補佐官は、休暇をとる。①
最近。
大きい事件が多い。
関わる人や組織が大き過ぎて、対応に困ることがある。私の人生で、王族や貴族に関わることがこんなにあるなんて、思ってもみなかった。
今日は久々の休み。
報告書も始末書もない。
休みを晴れやかに迎えるために、全てをやり切った。レストレード監査官にも釘を刺した。
私は明日から休みですと。
この街と市民の安全と平和を守るのが仕事です。
わかっています。
でも、休みたいのです。
言い訳など言いません。
私は休みます。
すみません。
一番の問題はリアだ。
たまに私の家にいる。
ただ今回は、確認を取っている。
リアは今日から王宮の集まりで、外には出られないはず。
二番手はシャーロットさんだけど、ワトソンさんの話だと、学園の試験があるらしく、仕方なく講義を受けているらしい。
女子会の集まりも今週はない。
色々と不安はあったが、私は今ここにいる。
もちろん、モフモフもいる。
そう、休暇の始まりだ。
クラリッサ・ブラックウェル嬢。
通称クラリー。
最近仲良くなった魔導学園の学生だ。
なぜか私のことをお姉さまと呼ぶ。
理由はわからない。
「ステラお姉さま」
玄関前から声が聞こえる。
手を振っている。
嬉しそうだ。
モフモフのしっぽの振り方に似ている。
あれ、可愛い。
私はつい、クラリーの頭をなでてしまった。
「お、お姉さま」
なぜか、うっとりした目を私に見せる。
ここはモフモフとは少し違う。
貴族のお嬢様だし、当然だけど。
「綺麗ですね。空気もいい」
ここはブラックウェル卿の別荘だ。
私の休暇予定を、なぜかクラリーは知っていた。
前から行きたかった場所であった。
この時期はホテルも高く、予約が取れない。
私はあきらめかけていた。
なんとか休暇を取れることになったけど。
もしかしての可能性を考え、私は調べた。
無理でした。
家でのんびりもいいかもしれない。
そう思い直していた。
そんな時に、ワトソンさんから連絡が来た。
「ステラ、泊まるところを探していたでしょう?」
「はい。でも、どこも取れなくて」
「ステラがよければなんだけど、知り合いっていうか、その人の別荘を貸してくれるみたいなのよ。どう?」
とてもいい話だ。
しかし、これにはきっと裏がある。
別荘を持っていて、ワトソンさんの知り合い。
リアだ。
私は断る。
何か嫌な予感しかしないからだ。
「ヴィクトリア王女殿下じゃないわよ」
え?
まさか、そんな。
しかし、ワトソンさんが嘘をつく理由がない。
「だ、誰ですか?」
それがクラリーだった。
予想していない人だった。
学園ではよく話していたが、事件の後は挨拶に行ったくらいだ。
いい子である。
たまに少し変わった発言をするけど。
「どうして、クラリーさんが?」
「えっと、ステラも知り合いだったのね。だからか」
ワトソンさんは何かを納得している。
「はい。この前の事件で学園にいた時、色々助けていただきました」
「で、どうなの?」
これはいい話だ。
リアもいない。
別に彼女のことを嫌いではない。
どちらかというと好感を持っている。
ただ、たまの休暇はのんびりしたい。
しばらく振り回されたくないのだ。
少し悩んだ。
でも、結論は出ていた。
「行きます。お願いします」
「よかったわ。では伝えておくわね」
後日、クラリーから連絡が来た。
いいのですか、という別荘の場所だった。
しかも私一人だけ。
動物可。
モフモフを連れていける。
これが一番の理由かもしれない。
一つだけ条件があった。
「ステラお姉さま。まず家の中を紹介しますね」
私は玄関から、まずこの景色が一番よく見えるバルコニーに案内されていた。
「はい。お願いします」
クラリーに連れられて部屋を見る。
「こちらはリビングです」
ひ、広い。
私の家を全部合わせるより広い。
なんか落ち着かない。
「こちらが寝室です」
何、このベッド。
こんな大きいのあるの。
そして、やわらかそう。
「三人で寝ても問題ありません」
ん?
モフモフと寝ても、という意味かな?
その後、お風呂、もう一つの寝室など各部屋を案内された。
広すぎて疲れる。
「食事ですが、料理人がいますので、何でも作れます。地域の特産品などを使った料理を用意しております。あと、希望のものがあれば何でも言ってください。モフモフさんのお食事も用意しております」
すごい。
いいの。
私、泣いちゃいそう。
「何かありましたら、私かメイドに言ってください」
「はい」
メイドさんいるの。
そういえば、何人かいた。
常駐でしたか。
まあ、ここを管理しているからそうだろう。
この別荘にいられる理由が、クラリーも一緒ということだ。
それくらいは問題ない。
クラリーはリアよりも疲れない。
「じゃあ、行きましょう」
私はクラリーについていく。
馬車を用意してくれていたので、意外に早く着いた。
クラリーも一緒だ。
馬車の中では、最近の学園のことなどを聞けた。
ここは、セブン・シスターズ。
その景色は素晴らしかった。
白い断崖が見える。
海との境目には、軽く霧が生まれている。
シャーロットさんに聞いたところによると、石灰石という石が断崖にあるため、その場所一帯が白くなっているらしい。
セブン・シスターズの名前の由来は、断崖に並んでいる七つの崖を姉妹みたいだと言うことらしい。
崖自体はかなりの高低差があるので、少し疲れる。
姉妹の性格も色々あるのだろう。
モフモフもハアハア言っている。
これは運動不足だな。
美味しいものを食べ過ぎているかも。
私も気を付けないと。
今日は忘れるけど。
クラリーは意外に体力があるのか、一緒に歩いても息切れしていない。
若いせいかもしれない。
いいな。
しばらく崖からの景色を楽しみ、クラリーが持ってきてくれた軽い食事をいただく。
おいしい。
リアの時もそう思ったけども。
貴族の食事って味が違う。
これは作っている素材だけではない気がする。
満足。
「行こうか」
のんびりしている間、特に会話もなかった。
ただ、のんびりと景色を見ていた。
こういうのも私は好きだ。
モフモフもいつも以上にのんびりしている。
馬車のところまで戻り、クラリーの別荘に戻った。
「ステラお姉さま、先にお風呂はいかがでしょうか?」
「はい。いいのですか?」
ちょうどさっぱりしたいところだった。
「私も一緒に……」
クラリーが何かを言っている気がする。
「モフモフも入れてもいい?」
私は、潮風に当たったモフモフをお風呂に入れたかった。
「はい、もちろんです」
さっぱりした。
というか、お風呂も広すぎる。
私は自分の髪とモフモフを乾かした。
さすが貴族邸。
最新式の乾燥魔道具がある。
リアのところにもあって、重宝した。
自然乾燥よりも、次の日の髪の毛の質が違う。
気づくと、ベッドで少し寝ていた。
私とモフモフと。
って、クラリーも寝ていた。
いつの間に。
三人で寝ていても余裕がある。
広いなこのベッド。
心地がいい。
「あ、お姉さま」
クラリーはゆっくりと起き上がる。
背丈は私と変わらないのだが、上品さが出ている。
そして愛らしい顔をしている。
抱きしめたくなる。
「おはようございます。クラリー様」
夕飯。
「おいしい」
「よかったです」
私はこのおいしさを生涯忘れない。
食べたことがない料理ばかりだ。
どう表現していいかわからない。
おいしいしか言えない。
クラリーは私の方を見て、楽しそうだ。
モフモフもおいしそうに食べている。
満足すぎる。
しかし、さらに私を満足させるものが来た。
スイーツだ。
地元のフルーツを使ったケーキ。
甘すぎない。
季節の果物とのバランスがいい。
ずっと食べていたい。
「ステラお姉さま。私の分も食べます?」
「いいのですか?」
「はい。きっとこのスイーツも、お姉さまに食べてもらいたいはずです」
そんなことはないと思うけど。
私はクラリーの分もいただいてしまう。
もう動けない。
食べ過ぎてしまった。




