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王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


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3/19

補佐官は、まだ、ため息をつかない ③

「こういうことだったのですね」


 私はそれを見て驚いている。


 王立園芸会。


 年に一度、リッジモンドパークに誰もが入れる日。

 そこでは、この日にかけて整備された庭園を見ることができる。

 花、木、草、土。

 全てが一つの空間を作っている。


 王宮、そして王族が権威を見せ付ける日でもある。

 庭園を見るだけではなく、その場所に集まる貴族の数、人の数が王族の今の力関係を表すことにもなる。


 しかし、私はただただその場所にある光景に感動していた。


「枯山水というらしいです」


 遠い国の庭にあるものらしい。

 そこは英国と同じ島国。


「この白い石で川を表していて、大きい石は島のように見えますね」


 リアが私の隣で説明してくれる。


「これを作っていたのですね」


「はい。知らない人には説明が難しいので、見ていただくのが一番だと思いました」


 先日、私たちはレオポルド第四王子の庭園を見に行った。

 そこにあったのは、石まみれの庭園だった。


 まさか、こんなものを作っていたとは。


 正直、綺麗な庭園はたくさんあった。

 だが、衝撃を受けたのはこの庭園が一番だった。


「素晴らしいですね」


「ええ。自慢の兄ですから」


 リアは白いドレスがとても光っている。

 袖口には、青紫のスミレの刺繍がある。

 白い傘をさしているので、リアの金髪がさらに輝く。


 私はリアに貸していただいた深い青緑色のドレスを着ている。

 歩くのが難しい。


「さあ、いきましょうか」


 今日は、リアことヴィクトリア王女殿下が、私――ステラ・ホプキンスの相手をしてくれている。

 こんな大事な日は、私以外の相手で忙しいと思うのだけど。


 私はお昼くらいにリッジモンドパークに着いた。

 あまりの混雑に、入れないかと思った。

 先日、リアからもらった優先許可書により、すぐに入れた。


 さすがお姫様。


 まず、挨拶に行こうと思い、リアの庭園に向かった。

 人で埋め尽くされていた。

 それだけで、リアが市民から好意的に見られているのだと感じた。


 リアはいないようだったので、先日から気になっていたレオポルド第四王子の庭園に向かった。


 そこは、まるで別の国のようだった。

 そして、ほかの場所よりもとても静かだった。

 雰囲気がそうさせているのかもしれない。

 私には、とても落ち着く場所だ。


「だーれだ」


 私の目は、白いレースの手袋によって隠される。


「おやめください、ヴィクトリア王女殿下」


 私は真っ暗な中で答える。


「リア」


 私の左耳に、温かい息がかかる。


「え?」


「リアですよ、ステラ」


 もう一度そう言うと、リアは私の前に立つ。


 相変わらず綺麗。

 私は見とれてしまった。


「どうですか、新調したこのドレスは?」


「はい。とてもお綺麗です」


「ありがとう。でも、お兄様の庭には負けたわ」


 リアは軽く目を細めた。


 いえ、そこに勝ち負けはないです。

 むしろ、その世界にあなたがいることで完成しています。


「さて、これからはステラのための時間です」


「いいのですか?」


「ええ。大体の挨拶は終わりましたし」


 貴族たちは午前中に来るらしい。

 早めに来ることで、自分たちの権威を示すようだ。

 彼らとしても、市民たちと一緒なのは嫌なのだろう。


「ほかの王族の方は?」


「みんな、あそこの建物で休んでいます。私はステラを見かけたので来ました」


 どこで見たの?

 そんなに目立つかな。

 まあ、ちょっと派手なドレスだけど。


 少し丘の上にあるので、周りが見渡せるのかもしれない。


「そうですか。ありがとうございます」


「では、いきましょう」


 私とリアは、他の王族の庭園を見て回る。


「ステラ、女王陛下の庭園は見られましたか?」


「はい。素晴らしかったです」


 女王陛下の庭園は、リッチモンドパークの一番中央にある。

 人の流れも、まずそこに向く。

 私も来た時にその流れに乗っていたので、一番最初に見た。


 そのあとに、リアの庭園へと向かった。


 入口でもらった地図があるので助かった。

 地図がないと、まず迷子になる。


 そして、一番の問題は屋台。


 なぜ?

 広場の端に、屋台の集まりがある。

 おいしい匂いが集合している。


 私は急いでその場所を離れた。

 このままでは、花よりもドーナツになってしまう。


 リアの庭園に着いた時には、自分で自分をほめてしまった。


 よく頑張りました。


「しかし、あれは違う意味で凄かったです」


「アルフレッドお兄様ね」


「まあ、あれはあれで、好きな方もいますから」


 リアはあまり好きではないようだ。

 私もあまりです。


 何故か、少しほっとした。

 これで「良かったです」と言われたら、これからの対応でも気をつけることが増えるところだった。


 なんていうのだろう。

 派手。

 派手過ぎて、なんだか目が疲れる。


 それでも、人は集まっていた。

 人それぞれ、好きなものがあるのだな。


 歩くのは嫌いじゃないけど、少し疲れたかなと感じてきた。

 慣れないドレスと靴のせいかもしれない。


 私の心の声が聞こえたのか、リアが言う。


「少し休みましょうか」


「はい」


 私はベンチを探す。


「では、行きましょう」


 リアはある場所を指差す。


「ペンブローク・ロッジです」


 それは、先ほどリアがいたという建物だ。


「いえ、結構です」


 私はすぐに断る。


 王族の場所に行くなんて、休みどころか逆に疲れてしまう。

 リアだけでも大変なのに。


「え」


 リアは驚いて私を見る。


「そうですか。ものすごくおいしいお菓子を用意していたのに」


「仕方がありません。行きましょう」


 私は欲望に負けた。


 屋台を我慢しただけで、私の我慢は限界に近づいていた。

 それに、王宮のお菓子ですよ。


 もう無理です。

 王族の方々が食べているお菓子。

 この機会しかない。


 ああ、ここに来てよかった。

 私の頑張り、誰か見ていてくれたのですね。


 ペンブローク・ロッジ。


 王族たちが休憩や茶会などを行うその場所は、柵で囲まれている。

 王宮親衛隊が周辺を警護している。


 こんなにたくさんいるのか。

 あまり近づきたくない。


 中に入る時に、めちゃくちゃ調べられた。

 リアはそれを楽しそうに見ている。

 慣れないドレスだから、恥ずかしさが出る。


「大丈夫ですか、ステラ」


「はい」


 ロッジの庭にある丸テーブルで、アフタヌーンティーをすることになった。


 憧れていました。


 白い、真っ白な布がかけられた丸卓。

 その上には、銀色のカップと三段の菓子皿がある。


 下段はサンドイッチ。

 中段はスコーン。

 上段には、パウンドケーキ、ビスケットが並んでいる。


 お、おいしそう。


「どうぞ、食べてください」


「はい」


 ああ、なんて素晴らしい日だろう。


 まずは紅茶を一口。

 結構、茶葉の香りが強い。

 でも、飲みやすい。


 よし、ではサンドイッチからいただきます。


 ローストビーフ。

 柔らかい。

 このソースはなに?


 パン。

 これ、パンですか。

 ふわふわ。


 私は、あまりのおいしさに意識がなくなりそうだった。


「おいしいですか?」


 リアが聞いてくる。


「ひゃい」


 口と頭が、おいしさでとろけている。


「そう」


 リアは首を軽く傾けてほほ笑んでいる。


 食べないのかな?

 私、全部食べてしまうけど、いいのかな。


 一段目が終わり、二段目へ。


 私は次の段階に進もうとする。

 次は甘いものです。


 紅茶が新しく入れられる。

 香りが、さっきと違う。


 そんな私のおいしい時間に終わりが来た。


 悲鳴だった。


 ロッジの裏口近く。

 ちょうど、私たちのテーブルの反対側から。


 私は立ち上がり、リアの方に動く。

 同じように、親衛隊が彼女の周りを囲む。


 四人。

 数が多い。


 いつもは三人体制で警備している。


 私は無意識にリアを自分の方に引き寄せる。

 リアは軽く悲鳴を上げ、私に抱き着く。


「きゃ。もう、ステラって大胆」


 リアの発言は無視。


 私はリアを胸に抱え、体を反転する。

 その瞬間、私の背中に熱いものが当たる。


 切り付けられた。


 せっかくのドレスが。

 これ、借り物ですよ。


 弁償するなら、多分、一、二か月分の給料がなくなるかもしれない。

 どうしよう。

 分割払いできますか?


 私の横にいた親衛隊が、私の腕を引っ張る。

 私は体勢を整え、リアを支える。


「何を、血迷ったか」


 他の親衛隊の声が聞こえる。

 リアは、切り付けた親衛隊を見ている。


「殺してはいけません」


 切り付けた親衛隊は、こちらを見ている。


 視線がおかしい。

 誰を見ている?

 殺気がない。

 気配すらない。


 なんだ、こいつは。


 騒ぎを聞いた周りの親衛隊も、集まり始める。


 突然、そいつは何かを投げつけた。


 地面で弾ける。

 煙が出る。


「リア、吸ってはいけません」


 私はリアの手を引っ張り、煙から離す。


「大丈夫ですか?」


「はい」


「追うな。警備にやらせろ」


 リアのそばに、オーレリア警備主任がいる。

 彼女は他の親衛隊二人に指示する。


 いつの間にか、リアは自分のハンカチを私の背中の傷に当てている。

 その表情は、私からは見えない。


「ヴィクトリア王女殿下、避難を」


 オーレリアが進言する。


「女王陛下は?」


 背中越しに、リアの声が聞こえる。


「女王陛下は、かなり前に出られていました」


「そう。お兄様たちは?」


「わかりませんが、親衛隊がいます」


「ステラ、大丈夫ですか?」


「私のことより、早く避難してください」


「今は動けません。誰が敵かわかりません」


 その言い方は、いつもいる親衛隊すらも警戒しているということだ。


「しかし」


 親衛隊は動けない。

 三人はリアを囲むように立っている。


「女性の肌に傷をつけるなんて。しかも、私のステラの肌を。許せない」


 途中、変なセリフが聞こえたような気がするが、仕事柄、怪我には慣れています。


 私は立ち上がる。

 思ったより、傷は浅い。


 私はリアが押さえてくれたハンカチの出血量から、傷の程度を確認する。


 このハンカチ、高そう。

 それが、私の血で赤くなっている。


 私、今日で破産する。


 近づいてくる親衛隊がいる。

 私たち全員の警戒が上がる。


「アレクサンドラ王女殿下、ご無事でしょうか?」


「ええ。副隊長、賊は捕まえたの?」


 リアは視線で周囲を確認している。


「一人は。しかし、その者が消えました」


「消えた? 逃げられたということですか?」


「捕まえた瞬間、煙のように消えました」


 消える?


 さっきの奴といい、何か変だ。


「もう一人は、まだ捜索中です」


「死傷者は?」


「レオポルド王子殿下が……」


 リアの表情が、少し強張ったような気がした。


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