補佐官は、休暇をとる。②
「えっと、あれは何?」
海から何かが見える。
魚?
あんな大きな魚、いる?
しかも、入江にだ。
おかしい。
クラリーに連れられて、プライベートビーチに向かう途中、私はそれを見た。
私はモフモフをクラリーに預けて、海岸へと走る。
海岸には、海で泳いでいる人もいる。
私は、先ほど海面から出ていたものを探す。
三角のような形だった。
見間違いか。
私は辺りを再確認した。
せっかくの休暇なのに、疲れてるのかな。
よし、戻ろう。
そう思った時、悲鳴がした。
どこだ。
私は声がする方を見る。
その声は海ではなく、砂浜から聞こえた。
変な格好をした人がいた。
頭を全て囲った帽子みたいなものを被り、顔には透明な膜がある。
ガラスだろうか。
全身も異様な服を着ている。
防護服のような姿だ。
そして、その隣には見たことがある人がいた。
エディスさんだ。
この人は、隣の人とは反対に水着を着ている。
全く布地がない。
つけている意味がないくらいの面積だ。
普段会った時も、変わった格好をしていた。
そういうタイプのおしゃれさんなのだろう。
シャーロットさんとは真逆のタイプだ。
あの人。
作業着と制服しか見たことがない。
水着とか着るのだろうか?
しかし、エディスさんは身体が整っている。
出るところは出て、引き締まっているところはしっかりある。
少し羨ましい。
私とシャーロットさんとは真逆のタイプだ。
私の視線に気づいたのか、エディスさんがこちらに向かってきた。
ああ、やっぱり本人だった。
隣にいる全身防護服もついてきたので、周囲の視線が私に集まる。
絶対、仲間だと思われている。
少し恥ずかしい。
「ステラ様、珍しいところでお会いしますね」
「はい。お久しぶりです、エディスさん」
私は隣の防護服を見る。
エディスさんはそれに気づく。
「こちらはレジナルド様です。今、これをすぐに脱げないので、挨拶できず申し訳ございません」
まあ、そうだと思いました。
「ステラ様は、捜査ですか?」
さすがに、ここまでだと管轄が違う。
レストレード監査官やシャーロットさんだと、どこまでも調べに行きそうだけど。
「いえ、休暇中です」
「そうですか。それは良かった」
エディスさんのその言い方だと、これから何かやらかすけど、休暇中なら構わないでください、と聞こえる。
考え過ぎかもしれない。
「エディスさんたちは、実験ですか?」
一応聞いておく。
後で知りませんでしたとは言えないので、どうしても仕事が頭から離れない。
これが職業病なのかも。
「いえ、海水浴です」
この人、嘘が下手すぎる。
貴女の格好は、まだわかります。
いや、それ、泳いだら水着が取れそう。
泳げるのですか?
それに輪をかけて変なのは、隣のレジナルド准教授だ。
明らかに怪しい。
「レジナルド様は、日焼けと潮風が好きではないのです」
じゃあ、なんで海水浴に来たのだろう。
私の疑問は、頭に留まったまま。
「ステラお姉様?」
クラリーとモフモフが、近くまで来ていた。
「大丈夫。怪しい格好をしているけど、怪しい人ではないから。たぶん」
「はい」
クラリーは防護服を見た後、エディスさんの胸を見ていた。
わかります。
大きいですよね。
我々のあこがれです。
いや、待てよ。
クラリーは、私よりもきっと。
考えるのはやめた。
「では、失礼します」
そう言うと、エディスさんとレジナルド准教授は、そのまま海に向かっていった。
大丈夫なのだろうか?
やだな、水難事故。
よし、気を取り直して、クラリーの家が管理しているプライベートビーチに向かった。
広い。
砂浜が白く輝いている。
海も綺麗。
私とモフモフは、海を満喫している。
泳ぐのは久しぶりだ。
この前の事件で、川に流されて以来だ。
そういえば、その時はモフモフに助けられた。
君、泳ぎ上手だよね。
モフモフは、顔だけ出して浮いている。
気持ち良さそう。
クラリーは泳げないらしく、砂浜で待っている。
傘を差したところに座って、こちらを見ている。
しばらく泳いでいると、砂浜のクラリーの方に誰かが来た。
最初はメイドさんかと思ったが、服が違う。
揉めているようにも見える。
私はモフモフに声をかけ、陸に戻る。
近づくと、誰だかわかった。
え?
なんでいるの?
「ステラ、水着、いいですね」
私を見る視線が少し怖い。
頭から足先まで見られた気がした。
「はい、ヴィクトリア王女殿下」
リアだった。
どうやら、王宮の用事が早めに片付いたので来たらしい。
元々は、リアとクラリーで過ごす予定だった。
ただ、急にリアの予定が変わってしまった。
本当は延期にしようとしていたはずが、私の休暇のことをワトソンさんから聞いて、別荘を当てがってくれた。
リアは来ないと私は予想していた。
外れた。
仕方がない。
そういうこともある。
「よかったわ。ステラと海を満喫できて」
笑顔が眩しいな。
リアが私の腕にくっつく。
クラリーは私たちを見て、頬が赤い。
日焼けし過ぎかな。
リアの水着は、王女様らしく白い色のワンピース型だった。
清楚な感じです。
良かった。
エディスさんみたいなのではなかった。
さすがにあれだと止めたかもしれない。
「ステラは、可愛い系の水着じゃないのですね」
私は機能性重視です。
泳ぎたいので。
泳ぎ。
水の掛け合い。
砂浜で遊ぶ。
楽しみました。
お腹も空いたし、今日のご飯が楽しみ。
その時、海辺から何かが出てきた。
いや、海の中を歩いている。
何かを持っている。
私の休暇はそこで終わった。
そう感じた瞬間だった。




