23話. 混乱…そして出会い
私はそっと隠れたまま、追いかけてくる人がいないかしばらく息をひそめていた。
連れ去られた凛子の事は何よりも心配だけれど、ケガをして取り残された由利江ママも心配だ。小道を戻って家の方へ向かう。
ただ、連れ戻されては凛子を取り戻しに行くこともできなくなるため、私は隠れてチラッと家の方を確認して、遠くからそっと聞き耳を立てた。
赤く点滅するいくつもの光のなか、紺色の帽子と同じ色の服を着た人と、白い帽子を頭にかぶった薄い青色の服の人が集まって、由利江ママを囲むようにしゃがみこんで話をしている。
やはり足がかなり痛いのか、立つこともできずに座ったままでいた。
周りには慌ただしい空気と、強烈な不安の匂いが漂ってきていた。
「すみません!友人なんです!隣の家の!」
大きな声で人をかき分けて仁美さんが来た。すぐに由利江ママの横にしゃがみこむ。
「由利江さん!大丈夫?!大きなケガはしていない!?凛子ちゃんは!?」
仁美さんの汗の匂いと、心から心配しているのが見ただけでも充分に分かる状態だった。
由利江ママは仁美さんにすがり付く。
「ひ…仁美さん…り…凛子が…」
「うん、うん、ゆっくり深呼吸して落ち着いて。大丈夫よ、私はずっと側にいるわ!」
仁美さんは優しく由利江ママの肩をさすっている。
「連絡をもらって、もう帰り道だったから、直ぐに来れて良かった…。ご主人の方とは連絡取れてるのよね?何か手伝えることはある?」
「え…ええ…今は海外に行ってるけど、急いで帰るって…あ、ハヤテくんが…凛子を助けようと…蹴られちゃって…け…ケガをしてなければいいけど…あ…ハヤテくんの姿も見えない…」
本当にどこまでも優しい由利江ママだわ。
そう思いながらも、非力だった自分に怒りと悔しさがあふれ出してくる。
「ハヤテ?ハヤテなら大丈夫よ!あの子は田舎の山育ちだし強いよ!心配してくれてありがとう!こっちは気にしないで、まずは凛子ちゃんの事を考えよ!」
ハヤテの事まで気遣う由利江ママに、仁美さんは励ますように元気に答えた。
「あ…ココ、ココもいなくなってるわ!…あの子も外に飛び出して来ていたの…」
凛子だけでなくココまで見失った由利江ママからは、言葉にあらわせないほどのツラい匂いがしていた。
「奥さん、とりあえずケガの状態を確認しつつ、病院でお話を伺います。ご友人の方もご一緒していただくことは可能ですか?」
「もちろんです!由利江さん!一緒に行くから安心してね!」
そう言うと、薄い青い服の人達に抱えられて立ち上がった由利江ママは、支えられるようにして白い大きな車に乗せられていった。仁美さんもそれに続く。
けたたましい音と赤い光を点滅させた白い車が走り出すと、残された数人の紺色の服と帽子をかぶった人達は周りを色々と調べ回っていた。
◇◆◇◆◇
『由利江ママには仁美さんが付いているから大丈夫そうね!私は急いで凛子を助けに行かないと!』
お日さまは少し陰りだし、歩いている人の数も減ってきていた。それでも、人目につかないように入れそうな路地裏や狭い道を通って行った。
車を見失った大通りの近くにたどり着き、周りを見回すと、車の行き来も少なくなって人の数も減っていた。
口に咥えている男の袖をいったん足元に置き、鼻から息を大きく吸い込む。
匂いを辿ろうとするけれど、やっぱり車の嫌な匂いに殆ど消されてしまい、どちらの方向に行ったか見つけ出すことができない。
匂いに集中しながら周りを観察していると、あることに気づいた。
車が止まると人が向こう側に歩いて行ってる!
『よし!今だ!』
車が止まり数人の人が歩きだしたタイミングで、足元に置いた男の袖を再びしっかり咥え直して私も走り出す。
向こう側に渡りきった!
そして、そのまま隠れられそうな場所を探して身を隠した。
また鼻から大きく息を吸い込み男の匂いを辿る。
焦りなのか、気のせいなのか…少しだけ匂いが強くなった気がしたけれど、不安は消すことができなかった…
「クウゥーーン…(凛子ぉ…どこにいるの?)」
匂いが強くなった気がする方向へと、人の目を避けながら走り出す。息も少し苦しくなって、一呼吸おくために立ち止まった。
「クウゥ~ン…(凛子…)」
近くの塀から張り出した木の葉がガサガサと鳴り、ビックリして見上げると、葉の隙間から猫の目のようなものが見えた。
「オイ…お前…姿は犬だよな?…なんで猫語で鳴いてるんだよ!?」
怯えた匂いとともに、その猫が話しかけてきた。




