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王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


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6/19

補佐官は、まだ、ため息をつかない ⑥

 魔導学園の食堂は大きい。

 何より優れているのは、そのメニューと品数。

 そして、何より重要な味だ。


 こんなに美味しいのですか、というぐらい美味しい。

 しかし、たまに少し変わった料理が出ていることがある。

 何だろうか。

 まだ怖くて手が出せないでいる。

 ちょっと攻めすぎている見た目がではある。


 さらに、お値段が優しい。

 いいんですか、というくらいだ。

 ずっとここにいたい。

 そう思ってしまう。


 ただ、少し面倒なことがある。

 この唯一の楽しみのお昼が邪魔される。


 それは、隣にいるリアこと、ヴィクトリア王女殿下の存在が大きい。

 貴族は、王族と少しでも接点を持ちたいようだ。

 昨日までは、それに囲まれていた。

 なので、ゆっくり食べられない。


 しかし、それが今日はない。

 その理由は、私の目の前に座っている人のおかげである。


 クラリッサ・ブラックウェル嬢。


 昨日は、あまりいい印象を持たれていなかったはずなのに。

 今日、講義で会った瞬間に言われた一言が、


「ステラお姉さま、おはようございます」


 え?

 なに?

 お姉さま。


 まあ、それは私はあなたより年上ですけど。

 貴族の言葉は、まだよくわからない。


「お、おはようございます。クラリッサ様」


「私のことは、クラリーと呼んでください」


「は、はい、クラリー様」


 隣にいるリアが、なんか笑っている気がする。


 講義が終わり、昼食になるので食堂に移動する。

 前を歩くのはクラリー。

 そして、私とリアが後に続く。


 なぜか、昨日と違い誰も話しかけてこない。

 もしかして、クラリーって怖い人。


 食堂。

 どうやら、いつもの場所が決まっているらしい。


 久しぶりに、ゆっくり食べられた。

 美味しかった。


「ステラお姉さま、本当においしそうに食べられますね」


「はい。ここの料理、おいしいですよね」


「ステラが食べているのを見るだけで幸せになります」


 リアがよくわからないことを言っているので、いつものように軽く無視しておく。


「そういえば、この前の事故、大丈夫でしたか?」


 事故?


「はい。リッチモンドパークの。まさか、調理器具が爆発するなんて」


 そうか。

 そういう情報になっていた。


「はい。私はステラが身を挺して庇ってくれたので、怪我もなく」


「さすが、ステラお姉さま」


 クラリー嬢の目が輝いている。

 大したことしてませんよ。


「ステラの肌に傷を作ってしまいました」


 まあ、すぐ治りますよ、あんなの。

 そう思いながら、パンを口に入れる。


 耳元でリアが、


「私、ちゃんと責任取りますから」


 と言ってきた。


 ドレスの修復代とハンカチの洗濯代がなくなったので、それだけで大丈夫です。

 あと、おいしいご飯も頂いております。

 これ以上は贅沢です。


「あの時は、ヴィクトリア王女殿下とレオポルド王子殿下と、貴族の方々がいましたから」


「女王陛下とアルバート王子殿下が席を離れていたのが幸いです」


「クラリー様、もしかしてその場に?」


「はい、いました。ステラお姉さまのこと、見ていました」


 何を見ていたのだろう。

 私の食べっぷりとか?


「他の貴族の方はいらっしゃらないのですか?」


「はい。あそこに入れるのは、王族と五大貴族と、その子息ぐらいですから」


 え、聞いてない。

 私はリアを睨む。

 リアは微笑んでいる。


「そうなのですか?」


「ええ。私とエレノア様と、あともう一人いましたわ」



 午後の講義は、私は出ないので、ここでリアとクラリー嬢とは一度お別れになる。

 なぜか、二人は寂しそうな顔をしている。


 リアは、いつも部屋で会ってますよね。


 さて、お仕事です。


 クラリー嬢のおかげで、あの時の情報がだいぶわかってきた。


 寮長室の隣の応接室。

 私は紅茶を飲んでいた。

 もちろん、ハドソン寮長が淹れてくれたものだ。

 相変わらず、おいしい。


 一息つく。


「さて、こっちの状況は」


 目の前には、レストレード監査官が座っている。


 現在の監視局の捜査状況と、王宮親衛隊の状況を聞く。

 どうやって王宮親衛隊から情報を得たのだろう。


「まあ、知り合いがいてな」


 と、レストレード監査官は言っていた。


 私が学園で得た情報も話す。

 さっき、クラリーから得たものを伝える。


「事件、今は事故になっていますが、その場所には五大貴族と、そのご子息が何人かいたようです」


「五大貴族か」


「はい。それと、ヴィクトリア王女殿下が言っていたのですが、レオポルド第四王子を襲ったのではなく、エレノア嬢を狙ったのかもという話をしていました。エレノア嬢本人は驚いていましたが」


「そうか。そうだな」


 レストレード監査官は、予想していたのだろう。


「ヴィクトリア王女殿下の動きはどうだ?」


「怪しいところはありません」


 私がそう言うと、レストレード監査官は私を見つめる。


「他の王族は、どうなのですか?」


「特に何もない。今まで通りだ」


 王族が王族を狙う可能性があるとはいえ、さすがにリアはない。

 何というか、もっとうまくやるように見える。

 やってもらっても困るけど。


「よし。とりあえず、そのままで。後は一応、五大貴族の子息たちを調べてくれ」


「狙っていたのは、彼らの方だということですか?」


「まあ、貴族たちの揉めごとの方が可能性が高いからな。ただ、それなら王族を巻き込むことはしないような気がする。危険すぎる」


「そういえば、シャーロットさんは?」


 シャーロットさんの性格なら、こんな事件が起きると一番関わってくるはずなのに、関わっていない。

 というか、学園にもいないくらいだ。


「あいつは、今別件でな。色々忙しいらしい」


 連絡は取っているけど、レストレード監査官の捜査ではないようだ。


「王宮親衛隊が、今回の事故に直接関わっているのですか?」


「いや、たぶん彼らは白だ。ただ、面子は潰されたがな」


 レストレード監査官の言い方は、ほぼ確定の感じだ。


「魔法省としては、レオポルド第四王子が襲われたというのが大きい。監視局的には、犯人が捕まえられるのが一番だがな。上も揉めているらしい」


 上層部的には、強力な支持者が狙われたとすると、自分たちの敵が現れたと考えているのだろう。


 ここで、今回の事件状況が整理できた。


 リッチモンドパークで起きた事件は、調理器具の爆発という事故で報道されている。

 もちろん偽情報だが、王宮親衛隊と魔法省で箝口令が敷かれた。


 私たちを襲った犯人は、まだ逃亡中。

 足取りすら見つかっていない。


 レオポルド第四王子を襲った犯人は、取り押さえられた瞬間に煙のように消えた。


 私もレオポルド第四王子も、怪我自体は大したことはない。

 リッチモンドパークの被害自体も特になかった。


 あるとすれば、アフタヌーンティーを途中で食べ損ねたくらいだ。

 あんな美味しそうなの、もったいない。

 レストレード監査官と別れ、私はリアの部屋に戻った。


「おかえりなさい。ステラ」


 部屋に帰ると、リアがすでにいた。

 どうやら、午後の講義が終わっていたようだ。


「ただいま帰りました」


「どうですか、捜査状況は?」


「はい。犯人の目星もついていません」


 嘘を言う必要もないので、知っていることを伝える。

 リアも、そのことを王宮親衛隊から得ているだろうし。


「そうですか」


 リアは困っているような言い方だが、顔は困っていない。


「あ、あの、クラリッサ様は今日、何か様子がおかしかった気がするのですが」


「え、そうかしら。いつもあんな感じですよ」


 いや、昨日はもっと私との距離があった。

 なのに朝には、距離感ゼロになっていた。


 私の睨むような視線を感じたのか、リアが軽く息をつく。


「昨日ですね。リッチモンドパークの事故で私を庇ってくれた救世主が、ステラなのですと伝えたのです」


「えっと、それだけですか」


「ええ。彼女、ちょうどあの事故の時、私たちの方に向かっていたらしいのですよ。それで現場も見ていたようで、その時のあなたに一目惚れしたらしいのです」


「え?」


「あなたの立ち回りに感動したと言っていました。物語の王子様みたいだと」


「彼女、ずっと親衛隊の人だと思っていたみたいで、最初は気づいていなかったみたい」


 まあ、あの時とはメイクや服装もかなり大人びた感じにしていたからかな。

 私、大人ですから。


「今は、私の警護をしていただいていますと話したのですよ」


「だから、あんな感じなのですか」


「ええ。とっても嬉しそうでしたよ」


「でも、ステラは私だけのものですけど」


 そう言って、リアが私に抱き着いてくる。

 私は、軽いステップでリアを避ける。


「え?」


 リアは、寂しそうにこっちを見る。


 いやいや、そんな顔したって駄目ですよ。

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