補佐官は、休暇をとる。③
「あれは?」
嫌な予感がした。
プライベートビーチ。
所有者しか入れないその場所。
唯一入れる場所がある。
海から。
目の前にいるのは、防護服を着たレジナルド准教授。
しかも、何かを持ってきている。
なんだろう。
「失礼します」
私の隣には、いつの間にかエディスさんがいた。
リアの近くにいる近衛隊が驚いている。
誰も気づかない。
この人。
すご過ぎる。
「エディスさん。あれは何ですか?」
「はい。レジナルド様がやっと見つけた実験試作品です」
それは、嫌な言葉を聞いた。
実験試作品。
やっぱり何かをしていた。
関わりたくない。
そんな私の気持ちを無視して、エディスさんは話し始める。
もう聞きたくないです。
「これは、海中を探索するために作ったものです」
海中を探索?
何をするの?
魚でも捕まえるのですか?
「海中には、まだ見ぬ鉱石や物質があります。それを確認するため、海底を探査していました。しかし、海中で動かしてから行方不明になりました。ただ、最近この一帯に不審物が現れたとの情報を得たので、確認に来ました」
もしかしてさっき見たあれか。
「もちろん、レジナルド様には昼夜問わず捜索してもらいました」
たまに、レジナルド准教授に冷たいな。
何か嫌なことでもされたのですか?
それとも、エディスさんは海が苦手なのだろうか。
あんな水着を着ていると十分満喫しているように見える。
「私、今休暇中なので」
私と同じだった。
そうですよね。
休みは休みですよね。
わかります。
「それで、あれがそうなのですか?」
「はい。そうです」
大きさ的には、私より小さい。
レジナルド准教授は、頭にかぶっているものを取った。
「ステラ君。やあ、久しぶりだね。こんなところで会うとは、釣りかい?」
「こんにちは、レジナルドさん。お元気そうで」
「ああ、あれ。ここは、私が入った海岸じゃないね。間違えたかな」
「ここはプライベートビーチです」
「そうか。君は意外にお金持ちなんだね」
そんなわけないでしょう。
一介の補佐官にそんな収入ありません。
後ろにいるリアとクラリーは、不思議そうに見ている。
近衛隊は警戒態勢を解いていない。
レジナルド准教授とエディスさんは気にしていない。
「さて、ちょっとここを借りるよ」
私に言われても困りますけど。
レジナルド准教授は、海中で捕まえたものを砂浜に置いた。
魚の形に似ている。
イルカとかかな。
「よし。さて、行ってくるか」
なぜか、少し慌てた顔をしている。
「えっと、どこに?」
「ああ、これ、まだあるんだ」
そう言うと、また頭にかぶり物をして、急いで海の中に戻っていった。
エディスさんの方を見るが、もういない。
私の前には、イルカ型の魔導機械が放置されたまま。
「ステラ、あれはもしかして」
「はい。レジナルド准教授です」
「仕事ですか?」
「はい。実験みたいです」
「そう。でも、海での実験なんて禁止されていなかったかしら」
そうだった。
いつものことで忘れていた。
川や海での実験は、基本禁止なのだ。
海に囲まれているこの国は、海上事故があるだけでも大変である。
資源や商品の輸入、輸出は船で行う。
そのため、海上や海岸の警備は穴がないようにしている。
それは防衛にもつながる。
だからこそ、魔法省や魔導学園も海での実験には手続きが厳しい。
それをやっている。
そういえば、リアを見た瞬間、レジナルド准教授は急いで海に戻った気がする。
そして、エディスさんも消えた。
それなら、この証拠品も一緒に持っていってほしい。
そうしていると、クラリーが一度別荘に戻りましょうと提案してくれた。
これ、どうしよう。
放置するか。
仕方がない。
私はイルカ型魔導器具を両手に抱えた。
「ステラ、持っていくのですか?」
リアが聞いてきた。
「はい。一応、放置もできないので」
「そうよね」
「危ないものではないみたいなので」
本当はわからないけど。
その日の夕食も素晴らしかった。
昨日よりも上品な味と量だった。
リアがいるせいかもしれない。
しかし、これはこれでいい。
食べたことがない味付けと見栄えである。
「おいしいですか?」
リアはいつも、私が食べていると聞いてくる。
私の答えはいつも一つだ。
「はい。美味しいです」
最高です。
美味しいものを食べている時が一番幸せだな。
リアとクラリーは食欲がないのか、こちらを見てほほ笑んでいる。
そして、自分の分を少し私にくれる。
ありがたい。
これは、私がモフモフにご飯をあげている時の気持ちに近いかもしれない。
疲れた。
いい疲れだ。
さて、モフモフ、寝ようか。
寝室に戻ると、ベッドに誰かいた。
リアだった。
そうか。
今日はこちらをリアが使うのだな。
そうだよね。
一番大きいベッドだからね。
「ステラ、待って」
私が出ようとすると、リアに呼び止められた。
「いいのですよ。こちらで」
「えっと、何がですか?」
「一緒に寝ましょう」
リアの提案に、私は答える。
「お断りします」
私は部屋を出て、扉を閉めた。
別に一緒に寝るのはいいのだが、リアには一つ欠点がある。
寝相が悪い。
私に抱き着いてくる。
かなりべったりと抱き着かれる。
モフモフでも、そんなにくっつかない。
それで、朝起きると少し体が疲れる。
もしかして、寂しがりなのかもしれない。
でも、今日は体を動かして疲れています。
ゆっくり寝たい。
お休みなさい。




