補佐官は、まだ、ため息をつかない ⑨
またもやリッチモンドパーク。
「警備はあまりいないのですね」
「ええ、別に守るものもないですから」
私とリア、そして近衛親衛隊の三人は、パーク内を歩いている。
一人で来る予定だったが、当然のようにリアも一緒に来ている。
私が一緒の方が話が早いでしょう、とのことだ。
実際、助かった。
余計な手続きもなく、パーク内に入ることができた。
ペンブローク・ロッジ。
事故、いや事件の場所。
ここには警備もいない。
もちろん王宮親衛隊も。
静かだ。
そういえば、あの時のアフタヌーンティーはもったいなかったな。
機会があれば、もう一度食べたい。
「さて、入りますか」
リアは、どこからか出した鍵でロッジの柵の門を開けた。
この人、色々と手際が良いな。
私が行くことを知っていたのかな。
まさか。
ロッジの庭。
私たちが襲われた場所。
確か、ここら辺かな。
私は地面の土を掘る。
大体の場所から、何か所か採取する。
見た感じ、違いは分からない。
そして、レオポルド王子殿下が襲われた場所にも向かう。
同じように土を採取していく。
リアは、私の作業を見ている。
なんか楽しそうだな。
「王宮親衛隊は、土の採取なんてしてないですよね」
「ええ。ゴーレムなんて情報は上がっていませんでしたから」
「そうですか」
よし、帰ろう。
その時、嫌な気配を感じた。
嘘でしょ。
私たちの周りには、親衛隊がいた。
数は、たぶん十人。
リアの周りでは、近衛親衛隊が臨戦体制を取っている。
どうやら仲間ではないみたいだ。
私は、仲間である可能性も考える。
少しでもあるかもしれない。
「リア、一応聞きますが、あれは本当の親衛隊ですか?」
「違いますね」
やっぱり。
ということは、これはゴーレム。
まずい。
あの時とは、親衛隊の数もゴーレムの数も違う。
リアを逃がさないと。
私は、ゆっくりとリアに近づく。
「リア、私が囮になります。逃げてください」
「え?」
「なにを言っているのです」
私は、オーレリア警備主任に目で合図する。
オーレリア警備主任は頷いた。
「行きます」
私の掛け声で、親衛隊の一人がリアを担ぐ。
私は魔導銃をゴーレム親衛隊に構える。
半分を抑えられれば、あとは何とかなるだろう。
甘い考えだ。
親衛隊ゴーレムは剣を抜く。
この前の動きを見る限り、そこまでではない。
一対一なら勝てる。
しかし、今は一対十。
どんな強者でも、数の力には勝てない。
唯一の利点は、魔導銃があることか。
一応、言う。
「引きなさい。今なら不問にします」
もちろん、聞いていない。
むしろ剣の構えが攻撃的になっている。
私は、少し疑問に思う。
なぜ、リアを誰一人追わない。
これでは、足止めされているのは私の方みたいだ。
もしかして。
私は魔導銃を撃つ。
簡単に当たり、ゴーレムは崩れる。
あっという間に砂の山になった。
まずい。
最初から、分散が目的だった。
だからといって、目の前のゴーレムを放置することはできない。
私は魔導銃を撃つ。
全部を砂の山にした。
どこへ向かっただろう?
私は、先日の地図を思い出す。
避難するなら、管理棟だ。
走る。
リア。
私の判断ミスだ。
より危険な状態だ。
急がなきゃ。
管理棟が見えた。
リア。
声が聞こえた。
気のせいではない。
どこだ。
庭園の方だ。
私は庭園に戻る。
場所は、第四王子の庭園の方だ。
そこは、白い石が敷き詰められた場所だった。
枯山水という。
異国の庭。
私は、かなり好きな庭園だった。
事件が終わったら、もう一度見たかった。
リアと一緒に。
しかし。
白い石は、川を表している。
そうリアは話してくれた。
白い川が、赤くなっている。
真っ赤に染まっている。
赤い川が流れている。
その先に、リアがいた。
倒れている。
え。
うそ。
その赤い川は、リアから流れていた。
私は急いでリアに向かおうとする。
誰かがリアの横にいる。
気配がない親衛隊。
突然、現れる。
体を半分赤くして。
何かが聞こえた。
庭園の西側で、金属音がする。
オーレリア警備主任とゴーレムが、剣をぶつけ合っている。
あいつは別格に見える。
あの主任とほぼ互角。
他の二人は、砂ゴーレムの進撃を止めている。
数が減っていない。
ならば、赤いゴーレムは。
私の方へ向かって駆けてくる。
魔導銃を放つ。
奴は、当然のように避ける。
こいつ、人か。
ゴーレムか。
私の迷いを無視して、更に距離を詰めてくる。
動きが速い。
私は後ろに下がり、もう一度狙いを定める。
奴は軽く横にぶれながら近づいてくる。
リアの状況を見る限り、時間はかけられない。
やるしかない。
私は奴に近づく。
魔導銃を放つ。
この距離ですら、当たらない。
こいつ、慣れてる。
奴の武器はなんだ。
ナイフ?
いや、もう少し大きい。
私は賭けに出る。
奴は、私に近づきたい。
私は、距離を取りたい。
じゃあ、近づいてあげるよ。
私は、奴に更に近づく。
奴は焦りもしない。
この間合いから、私の腹にナイフを刺す。
私の腹には、奴のナイフの刃が見えた。
奴の動きが止まった瞬間。
奴の頭が吹き飛び、砂になった。
危なかった。
一応、お腹を触る。
ある。
良かった。
ナイフを刺される時に、私は魔法を発動した。
通常は対魔法用である、盾の魔法をお腹の前に張った。
奴の武器も体も、魔法でできていると予想して。
もしゴーレムではなかったら、私のお腹には今、穴が開いていた。
私はリアに駆け寄る。
嘘でしょ。
いつの間にか、庭園の周りには百体以上のゴーレムがいた。
これは、どっちの方だ。
私がさっき戦った方だと、かなりまずい。
リアも助けられない。
私は天を見た。
そこには、見たことがあるものがあった。
あれは、リアの魔法実験。
ドーナッツ。
なんで、あれがまた上にあるのだろう。
光った。
リングから青い光が放たれる。
綺麗だ。
こんな状況なのに、そう思ってしまう。
そして、リッチモンドパークが青い光に包まれた。
光に触れた瞬間、ゴーレムの動きが止まる。
そのうち一体が崩れ落ちる。
次々と崩れ始める。
そして、ゴーレムが全て崩れた。
リア。
私はリアに駆け寄る。
リア。
リア。
私は傷口を探す。
制服を脱がせて、赤い所を探す。
あれ、ない?
どこだ?
「もう、くすぐったいですよ。ステラ」
え?
あんな大量の血を流して、大丈夫なわけがない。
「これ、養育剤です」
リアから流れているように見えたのは、彼女が持っていた養育剤だった。
襲われる時に投げつけたらしい。
何個か投げて、切られて、自分にかかって、バランスを崩したところに私が来たようだ。
良かった。
死んだふりをして、私を驚かそうとしたことは、とりあえず今は保留にしよう。
「何とか間に合ったようね」
シャーロットさんが、どこからともなく現れる。
「もう大丈夫よ。ゴーレムは全て処理したわ。ここでは活動できない」
「助かりました。でも、どうしてシャーロットさんがいるのですか?」
「リアから緊急の連絡を受けたからよ」
リアを見る。
視線に気づいたのか、手を振っている。
私も軽く手を振る。
もしかして。
危険があると知っていたのだろうか。
そうなら、もっと親衛隊の数を増やすべきではないだろうか。




