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王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


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2/19

補佐官は、まだ、ため息をつかない ②

「これは?」


 ボヘミア卿は、その光景を見ていた。


「ええ、小石ですかね」


 リアは、石で埋め尽くされている庭園の近くへ行く。

 白い石が多い。

 ほかにも、大きい石や苔みたいなものもある。

 なぜか、リアの表情は少し微笑んでいる。


「ここは、レオポルドお兄様の管理している場所です」


 レオポルド・ジョージ・ダンカン・アルバート第四王子。

 王族の中では、魔法省と魔導学園を大きく支持している人物だ。

 彼のおかげで、監視局の捜査もしやすくなっていることは確かである。

 ただ、その分、敵も多くなる。

 特に、貴族の勢力が強い大議会とは、揉めているらしい。


 しかし、なぜレオポルド第四王子は、魔法省に力を注いでいるのだろうか。

 貴族と仲良くしたほうがいいと思うのだけれども。


「わざとですか? それとも……」


 私は、あまりの光景にリアへ聞く。


「わかりません。ただ、このままだと……まだ……」


 庭園の整備すらできない王子殿下。

 そういう評価になる。


 王族に必要なのは、個人の能力だけではない。

 与えられた場所を管理できるか、ということ。


 そして、これからこの場所で、ある催しが開催される。


『王立園芸会』


 どれだけの庭園を整備でき、育てられるか。

 それが、王族としての実力を示すことになる。

 貴族にも、市民にも。


 その場所が、石まみれ。

 ありえない。


 たとえ誰かの妨害だとしても、貴族たちは思う。

 そんなことも対処できない王族などいらない、と。


 リアは庭園の前でしゃがみ、石と土を確認し始める。

 そして、ゆっくりと立ち上がり、指についた土を軽く叩いて落とした。


「これは、ひどいな。何があったのだ」


 声とともに現れたのは――。


「お兄様。お久しぶりです」


「おお、これは、愛しの妹よ」


 リアが、王女殿下らしく、お兄様と呼ばれた男に挨拶をする。

 第二王子、アルフレッド・アーネスト・アルバート。

 このリッチモンドパークの管理者でもある。


 後ろにも何人かいる。

 貴族のようだけど、誰だかわからない。

 貴族とのつながりが、かなり深いと言われている。


「君もいたのかね、ボヘミア卿」


 ボヘミア卿も続いて挨拶をしている。

 私は、なるべく気配を消す。


「しかし、これはどういうことだ」


「わかりません。私も今、見たばかりで」


「そうか。庭師をクビだな。いや、それだけでは済まされない」


「そうですね。でも、アルフレッドお兄様」


 リアの話し方が変わった。

 とても冷たく、そして、その声は体に響く。

 まるで、刃物が近づいてくるような感じになる。


「もし、レオポルドお兄様の庭師を処分したら、アルフレッドお兄様のせいになってしまいます。放っておいたほうがよろしいかと」


「そうか」


「はい、そうです」


 アルフレッド第二王子は、なぜかボヘミア卿の方を見る。

 ボヘミア卿は、軽く頷く。

 私は、リアの後ろに立ちながら、彼らの視線を確認する。


 この二人は、ただの知り合いなのだろうか。

 先代のボヘミア卿は、第四王子派閥だったと聞いたことがある。

 今は違うのか。


「私が、この原因をお調べいたしますわ」


「ご面倒なことは、引き継ぎいたします」


 突然、リアは、よくわからないことを言い始める。


「わかった。では頼む」


「はい。では私、さっそく調査を開始いたします」


 そう言うと、リアは楽しそうに私の手をつかみ、歩き始めた。

 柔らかい手。


「では、失礼いたします」


 少し離れたところで、リアが言う。


「さて、一応、庭師のところに行きましょうか」


「ヴィ、リア。申し訳ございませんが、私はこの件には関われません」


 王宮不可侵。

 魔法省には、あるルールがある。

 王宮の問題には関わらない。


「はい、知っております。これは、私がお友達との散歩中に、たまたま見つけたのです」


 私は、ため息をつきたくなる。

 しかたがないけど、駄目なものは駄目なのだ。


「ヴィクトリア王女殿下」


 私は、勇気を振り絞る。


「あの、こういうことは、王宮親衛隊の管轄ではないでしょうか」


 王宮、王族で起きた問題は、王宮親衛隊が調べる。

 魔法省、監査局、大議会でさえも対応できない。


 もし調査することになると、それだけで、ものすごい数の許可書類が提出され、信じられない時間がかかる。

 いつ許可が下りるかわからないくらい。


 レストレード監査官が話していたのを聞いたことがある。

 監査局の捜査で王族管轄の場所があり、その捜査の許可が必要になった時ですら、ひと月もかかったと言っていた。


「私は調査できません」


 私は、これ以上関わってはいけない。

 どんな些細なことでさえも。


「そうですか」


「このままだと、この場所に不法侵入した人を捕まえなければなりません」


 え、この人。

 私を脅しているの?


 私は、ある事件でこの場所に入ったことがある。

 捜査とはいえ、不法侵入をした。


 あの時、不問にするって言ったじゃないですか。


「ここに入れるのって、王族以外は誰ですか?」


 私は、諦める。


「そうですね。庭師と警備員、あとシャーロットくらいかしら」


 シャーロットさん、まだ出入りしているのですか。

 今度は何をしようとしているのだろう。


 まさか。

 犯人。


 私の心の声が聞こえたのか。


「ああ、シャーロットは違いますよ」


「そうですか」


「ええ。彼女の趣味ではないと思います」


 よくわからない答えだ。

 私はただ、シャーロットさんが犯人なら、すぐ解決したのになと、少し思っただけなのに。


 私たちは庭師に会うために、リッチモンドパークの管理棟へ向かい始めた。


「リアは、仲がよろしいのですね。第二王子殿下と」


「え」


 めちゃくちゃ嫌な顔をされた。


「仲良く見えますか? 全然。私、あまり好きではないです」


「そ、そうなのですか」


「ええ。あのままだと、なんか面倒なことになりそうですし。それに、レオポルドお兄様の庭師はよく知っているので、こんなことで罰を下されるのは腹が立ちますしね」


 私が知らないリアの一面が見えた。


「ステラこそ、ボヘミア卿に対しての警戒感、すごかったですよ」


 気づかれていた。


「まるで、悪の親玉を見ているようです」


「それは……」


「まあ、私を守りたいという気持ちの表れですので良いのですけど。ただ、向こうにも気取られていましたけどね」


「そうですか」


「ええ。まあ、色々ある人ですけど、今はまだ敵ではありません」


 今はまだか。

 同じことを、シャーロットさんも言っていた。


「どっちに付くかわからない人は、敵にしないほうがいいわ。味方にする必要はない。敵に回らなければ、それでいいのよ」


 とか話していたのを聞いた。


 私には、そういうのは無理だ。

 敵か味方かでしか判別できない。


「それよりも、ボヘミア卿は誰と一緒に来たのでしょうか? アルバートお兄様ではないようですし」


 それは、どういうことだろう。


 そうしていると、管理棟が見えてきた。


 エドワード・ミラー。

 レオポルド第四王子の花壇を整備する庭師。

 リアが言うには、とてもまじめで、植物の知識も豊富である。

 リアもここに来ると、挨拶をしたり、植物のことを話したりすることがあるという。


「レオポルドお兄様の指示ですか」


 指示?

 あの石が?


「はい。今回は、こうしたいと」


 石まみれなのは、メインとなる場所。

 王立園芸会では、その年のテーマを作り、そして披露する。

 それが、王族のその年の評価にもなる。


 このままだと、庭園ではなく、皆が石を見ることになる。


 リアは、おいしそうに紅茶を飲んでいる。

 私もいただいている。

 ハーブティなのか、フルーティーな味わいだ。

 緊張していた気持ちが、少し和らぐ。


「まあ、アルフレッドお兄様だと、わからないわよね」


「はい、たぶん」


「そうよね」


「あの、どういうことですか?」


 私は、二人の会話がわからない。


 リアは、楽しそうに私の方を見る。


「うーん、出来上がってから見たほうがいいと思います。多分、言葉で言ってもうまく伝わらないので」


「そうですね。これは説明が難しいです」


 リアと庭師のミラーは、同時にうなずく。

 私は、そう言われて紅茶を飲むしかなかった。


「放っておいていいのですか?」


「ええ。アルフレッドお兄様には、適当に言っておくから」


 適当って、いいのだろうか。

 まあ、リアならうまく言うのだろう。




「それよりも……」


 管理棟を後にして、リアは、私をある場所に連れて行った。


「これは、なんですか」


 私は、花壇のその惨状を見て、つい、つぶやいてしまう。


「犯人は誰ですか?」


 私は、王女殿下に聞く。

 なぜか、王女殿下は地面を見ている。


「え。まさか、ご自分でやられたのですか?」


「はい」


 何をしたら、こうなるのだろう。


 スミレの花が巨大化している。

 私の身長より大きくなっています。

 はっきり言って、怖い。


「どうしたら、こうなったのですか?」


「シャーロットに、『花が成長できる薬はありますか』って聞いたら」


「与える量を間違えまして」


 どうやら、王立園芸会に間に合わせるように、シャーロットさんに養育剤を作ってもらったらしい。

 しかし、一日一滴のところを、一日一瓶使用していたらしい。

 その結果、育ちに育ち、この大きさになった。


 花を見上げる。

 初めての光景だ。


「どうするのですか?」


 私は、一応聞いてみる。


「えっと、とりあえず、ステラの家に置くのはどうかなって」


「嫌です」


 私は即答する。


「私がプレゼントするのですよ」


 リアは、天使のような笑顔でこっちを見ている。

 しかし、これはプレゼントとは言わない。

 証拠隠滅というのだ。


「いりません」


 最近、リアの扱いがわかってきた。

 ワトソンさんがたまに適当にあしらっているのは、こういうことがあるからかもしれない。

 ただ、ワトソンさんの性格が大きいかもしれないけど。


「そうですか。困りましたね」


 彼女は、あまり困っていないような表情をしている。


 もしかして。


「ここに来た理由って」


「はい。この花をプレゼントするためです」


 リア、私の休みを返してください。

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