リッパー編 ③
現実世界の輪郭は、ぼかされていた。
激しく明滅する光が、俺たちの動きを連続する静止画に変えた。
客はまばらだった。
フロア中央では、露出の高い女性ダンサーたちが、情熱的に踊り続けていた。
竹河はウォッカを二つ頼み、片隅の席の革張りのソファに腰を下ろした。
俺も装備を下ろし、その向かいの席に腰かける。
頭上ではミラーボールがゆっくりと回転し、青や紫の光の粒が俺たちの顔をまだらに照らしている。重低音のビートが床から伝わり、目の前のテーブルがわずかに揺れた。
竹河は、運ばれてきたウォッカのストレートを片手に、背もたれに深く身を預けている。一息にあおると、満足げな笑みを浮かべた。そして、フロアで踊っている女たちを眺めた。
俺は目の前にショットグラスを置いたまま、まだ口をつけていない。
竹河が俺の目の前のグラスをつかむと、これもグイッと一息であおった。
二つとも竹河のグラスだったらしい。
竹河は追加を注文した。
「装備の話だったな」
竹河の言葉はフロアを埋め尽くすダンスミュージックにかき消されて、俺にしか届かない。
「見せろ」
竹河が俺の拳銃を指した。俺はホルスターから抜いて渡す。
竹河は拳銃をテーブルに並べ、その上に右手を置くと、俺の眼を見た。
「さっき、お前は女に蹴られて、これを失った。それで、どう動くべきだった?」
俺はソファに立てかけたライフルに手を伸ばした。
「死んだ」
竹河は左手を銃の形にして、こちらに向けていた。
「あの女が銃を持っていたらどうした? お前一人で二人を相手にしていたらどうなっていた?」
そう言いながら拳銃を返してきた。
そして、自分の腰のコルトをテーブル上に置く。さらに制服の下からベレッタを出して置いた。
「こいつは俺の私物だ」
コルトを指して言った。
ベレッタは支給品であるため、拳銃を二丁装備していることになる。
「自分も私物を買います」
「話は最後まで聞きな。俺たちはあくまで、警察組織の一部だ。だからあまりデカイ武器を使うと、偉い人や市民が騒ぎ出す。民間人を傷つける恐れがあるとか言ってな」
そこまで言ったとき、追加のグラスが運ばれてきた。今度も二杯だった。
竹河はグラスをつかむと、踊っている女をちらちらと眺めた。
「だが、俺たちの相手は武装サイボーグだ。威力のある武器じゃねえと太刀打ち出来ねえ。俺たちは、そのジレンマの中で活動しているわけだ」
「だから、あくまで私物として持つわけですね」
竹河はグラスを傾けながら、うなずいた。
「わかりました。買ってきます」
「俺はここで小休憩だ」
俺はバーを出て武器屋へ向かった。
「Weapon」と書かれたドアの先に、鉄格子に囲まれたカウンターがあった。その中で接客している女が店員らしい。
俺は薄暗い店内に置かれた椅子に座って待つ。
先客は覆面レスラーのような格好をしていた。全身が白い服と白いパーツで覆われて、薄暗い光の中でも華やかに見えた。
覆面レスラーは、大口径のライフル二丁とショットガン、マシンガンを購入した。
「お嬢さん、私の名前は賞金稼ぎのファントムペイン! 以後、お見知りおきを!」
会計が終わると、覆面レスラーは全ての武器を身につけ、外へ出て行った。
俺はそれを見送ってカウンターの前に立つ。
「ハンドガンとショットガンを見たい」
「いいわよ」
腕に竜のタトゥーを入れた女は、いくつかの拳銃を取り出して、カウンターの上に並べた。女が説明を始めたとき、外から、ドンという重い衝撃音が聞こえ、タイヤが路面を引きずるような摩擦音、ガタンという振動、遠くから悲鳴も聞こえた。
一瞬の静寂。
続く拳銃音。
俺はベレッタを引き抜き、慎重に外へ出た。
路上に先ほどの覆面レスラーが転がっており、黒いヘルメットの集団が馬乗りになって、銃器を奪っていた。
俺がベレッタを向けると、ヘルメットの集団はバイクに乗って逃げ去った。
ファントムペインは、呻き声を上げていた。
俺はベレッタをしまい、店内に戻った。
「あなた良い人みたいね」
店員が言った。
「この街じゃ、あんなの日常茶飯事よ。誰も気にしない。助けたりしない」
「……あんなに銃を持っていたのにやられていた」
「持ち過ぎたんじゃない? 重量過多で反応速度が落ちてたんだわ。沢山持ってたって、動けなければやられちゃうわ」
俺は店員の意見を聞き、デザートイーグルとショットガンを購入した。AISのCPUに登録したところ、レスポンスへの影響はあまり生じないとわかった。
「反応速度を保ったまま積載重量を増やすなら、大きなパーツをつけるしかないわね」
店員が言った。
逆に言えば、ゴツい見た目の奴は、デカイ武器を持っている可能性が高いわけだ。
「期待してる。死なないでね」
「何?」
「また買って欲しいから」
武器と弾丸で、俺のほぼ全財産が消えた。
正義感で腕は買えない。武器も買えない。
この街では、生き残ることさえ金がいる。




