17話. 気になること
小屋の屋根の上でうとうととしていたら、車がゆっくりと走ってくる音がして目が覚めた。
お日さまは沈みだして、薄暗くなり始めていた。
その車は近くに停まると窓を開けたらしく、お散歩の時に嗅いだ男の人と、もう1人別の男の匂いが混じって漂ってきた。
『なんか…嫌な匂いがする人達ね…』
そんなことを思いながら匂いの先を見る。
「ウゥー…ワンワン!」
そこにいられるのが気に入らなかったので威嚇をして吠えると、すぐに車は出発してどこかへ走っていった。
◇◆◇◆◇
しばらくすると、規則正しく歩いてくる足音と、晃樹さんの匂いが漂ってきた。
「お!ハヤテ!小屋の屋根に登ったのか~」
帰ってきた晃樹さんが、威嚇して緊張したまま座ってた私に声をかける。
そして、小屋の横で割れていた植木鉢を見つけると
「あちゃー、お前屋根に登りたくて植木鉢使ったのかぁ~頭いいんだなぁ!でも、もうこれは割れちまったから使えないぞ」
登れた喜びで気付いていなかったけど、どうやら衝撃で植木鉢は割れてしまっていたらしい。
さて、困った…試しに登るだけだったのに、使えなくなっちゃったわ…
その破片を片付けている姿を見つめながら気まずそうにしていると、晃樹さんは私の方を見上げて軽くため息をついた。
その匂いは決して怒っているような感じではなかった。
「あっちの家でもよく屋根に登ってたのか?とりあえず壊れないような足場を用意してやるから、もうすぐご飯だから降りてこいよ~」
そう言って、植木鉢の破片を手に持って家の中に入っていった。
私は言われた通りに小屋の屋根から飛び降りたけど、猫の感覚でいたものだから…
着地したときのあまりの衝撃にビックリ!思わず尻餅をついてしまった。
「ただいまー」から始まり、晃樹さんと仁美さんのしゃべっている声が微かに聞こえる。
「なんか、ハヤテさ~小屋の屋根に登りたくて、植木鉢使って登ったみたいだぞ~アイツ頭良いんだな~。あ、これ、もう枯れてたやつだし、別に大丈夫だろ?」
「あ、それ?あはは、全然大丈夫~新聞紙に包んでおいてー。私には花とか育てるの向かないわ~。でも、ハヤテ凄いね!そう言えば、今日のお散歩でも木の枝持って帰りたがって…やっぱり田舎での生活が恋しいのかなぁ…」
2人はまさか家から脱出する計画のためとは思っておらず『本当にいい人たちなんだなぁ…』と私は少し胸が痛くなった。
しばらくすると、木でできた踏み台を小脇に抱えて、ご飯の器を持った仁美さんが出てきた。
いつもの号令とともに、いつもと同じポロポロのご飯を食べ始めると…
「ハヤテ~小屋の屋根に登ってたんだって?おばあちゃんにも、なかなか会わせてあげられなくてごめんね…おじいちゃんと暮らしたお家が懐かしいよね…」
悲しそうないたわるような匂いをさせて、仁美さんが頭をなでてくれていた。
『アイツ…そんな悲しい別れを経験してこの家に来てたんだ…あんなに元気いっぱいでいたのに…知らなかったわ…』
胸が少しキュッとなった。
仁美さんはキレイに食べ終わった器を持つと、持ってきていた踏み台を小屋の横に置いてくれて、
「おやすみ~ハヤテ、また明日ね」
そう言って家に戻っていった。
私はさっそく置いてくれた木の踏み台を試して、小屋の屋根に登ってみた。
植木鉢よりも少し高くて、足場も広くなって登りやすかった。
屋根の上からアイツのご主人様の住む家、そして凛子達の住む家を見渡す。
外は暗くなり、私の周りも街灯の薄暗い光しかなく、2つの家の窓を内側から照らす明るい光が、今日はやけに眩しく見えた。
私は寂しさをまぎらわすかのように、胸いっぱいに匂いを吸い込んだ。
まだ近くを漂っていた優しい、優しい匂いを逃がさないように。
でもその奥で、ほんの少し残る嫌な匂いが不愉快で心がザワザワとした…
そして今度は踏み台を使って屋根から降り、アイツの匂いがする小屋へと入った。
『この奥にある、汚れて草木や土の匂いのするおもちゃって、仁美さんが言ってた昔のご主人様との思い出のおもちゃなのかな…』
何となく抱きしめたい気持ちになり、咥えて奥から引っ張りだすと、手で抱えたまま丸くなって眠りについた。




