補佐官は、まだ、ため息をつかない ⑧
研究棟。
学園にある教授たちがいる棟。
その中のある研究室に、私たちはいる。
研究室の主。
レジナルド・クロムウェル准教授。
「リッチモンドパークで、親衛隊のふりをして君たちを襲ったのは、たぶんゴーレムだね」
「ゴーレムですか? それは軍が」
私は、過去の事件を思い出す。
あれは、びっくりしたな。
しばらく体と頭が固まっていた。
「ああ、軍のやつか。あれとは、まるで別物だよ」
「知っているのですか?」
「僕が関わっていたからね」
レジナルドは、なぜか胸を張る。
なんか面倒そうなタイプかもしれない。
「どういうことですか?」
ゴーレム。
前に、シャーロットさんが貴族の館から見つけたもの。
ただ、軍で起きたゴーレム事故は、事実とかなり違うようだ。
本当の計画は、大量破壊兵器ではなく、建物ごと移動できる装置だった。
そうすることで、防衛線の確立と補給がしやすくなる。
レジナルドの話を聞いて、私は納得する。
レジナルドいわく、あんな大きいのが歩いていたら的にされるだけだ。
そういえば、そうだ。
街中だと危ないけど、戦線では邪魔だな。
だから、そっちの計画は中止になった。
建物の移動の方は、今、実用段階に入るらしい。
動く家みたいな感じだろうか。
旅行とかに使えればいいな。
「それで、君たちが捜査しなければならないのは、もう一つのゴーレムだ」
もう一つのゴーレム?
「ゴーレムの研究は、二つあった。一つは、軍と協力して作ったゴーレム。この前の貴族の館の事件は、これを利用していた。シャーロットのおかげで、やっと見つかったのだけどな」
「軍から研究内容が流出したと情報が来ていたのだが、私はそういう調査に向いていない。というか、面倒そうだし」
そういう問題ですか。
何かあったら、誰が責任を取るつもりだったのだろう。
もしかして、私があまり怒られなかったのは、そういう事情もあったのかもしれない。
「だから、シャーロットに頼んだ。あいつ、こういうこと好きそうだし」
好きだと思います。
シャーロットさんって、意外と面倒ごとを引き受けているのだな。
もしかして、調査の時に夜な夜な徘徊していたのだろうか。
「意外に早く見つけてくれたおかげで、まともな開発ができなかった。しかし、ここで問題が起きた。実験していた貴族のことだ」
私は、この事件で結構な報告書と始末書を書いた。
全て終わった時は、エセリン監査官と二人で祝杯をあげた。
本当に嬉しかった。
あまりの嬉しさに、涙すら出た。
「あの貴族の研究に出資していたのが、ジョージ・バーニウェル卿だ」
ジョージ・バーニウェル卿は、先日のベリルの冠の事件で謎の死を遂げている。
私も現場にいて、そのあと大変だった。
その後の検視の結果で、毒を刺されたらしい。
自分で刺したか、誰かに刺されたのか。
ジョージ・バーニウェル卿。
彼は、東インド研究所を創設した二十四人の貴族の一人である。
そして、ゴーレム事件で関わった貴族も、あの東インド研究所の二十四人の貴族の一人だった。
彼らは、魔法省と軍との関わりが強い。
東インド研究所関連では、先日、大きな事件を起こしたばかりだ。
そして、なくなったとはいえ、東インド研究所の貴族たちは、大議会でもかなりの力を持っている。
その力の中心にいるのが、新興貴族で一番勢いがあったバーニウェル卿だった。
街中で軍ですら研究中止にした大型装置を開発していたのだから、国家反逆罪になってもおかしくないはずだが、不問で終わったようだ。
まあ、屋敷の跡地は、魔法省に接収されたが。
「では、今回の事件も、東インド研究所やバーニウェル卿の家が関わっているのですか?」
「いや、あの家にはもうそんな力はない。今、元東インド研究所の中心は、ジュリアン・モントローズ伯爵だ」
ジュリアン・モントローズ伯爵。
リッチモンドパークの事件で被害にあった、エレノアの父親。
「モントローズ伯爵が、ゴーレム開発を指示したということですか?」
「たぶん違うな。モントローズ伯爵は、そういうタイプではない」
この人、結構貴族関係に詳しいな。
少し調べた方がいいかもしれない。
「じゃあ、誰がそのもう一つのゴーレムを開発していたのですか?」
「知らん」
え?
「貴族なら、可能性は誰にでもある。しかし、問題を起こせば、それも王族に手をかけるなんてことをして、何のメリットがある。自分の立場を危うくしているだけだ。いくら大議会である程度力があるとはいえ、女王陛下への忠誠は、貴族はある」
そうだろうな。
自分で自分の首を絞めることをする理由がない。
「話が逸れたが、もう一つのゴーレムだが。基礎理論は似ている、目的と大きさが違う」
「研究は、人の補佐、支援だ。軍の場合は、兵器に近い」
「補佐ですか」
それは、私の代わりですか?
それができたら、仕事がなくなる。
困ります。
私、報告書も始末書も書きます。
見捨てないでください。
「わかりやすく言うと、人が行くと危険な場所に行くとか、重い物を持つとかだな」
あ、そういう方向。
それは助かるかも。
「その研究は、完成されたのですか?」
「ある程度は完成したようだ。人の形の模型を作り、動作もできたらしい。しかし、研究は凍結された」
「凍結ですか?」
「ああ。これはもともと、東インド研究所の研究資料から行われた」
東インド研究所は、十年前の事故で解体されている。
多くの死傷者が出たその事故。
研究資料も、ほとんど残っていないという。
「誰が研究していたのですか?」
「昔、そこにいた教授だ。今は亡くなっている」
「しかし、誰かがその研究を引き継いでいる。それは」
「それは」
「わからん」
レジナルドは、両手を上げる。
「え? 知っているんじゃないんですか?」
「色々調べたんだけどね。学園の関係者ではないようだ」
「そ、そうですか」
私は、紅茶を飲む。
甘い香り。
「ということは、何もわかっていないということですか?」
私は、今の話をまとめてみる。
「ああ、まったくだ。だから困ったので、最低限シャーロットに頼まれた蜜蜂の確認ぐらいしないとまずいと思ったのだ」
隣で、エディスがため息をついている。
この人、苦労しているのだろうな。
「レジナルド様とシャーロット様は、この研究棟の二大厄災と呼ばれています」
エディス助手は淡々と言う。
なんとなく、そのあだ名でレジナルドという人がよくわかる。
「そんなのついているのか」
レジナルドは、なぜか驚いている。
「はい。決して二人の共同研究はさせるなと、学園からは通達を受けています」
「そうか。何かしたかな?」
「はい」
エディスは冷たく答える。
「このままの情報を、シャーロットさんに伝えます」
私は、少なくとも情報が入ったので良しとする。
「まあ、待て」
レジナルドは、軽く手で制す。
「今回の事件、僕はその場にいないので、もちろん見ていない。だが、親衛隊の姿をした賊が王族の方々を狙った。そして、煙のように消えた。だから、ゴーレムの可能性が高いと思った。人は煙のように消えない。それは、貴族の館がゴーレムになったように、そのゴーレムにも何か媒体があるはずだ」
それは、もしかしたら、あの場所にまだあるかもしれないということか。
「最初の研究から進化させ、両方の良い点を合わせている。実に興味深いな」
だから、その場で煙のように消えたのか。
このことを、王宮親衛隊は知っているのだろうか。
「現場に行くなら、土を取って来てくれ。それで調べられる」
まだ、行くとは言っていないけど。
仕方がない。
リアにお願いしよう。
また勝手に入るのは、さすがにまずい。
「わかりました」
私は、研究室を後にした。
研究棟から貴族塔は、場所的に反対の位置だ。
結構遠いな。
先に、レストレード監査官に連絡しよう。
学園で連絡を取れるのは寮長室なので、そこへ向かう。
ハドソン寮長がいたので、通信機を借りる。
監査局には、レストレード監査官はいなかった。
伝言を頼んだ。
さて、時間的にリアの講義も終わっているはず。
部屋に戻るか。
また階段か。
疲れるなあ。
部屋に入ると、甘い匂いがした。
「ステラ、お帰りなさい」
入り口近くにリアがいた。
たまたまかな?
「ただいま戻りました」
私は、リアに先ほどのレジナルドの話を伝える。
「そう。さすが、レジナルド」
リアは、レジナルドのことを知っているらしい。
「じゃあ、行きましょう」
やっぱりか。
そうなりますよね。
私とリアは、リッチモンドパークに向かった。
貴族の館事件は、ちょっと長い短編
補佐官は、ため息なんてつかない。
https://ncode.syosetu.com/n5162md/
です。
ステラとリアが初めて会うリッチモンドパークの短編。
補佐官は、始末書なんて怖くない。
https://ncode.syosetu.com/n0446me/
ステラとリアがただイチャイチャしている短編。
補佐官だって、ため息をつきたい。
https://ncode.syosetu.com/n7629me/
三つの短編の後の話が
王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。
になります。




