補佐官は、ただただ呆れた。
「ステラ、どういうことですか」
私は帰宅した瞬間に怒られた。
目の前にいるのは、リアことヴィクトリア王女殿下。
この国の第三王女だ。
どうして、私の家にいるのですか?
「何のことですか? リア」
「え?」
まるで、この世の地獄みたいな顔をしている。
なに。
私、何かした?
「この前、学園に来ましたよね」
「はい」
報告書を取りに来た。
しばらく学園にいたから、書類が溜まっていたのです。
「私の所に来ないで、しかもシャーロットと一緒に楽しそうに」
いや、仕事です。
楽しくはないですよ。
「しかも、二人きりで夜に密会して」
だから、仕事です。
ワトソンさんもいました。
「ひどいです」
ひどくないです。
あの後、大変だった。
久々に始末書を書くことになったと思ったくらい。
っていうか、何で目に涙をためているの?
仕事したらダメですか?
私にも生活があります。
「それで、どうしてここにいるのですか」
リアのことは、軽く流すくらいがいい。
「ど、どうしているって」
そんなものすごい質問はしてないですよ。
私は疲れたので、まず荷物を置いて着替える。
リアが寝室のドアの隙間から、こっちを見ている気がする。
何も隠してないですよ。
捜査官みたいな目をしている。
私は何かを疑われているのだろうか。
もしかして、この前の事件の捜査状況だろうか。
監視局でも、報告書を王宮に提出している。
あくまで詳細と現状確認みたいな内容だけど。
誰が何をした、ではない。
こういう事案があって、たぶんこういう可能性があるかもしれない。
書いている方も読んでいる方も、なんだかわからない。
王宮に提出するものは、そういう形のものが多い。
出さなくてもいいとすら思う。
レストレード監査官は、我々が作ったものとは別のものが存在するから、それを見ているとか言っていた。
では、それは誰が作っているのだろう。
「はい、お夕飯です」
きちんと料理を用意してくれるのがありがたい。
しかも、王宮の料理人が調理してくれたものだ。
そのおいしさに、私は逆らえない。
リアに頭が上がらないのは、彼女が王女様だからだけではない。
この料理のせいかもしれない。
「ありがとうございます」
その声に反応して、モフモフがどこからともなく現れる。
君もリアの対応に慣れてきているのね。
モフモフの頭を軽くなでる。
モフモフ、食べなさい。
先にモフモフのご飯を用意する。
リアが用意する、モフモフの健康にいい食事だ。
ありがたい。
最近、モフモフが太った気がするから、運動不足かもしれない。
気を付けないと。
散歩の回数が少なくなっていた。
来週からは休暇に入るから、それまでにはやっておかないと。
「ステラに会いたかったのです」
今日は何かなと、ご飯に期待する。
「聞いてます?」
「はい、もちろんです。お肉ですね」
牛肉?
違う。
なんだろう。
香りが少し独特だ。
スパイスのせいかな。
「え、はい。お肉ですけど。いや、そうではなく」
「どうして、私に会いに来ないのですか?」
リアは、私がお肉を口に入れる前に距離を詰めてくる。
「仕事をしていたので」
「はい。ですから、仕事でなんで来ないのですか?」
仕事で来ない?
「リアの警護の仕事は、もう終わっていますから」
「終わっていても、心配になりますよね」
特に心配にはならない。
私より強い王宮近衛隊がいるから問題ない。
「すみません。休みの日に行こうと思っていました」
それは本当だった。
一応、事件の報告とリアの様子を見ようと考えていた。
監視局的には、あまり関わりたくないようだ。
そういう感じのことを、上司から言われた。
直接ではない。
今の段階で王族と関わるのはよくない。
面倒なことだ。
それとなく伝えようとしたのだが、まさか今日、家にいるとは。
私の周りの人たちは、行動力がありすぎる。
「そうだったのですか。言ってください。寂しかった」
一週間も経ってないですよ。
でも、私もモフモフと会えなくて寂しかったから、気持ちはわからなくもない。
どちらかというと、リアって犬というよりもネコっぽいかな?
おいしい。
これ、脂身が甘い。
何という料理だろう。
食べたことがない。
「聞いてます?」
「はい、もちろんです。私も会えてうれしいです」
リアは、見たことがないくらいの笑顔になる。
可愛い。
この人、こんな一面があるのだな。
私が異性だったら大変だ。
「そうだ。一応、事件の今の状況を話しますね」
「はい」
リアは少し真剣な顔になった。
「監視局としては、もちろんこれ以上の捜査はしません。ただ……」
そう。
ただ。
砂のゴーレムは危険すぎる。
これの使用は、たとえ王族でも許可できない。
「そうですね。あんなのが急に現れたら怖いですよね」
怖いで済まされない。
シャーロットさんの見解だと、リッチモンドパークだからこそできた。
あそこは、魔力導管を引いていない箇所が多い。
街中だと、ゴーレムは安定しない。
そして、リッチモンドパークの砂ゴーレムは、リアとシャーロットさんの研究、通称ドーナツにより起動できなくなっている。
起動させるためには、全ての土を入れ替える必要がある。
それこそ、ものすごい費用と時間がかかる。
今それをしたら怪しまれるし。
「王族では、どういう話し合いをしているのですか?」
「何もないですわ」
ないのか。
「ただ、王宮親衛隊はかなり怒っていました。特に近衛隊が」
「アルフレッド第二王子殿下の方は?」
「アルフレッドお兄様は、被害者の顔をしています。誰かが自分をはめようとしたと周りに言っているらしいですけど、あまりいい作戦ではないですね」
「そうですか」
罪もなく、罰もないのか。
「でも、リッチモンドパークの管理からは外されそうですけど」
「そうなのですか?」
「ええ。女王陛下が少し怒っておられるようです」
少しは罰があるのか。
「それと、ステラにプレゼントを持ってきました」
もしかして、お菓子ですか?
リアが言うと、玄関からそれが来た。
「いや、いらないって言いましたよね」
「私だと思って、大事にしてください」
そこには、リッチモンドパークで見た巨大スミレがあった。
ちゃんと鉢に入っている。
モフモフが首を上げ、見上げている。
「わん、わん、わん」
珍しくモフモフが吠える。
そうか。
君も怖いのか。




