26話. 悲喜こもごも
ブチの後ろをトコトコとついていくと、寂れた小さな公園にたどり着いた。
砂がいっぱいある場所と、凛子の物とは違って汚れたブランコ、壊れかけのベンチ、そして入口近くにはトイレとしか思えない匂いを漂わせた縦長の大きな箱があった。
「オイ、えっと……ココだっけか?そこのトイレの裏の木陰に隠れて、俺がいいって言うまで静かにしとけよ」
そう言うと、ブチは壊れかけのベンチに座ってくつろぎ始めた。
私はそのトイレの臭い匂いに耐えつつ、疲れた足を癒すように腹這いになった。
しばらくすると、1匹、2匹、3匹と野良猫らしき猫たちが遠巻きに集まってくる。
すると、おばあちゃんよりは若いおばさんくらいの人が来て、新聞紙をおもむろに広げた。
ブチはもちろんのこと、集まってきていた猫も逃げる気配はない。
『何をするのかしら?』
そんなことを思いながら眺めていると、新聞紙の真ん中に美味しそうな匂いのする缶詰を2つ開けて置いた。
周りの猫たちは「ナァ~ナァ~」と甘い声を出して近づいていく。
そして、うっすら豆腐の匂いのする四角い容器に水を入れて、カサカサと乾燥した小魚を袋から出した。
そのおばさんは、ブチの言っていたたまに餌をくれると言う人なんだろう。
少し前までブチが座っていたベンチに腰かけて、ご飯を食べている猫たちをボーッと眺めていた。
食べ終わるのを見届けると、新聞紙ごとゴミをまとめて手に持ち、来た道を戻っていった……
ご飯を食べて満足したブチたちは、手や顔を舐めて洗ってくつろいでいた。
「オイ、お前らさ……ちょっと相談があるんだが、聞いちゃあくれないか?」
3匹の猫たちは何だとばかりにブチを見る。
「犬の体をした猫がいるって言ったら…信じるか?」
一瞬間が空くと、3匹が一斉に喋り出した。
「おいおい、ついにブチの頭がおかしくなったぜ」
「冗談もアンタの柄くらいにしてほしいにゃ」
「すげー!そんな犬いるのぉ!?」
ブチはため息をつくと「そりゃそうだよな」と呟き、3匹に言った。
「俺もな、信じられなかったんだけどよぉ……これが本当にいるんだわ。そして助けてほしいと言ってきてるんだよなぁ」
そして3匹に「頼むから逃げないでくれよ」と言うと私のことを呼んだ。
私はトイレの裏からゆっくりと顔を出し、怖がらせないように少し離れた場所で腹這いになった。
「クゥ~ン(助けてください)」
そう言ったときの3匹の驚きといったら!
「俺まで頭がおかしくなったのか!?」
「し…信じられないにゃん!」
「すげー!本当にいるんだ!」
逆にビックリしすぎて動けない風情もあったけど、どちらかというと興味津々という匂いがした。
薄汚れた体、そして質素でたまに与えられる餌で生き長らえている……全く自分の知らなかった世界。
しかもその猫たちに頭を下げて『助けてください』と言っている自分自身にも驚愕した。
ブチが私のところに来て、男の袖の切れ端を咥えて3匹の元へ戻り、切れ端を地面に置くと話を続ける。
「この匂い、どこかで嗅いだことあるか?なんか、こいつのご主人様の子供がさらわれたらしいんだわ」
3匹は顔を合わせて匂いの記憶を辿っているようだった。困惑したような匂いが漂ってくる。
『3匹とも知らないのかな……あぁ…どうしよう…』
今にも泣き出しそうな気持ちでいたとき、急に声をあげた猫がいた!
3匹の中で一番口の悪い猫。
茶色と白の縞模様で、片耳は半分ちぎれたような形、お腹は元は白だったのだろうという色の猫が目を輝かせて喋り出した!
「あ!その匂いのヤツ!多分アイツだ!日向ぼっこして休んでたら車で来てよぉ~俺に向かってタバコ投げて来たんだぜ!」
その場面を思い出したかのように、その猫からはイラだった匂いがした。
「お願い!その場所まで連れていって!時間がないの!」
私が興奮して近寄ると、その猫はビックリしたように跳び上がって、少し怒っていた。
「あ……ごめんなさい!興奮しちゃって…」
謝る私を横目にブチはニヤリと笑ってその猫を見る。
「オイ、ボス~お前さぁ案外ビビリなんだな」
どうやらその茶色い猫は『ボス』と呼ばれているらしい。
ボスは「フンッ」と鼻をならすと、
「流石に犬の格好で急に来られたらお前だってビビるだろうさ!」
そう言ってボスは頭をかいた。
「よし!連れてってやるよ!お前らみんなも付き合えよ!」
ボスがクルリと向きを変えて歩き始める。
ブチは私に「なんとか近付けそうでよかったな」と優しくささやいた。
私を気遣ってくれている匂いが嬉しかった。
「退屈してたし、面白そうだからついてくにゃ~」
「ぼくも行く!」
4匹の味方をつけて凛子を探しに行くことができた。
「ワン!ワン!(ありがとう!本当にありがとう!)」
4匹に聞こえるように少し大きい声でお礼を言ったら、4匹ともが一斉にビックリして跳び上がっていた。




