25話. 暗闇に忍ぶ影
車は興奮気味で喋り続ける男二人と、憔悴しきってぐったりとしている凛子ちゃん、そして最後尾の座席の下で息を潜める僕をつれて走っていた。
車が曲がったと思ったら、なだらかな道からガタガタジャリジャリという道に変わった。
しばらく進むと車が停車する。
「着いた着いた。車を乗り換えるから、そのガキ連れて来い」
運転席の男がそう言ってエンジンをつけたまま車から降りる。
「センパイ、ドア開けてくださいよ~。ガキとはいえ寝ちまったらしくて……重くて無理っす」
車を降りた男はスライドドアを無造作に開けると、ジャリジャリと音を立てて歩きだした。
凛子ちゃんを抱きかかえ、その男も降りていった。
両手がふさがっているせいか、ドアは開けたままだった。
2人が座っていた席には、男が汗を拭いたと思われる薄汚れたタオルが落ちていた。
僕はそれを咥えてサッと出て、車の下に姿を隠した。
ガラガラと音を立ててなにかが開かれている。
そっと覗いたその先には、今度は白い似たような大きな車。外はもう暗くなってきていたけど、僕はできるだけ足音を立てないように忍び足でその車に近付いた。
――ジャリ――
足元でイヤな音が出てしまった。
焦っていったん足を止めたが、凛子ちゃんを抱いている男のジャリジャリとした歩く音で気付かれてないようだった。
先ほど運転していた男が、白い方の車に乗り換える。
僕は男がドアを開けて乗り込んでいる隙に、その白い車の下に滑り込んだ。
『あ……あぶなかったぁ……見つかるとこだった!』
一息つくのもつかの間、白い車がゆっくりと動き出してしばらく進むと止まった。
僕もその動きに合わせて前へ進んだ。
「オマエ、そのガキ車にのせたら、あっちの車をこの中に隠せよ」
「はいはい。了解っす」
そう言うと白い車のスライドドアを開けて、凛子ちゃんを押し込む。
凛子ちゃんはぐったりとして静かなままだった。
僕は咥えていた男の汚いタオルを白い車のタイヤ近くに置き、開け放たれているドアからスッと乗り込む。
最初に乗っていた黒い車はしまわれ、またガラガラという音とともに見えなくなった。
凛子ちゃんの横に、その男が乗り込んでドアを閉める。
「センパイ、終わりましたよ。さすが用意周到ですね~」
「オマエ、バカじゃないんだから、同じ車で走ってたらすぐに見つかるだろうが!」
そう言うとまた車はどこかに向かって走り出した。
僕はまた新しく乗り換えた車の後部座席の下に身を潜め、丸くなってじっと動かないようにした。
男の匂いがするものを置いてくることができた!
僕の体のココちゃんなら、匂いを手がかりにして探してくれるかも知れない!
もう外は暗くなってきていた。
目がよく見えるようになり、僕の出番なのかもしれない!だけど、車に乗っているしかできない悔しさにイライラとした。
『とりあえず今ココちゃんの鼻が頼りだ!僕は少しでも多く色んな事を聞いて、できる限りの協力をしないと!』
車を乗り換えて楽しそうに鼻歌を歌いながら運転する男。
凛子ちゃんの側でプカプカとタバコを吸い始めた男。
八つ裂きにしてやりたい気持ちを抑えるのに必死なくらいだった。
「とりあえず早くアジトに着いて電話しないとな~。もう警察呼ばれてるかも知れないけどよぉ…あまり大事にされると動きづらいんだわ」
運転している男が頭をかきながら言う。
「センパイ、もう身代金の受け取り方とか決まってるんっすよね?」
なんともすっとんきょうな事を聞く男だ。
「ほんと……オマエ、バカかよ……何も考えないでやるなんて、速攻捕まえてくれってもんだろが!」
「そうっすよね~あははは」
くだらないやり取りに僕まで溜め息が出そうだった。
「闇バイト!あれって超便利なんだよ!微々たる金欲しさにバカが集まる集まる!」
ガハハと下品な笑いが車のなかに響きわたった。
目を覚ました凛子ちゃんが、大きなテープで覆われてしゃべれず、手足も縛られている状態なのに気付いて「んー!んんー!んー!」と声にならない声をあげ始めた。
「お嬢ちゃん、静かにしてればお兄さんたち優しいからね~。騒いでもどうにもならないこと、もうその位の歳ならわかるでしょ?」
気持ちの悪い声色を使って話しかける。
凛子ちゃんから漂う恐怖の気配……
『僕がここにいるから安心して!』
そう伝えることもできないまま、後部座席の下で苦虫を噛み潰したような気持ちで隠れ続けた。




