10話. こんな生活耐えられない!
日も陰り始め、ハヤテの姿のまま仁美さんに連れられ、直ぐ隣の家まで来た(帰った)私。
狭いお庭の中にある、小さな箱のようなハヤテの匂いが染み付いたところに連れてこられた。
「今日は最後どうなるかと思ったけど、楽しかったね~。ハヤテも疲れたと思うから、ゆっくりとご飯まで休んでてね~」
そう言って私を置いたまま、玄関の鍵を開けて家の中に入ろうとする。
『え?待って!ちょっと待ってよ!こんな所で私だけ置いたまま家に入るの!?』
仁美さんの足に『冗談じゃない!』という気持ちでしがみつく。
「なに~?ハヤテまだ遊び足りないの?もう私は疲れたから家で休むよ~」
しがみついていた私を優しく引き剥がすと『また後でね』と言って家に入ってしまった。
『いつもは凛子と暖かい布団の上で、一緒に寝ていたのに!こんなところで一人ぼっちなの!?これ!?これが私の家!?』
お日さまはどんどんと沈み始め、夕暮れの風に乗って色んな食べ物の匂いがしてくる。
あいにくハヤテの体は寒さに強いのか、冷え込み始めた空気はそこまで気にはならなかった。
『だけど、こんな殺風景な小屋のところに置いてきぼりなんて…ひどいわ!逃げ出して元の家まで戻ろうかしら?直ぐ隣だもの!』
そんなことを思って、となりの我が家の庭へ向かって助走をつける。
助走をつけるにしても、なんて狭い庭なんでしょう…
『でも、こんな低い壁なんて!私のジャンプ力ならひとっ飛びよ!』
―ドンッッッ―
「キャン!!」
壁に思いっきり鼻先をぶつけて、あまりの痛さに転げてしまった…
高さは凛子の身長より少し高いくらい。今までの自分なら絶対に飛び越えられる高さなのに!
『なんなのよ?この犬って体は!ずいぶんと不便なのね…』
ドンという音に驚いた仁美さんが、閉まっていたカーテンを開き、窓を開けて顔を出す。
「ちょっと…ハヤテなにしてるの?変な遊びを覚えちゃって…そのうちに大ケガをするし、うるさいからやめてよ~」
ひっくり返っている私を見ながらそう言うと、窓とカーテンを閉めて姿が見えなくなった。
その後直ぐに仁美さんが玄関から出てきた。
食べ物らしき匂いのした器を、カラカラと音をたてながら持ってきて、起き上がってしょぼくれている私の前にしゃがみ込み、器をそっと置いた。
「待てよ~…よし!」
『いったい…この質素な器に入ったポロポロとした物体はなに?』
食べ物らしき匂いがしてくるが、私の知っている食べ物とは全く違った茶色い物体。
それだけが山のように入っている…
「あれぇ?ハヤテどうしたの?いつもはガッツクように食べるのに…体調でも悪いのかしら…やっぱりケガしちゃったのかな?大丈夫?」
仁美さんから、とても心配そうな匂いがしてきた。
『わ…わかったわよ…これがご飯なのよね!?食べますよ!食べますとも!』
勇気を出して1口食べてみる…
『これはこれで、意外と食べれるわね!お菓子みたいにポリポリしてるけど!』
1口食べてお腹が空いていたことに気付き、あっという間に完食してしまった。
「なんだ!ハヤテ元気じゃん!心配させないでよね~」
仁美さんの不安そうな匂いが、温かい匂いに変化したのに気がついた。
「おやすみハヤテ~明日ね~」
空になった器を持って仁美さんは家の中に戻り、再び私1人が庭に残された…
『1人ぼっちで寂しい…やっぱり少し寒いし…家に戻りたいよ』
凛子のしつこい構ってちゃんにはうんざりする日もあったけど、優しい由利江ママさんやパパさんと一緒に過ごしたい…
「クゥーン、クゥーン…」
私は夜風を避けるように小屋の中に入り、小さく丸まって自分を抱きしめるように眠りについた。




