21話. 忍び寄る影と喪失
お互い衝突する位置が滑り台の階段の真横になるように、僕とココちゃんは距離を取った。
「思いっきりいくから、アンタ前みたいに絶対に避けないでよ!」
「わかってる!今度こそきっと僕たち元通りだよ!」
痛いだろうな、ちょっと怖いな、という気持ちをこらえて僕は心の準備をする。
きっとココちゃんだって、前の痛さ覚えてるだろうし…痛いのも怖いのも僕だけじゃないはず!
「じゃあ…行くわよ~…せーの!」
その掛け声とともに、僕もココちゃんもお互いを目指して走り出した!
ちゃんと滑り台の階段の横でぶつかるんだ!
―ドンッ―
激しい衝撃とともにひっくり返り、鈍く襲ってくる痛み…頭がクラクラしてキラキラと視界が眩しくなった。
『このキラキラはあの時と一緒だ!』
涙目になりながらもココちゃんが大ケガをしてないか、ちゃんと元に戻れたか心配になって声をかける。
「ココちゃん大丈夫!?大ケガしてない?」
僕が発した声はかわいらしい猫の声だった…
僕の猫の声を聞いたココちゃんも、フラフラと座り込んだままうなだれ、失敗したことを理解したようだった。
「う…うまく…いかなかったね…でも、もういち…」
「何度やっても!きっと、この方法じゃ戻れないのよ!アンタもそう思ってるんでしょ!?」
僕が全てを言うより先に返事が返ってきた。
それからはお互いになにも言うことがなく、しばらく黙って座り込んでいた。
どのくらいの時間が経ったんだろう…どうしたらいいかもわからず、思い付くこともないまま、確実に今のままの生活が続くということだけは理解できた。
「とりあえず…このままここに居られないから、私は帰るわね。家に戻るのも大変なんだから、アンタ手伝いなさいよ!」
突然ココちゃんがそう言いだし、僕がはっとして見たときには、既に背中を向けて歩きだそうとしていたところだった。
トボトボと歩くココちゃんの後ろをついていく。
何か他にできることはないのかな…と考えながら僕たちが入れ替わってしまった滑り台の方にチラリと目を向けると、視界の端に黒い何かが見えた。
お庭の扉の隙間から見えた外の道路には、黒い大きな何か…
僕は鼻がきかないので、それが何なのかよくわからないままココちゃんのあとを追う。
ココちゃんも顔を強くぶつけた影響か、ショックのためなのか、匂いについて何も言ってこなかったので、特に気にしないことにした。
◇◆◇◆◇
遠くから凛子ちゃんとママさんらしき声が微かに聞こえてきた。
「ココちゃん!もうすぐママさん達帰ってきちゃいそう!」
「え!?もうそんな時間になってたの!?」
慌てて抜け穴に向かって走り出したココちゃんと僕。
急いで穴に顔を突っ込んだココちゃんだけど、相変わらずシッポとお尻がつっかえた。
僕は入ったときと同じように、手と顔を使ってココちゃんを押し込む。
―チャリチャリ―
鍵が当たって鳴る音と、ほぼ同時にお庭への扉が開く…
「ハヤテ!凛子を助けて!!」
何かの匂いに気づいたのか、突然ココちゃんが叫んだ!
僕はその叫びを聞くやいなや、扉の方に向かって走り出していた!
扉の隙間から何かが見えていたのに!僕はバカだ!
そして、突き飛ばされたように扉から勢いよく倒れ込んでくるママさん。
「いやーーーっママ!ママ!誰か助けて!!」
凛子ちゃんの声の方に向かって、ママさんのすぐ横を走り抜けて飛び出す!
「シャーーーーッ!!!」
牙と爪をむき出しにし、シッポを大きく膨らませ、必死にもがいて逃げようとしている凛子ちゃんを車の中に引き込もうとしている男に飛びかかる!
男は僕を払いのけようと、手を大きく振りかざした!
『そうだ…今の僕は非力な猫…』
そう思った瞬間、穴を抜けた先の通路から走り出したココちゃんが僕と男の間に飛び込んできた!
怒りをあらわにして牙をむき出しにしていた。
「ヴゥーーッ!ワンワン!!」
凛子ちゃんを引っ張っている男の腕に向かって牙を立てる。
一度男の服の袖が破れて離れたが、再びココちゃんは飛びかかる!
「アンタは車に入って!!」
ココちゃんに言われて、僕は隙を狙って車の後部座席に滑り込んだ。
ママさんは、扉におでこを強くぶつけて血が顔に流れ、足も痛めたようで立ち上がれなかった。
青白い顔をして、震える手で電話をしている様子だった。
凛子ちゃんも、連れていかれてなるものかと、必死に抵抗してもがいている。
男は離すまいと噛みついているココちゃんを蹴り飛ばし、凛子ちゃんを抱え込むと「オイ!早く車を出せよ!!」そう運転席の男に命令し、スライドドアが閉まるよりも前に走り出した。
僕は男たちに見つからないように、後部座席の3列目で息を殺し、泣きじゃくる凛子ちゃんを助けることもできないまま途方にくれていた。




