14話. 試行錯誤
「また明日の夜に来るからね!ココちゃんおやすみ!」
そういって走って戻っていったハヤテ。
そうか、私をわざわざ心配して会いに来てくれたんだ。結構いいやつじゃん…
『暗いなかで1人ボッチで寂しかったから、声が聞けてちょっと嬉しかったな…いやいや、寂しさが私にそう思わせてるだけよ!』
頭のなかに浮かんできた変な感情を鼻でフンッと笑い、小屋のなかで丸くなった。
そして、優しいハヤテの匂いに包まれて、昨日の夜よりほんのちょっとだけ、安心して眠ることができた。
◇◆◇◆◇
「おー今日は珍しく寝坊助だなぁ~ハヤテ朝ごはんだぞ~」
家から出てきた晃樹さんが、いつもと同じご飯の器を目の前に置いた。今日も山盛りのポリポリである。
「待てよ~…よし!」
『はいはい、いただきますとも』
犬の舌になりつつあるのか、普通に食べた自分に少し恐ろしく思いながら完食。私って意外と順応性高かったのね。
「おー今日も元気そうでなによりだ!」
晃樹さんは私の頭を撫でて家に戻ると、また直ぐに着替えて急ぎ足で会社へと出掛けていった。
仁美さんが見送りをしてないところを見ると、寝坊でもしたのかしら?
私も夜更かしして眠いからもう一眠りしましょ。
小屋のなかで丸くなりウトウトとしてると…
『カシャン』
柵に何かが当たったような音がして、ハヤテの声が聞こえてきた。
「ココちゃん!ココちゃん!起きてる!?今ちょうどママさんと凛子ちゃんが幼稚園に行ったから、少しだけ話しに来たよ!」
ずいぶんと朝から元気なものですわ…
仕方なく私も小屋からのそのそと出て、ハヤテの声のする壁の方へ向かう。
「ねぇ、どうにかして、こっちに来ることはできないかな?この前はぶつかったの1回で止められちゃったし、あの滑り台の近くでもう1度ぶつかるの試してみたいんだよ!それしか思いつかなくて…」
その声からは私を想う優しい匂いと、焦るような匂いが混じって漂ってきた。
そりゃまあ、考えてもどうやったら本当に戻れるかなんて思い付かないわよね…私もそうですもの。
「でも、犬なんて全然高く跳べないじゃない!(初日に失敗したしね…)こっちからは絶対に無理よ!」
痛かった鼻の頭を思いだし、気恥ずかしい気持ちになって、後ろ足で体を掻きながらそう答える。
「ねえ、ココちゃん側から抜け道みたいなところはないかな?猫の足じゃあまり掘ることもできないんだよ…」
『確かにトイレの砂以外はまともに掘ったことないわねぇ…』なんて思いながら、ハッと気付く!
「もしかしてアンタ、ママさんの花壇とか掘ってないでしょうね!?それも私の細くてキレイな手なんだから汚さないでちょうだいよ!」
気まずそうな匂いとともに、ハヤテが息をひそめたのがわかった…
『あーあ、やっちゃったのね…まぁ仕方がないことかもね』と気持ちを落ち着かせて呼びかける。
「とりあえず、こっちの方でどこか抜け穴になりそうなところ探しておくわ!とにかく、アンタは先に散らかした花壇とか穴とかどうするか考えなさいよ~」
一瞬でテンションが変わったのを感じるほど、ハヤテは本当に素直なんだななんて、少し感心しちゃったわよ。
「うん、わかった…なんかココちゃん、また怒られるようなことしちゃってごめん…じゃあ、抜け道になりそうなところ見つけたら教えて!なんか色々よく聞こえるから直ぐに来れるよ!猫ってスゴいね!また来るね!」
柵から手を離した『カシャン』という音とともに、芝生を軽快に走る音と、何かを必死に掘っているかのような音が聞こえ、うっすらと焦っている匂いも漂ってきた。
『よし!とにかく、私は私で行動を起こさないとね!アイツにばかり心配されるのシャクに障るし!』
家の壁の周りを念入りに、抜け出す方法がないかと調べながら歩き回った。
なぜだか所々に点々とハヤテが掘り返したであろう穴がいくつかある。
その中でも家と壁の間、室外機が置かれている狭いスペースの奥に、壁に向かって掘りかけている穴があった。
『この穴、もしかしたら行けるかも!』
試しにその穴をより深く掘り進めてみるが…掘っても掘っても下には壁があった…
『もう!ハヤテのヤツったら、変な期待させて!無駄に頑張って掘っちゃったじゃないのよ!もう今日は疲れたしおしまい!もう少ししたらお散歩に連れていってもらえる時間になるだろうし…明日また何か考えるわよ』
眠くなってきてショボショボする目を擦りながら、小屋に戻るとまた横になり目を閉じた。




