざってある。
ママさんがお庭で育てているお花を採ってきては飾っているみたい。
私のランチョンマットの上には、素敵な蝶々の絵柄が描かれている私専用の器があるの。
実はこの器は2つ目で…1つ目は天井のキラキラを取ろうとして割ってしまったのでした。反省…。
いつもご飯はママさんか、たまにお掃除とかお料理のお手伝いにくる咲子さんというおばさまの手作りなの。
今日は咲子さんが作るお料理の日だったわ。
凛子達の食べる料理といつも違うけど、私だけ特別な料理が出されていて申し訳ないわね。
私は意味不明な優越感にひたっていた。
「いただきます!」
食べて良いですよの合図とともに皆で一斉に食べ始めた。
早々と食事を終えた私は毛繕いをしながら、せわしなく後片付けをしながら動く咲子さんを横目に、ママさん達の会話を何気なく聞いていたの。
「今日ね、お隣にお住まいの渡邉さんとお知り合いになったのよ!」
少しお酒を飲んだママさんが、ほんのりとほっぺたを赤くして楽しそうに今日の出来事をお話ししている。
「奥様、仁美さんておっしゃって、ご主人の転勤とともに田舎のご実家で飼っていたかわいい柴犬ちゃんも一緒に引っ越していらしたんですって」
そこに凛子も嬉しそうに参戦して
「ハヤテくんっていうんだよ~!すっごくかわいいの!」
今日出会った駄犬のことを、名前はハヤテだとか、いっぱいナデナデしたんだとか、あれやこれやと楽しく話し始めた。
『そんな犬の話なんて私不愉快なだけかしら!聞いていられにゃい!』
と椅子から飛び降り、奥のソファーで休もうと歩きだした。
そこへ追い討ちをかけるように、ほろ酔いになってご機嫌のママさんの言葉が聞こえた。
「あちらのお家のお庭が狭くて、ハヤテくん田舎育ちで元気いっぱいで、お散歩が大変らしいのよ~。今日もずいぶん遠くまで付き合わされて、クタクタになって帰っていらしたみたいで。だから、都合が合う日はうちのお庭で存分に遊ばせてあげたらどうかしら?」
『にゃ!?にゃんですと!?』
思わずママさんの方を二度見しちゃったわよね。
なんて信じられないことを提案するのかしら?
『あんな駄犬が私と凛子の神聖なこの家の庭で走り回るなんておぞましい!!』
口をあんぐり開けて、固まってしまったかのように、会話を楽しんでいる3人の食卓の方を眺めていた。
「でもなぁ…俺は良いとしても、うちにはココがいるだろ?犬と猫って相性が悪いんじゃないのか?」
キャーーーパパ様ナイスアシストなのよ!!!そのままちゃんと断って!私のためにも!!!
真剣な眼差しでパパさんを見つめる。
「でも~、猫と犬を一緒に飼ってるお家もあるじゃない?ココは賢くて良い子だし、渡邉さんのところのご主人、出張が多くて仁美さん毎日のお散歩も大変みたいなのよぉ。ほら、ハヤテくんまだ幼いし元気いっぱいだから~」
パパさんのアシストも虚しく、ママさんが追い討ちをかける。
そこに更に凛子の援護射撃が炸裂する。
「ココはきっとハヤテくんと仲良しさんになれるもん!ココは優しい子だもん!」
凛子にまでそう言われたら、パパさんなんてもう言いなりだわ…
それに私まで駄犬を邪険に扱えないじゃないの!
「まぁ、ちょうどココが自由に遊べるように、庭の塀も高くしたことだし、お前達がそう言うなら良いんじゃないか?それにしても、仲良くできそうなご近所さんで良かったなぁ」
私の願いなんて届くはずもなく、呆気なくハヤテの庭遊びについての話はついた。
『はぁ…なんて今日は最悪の1日なのかしら…』
3人の話を聞いてるだけでも、先が思いやられてうんざり。私はソファーから降り、凛子の部屋のベッドまでとぼとぼと歩いていった。




