表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/19

補佐官は、のんびりしたい時もある。③

 追いかける。


 かなり速い。

 追いつかない。


 なんだあれは。

 馬車ではない。

 もっと高さが低い。


 四角い物体。

 それが高速で動いている。


 道路を。


 曲がり角ですら、軽く速度を抑えて曲がっている。


 疲れないのか、速度が変わらない。

 もしかすると、生き物ではないのかもしれない。


 シャーロットさんは、私の後ろにいる。

 たまに横から顔を出している。


「ステラ、大きい道路を走って」


「はい」


 私は指示に従う。


 箱。


 私はそう呼ぶことにした。


 箱の正面が明るい。

 魔力灯で照らしているようだ。

 そのおかげで追跡しやすい。


 道路の下に薄い溝が見える。

 これをつけているのが箱だ。


 原因がわかった。


 しかし、これがもし建物にぶつかったら、大変なことになる。


 かなり走った。

 少しずつ離されている。

 馬の体力から見ても、どんどん離されていく。


「もうちょっとよ」


 シャーロットさんは後ろで言う。


 よし。

 がんばって。


 私は馬の首を優しくなでる。

 私の気持ちが伝わったのか、馬が最後の力を出してくれる。


 距離が少し縮まる。


 いや、箱の速度が遅くなっているのもある。


 捉えられそうだ。


「ステラ、まずいわ」


 シャーロットさんが、耳元で突然叫ぶ。

 私はそれを聞いて、速度を少し落とす。


 箱は、いきなり速度を上げる。


 この場所は長い直線の道路。

 箱の速度は、今までで一番速い。

 箱からの音も大きくなる。


「どうしますか?」


 シャーロットさんに聞く。


「そのまま追いかけて」


 箱の速度が上がったのは一瞬だけだった。

 その後は、今までよりも遅い気がする。


 今だ。


 私は速度を上げる。

 追いつく。


 もうそろそろ。


 でも、これ、どうやって止めるの。

 体当たり?

 それとも上に乗る?

 誰が?


 円。


 ちょっと、シャーロットさん。

 やる前に言ってくださいと言いましたよね。


 青い光に当たった瞬間、箱は速度を緩める。

 どんどん遅くなる。


 そして止まった。


 馬を箱の横につける。

 シャーロットさんが飛び降り、箱に近づく。


 相変わらず躊躇がない。


 箱は動いていない。

 振動もない。

 正面にあった魔力灯は消えている。


 車輪みたいなものがある。

 高さがなく、太い。

 これが道路の跡か。


 シャーロットさんは箱に触り始める。


 本当にそれ、大丈夫ですか。


 何かを見つけたようで、シャーロットさんはごそごそしている。


 箱の扉が開く。

 扉の中には彼女がいた。


「シャーロット様、いきなり止められると困ります」


「許可書がないのはまずいですよ」


 シャーロットさんって、たまにまともなことを言うよな。

 結構勝手なことをしているのに。

 まあ、助かっていることもあるからいいけど。


 箱から出てきたのは、エディスさんだった。


 私は馬から降り、休ませる。


 ありがとう。

 助かったよ。


「許可書はないですね。ステラ様も一緒でしたか。それは仕方がないですね」


 何が仕方がないのだろうか。


「エディスさん、これは何ですか?」


「これは、新しい乗り物です」


 乗り物?


 馬もなく動いていた。

 かなりの速度が出ていた。


 大きさは、人が二人乗れるくらい。

 長さは馬と同じ。

 高さは、私の身長より頭一つ高い。


 座って乗るようだ。

 どうやって動いているのだろう。


 車輪も変わっている。

 幅が広い。


 レジナルド・クロムウェル准教授。


 変わったものを作る天才教授。

 そして、その被害も大きい。


 学園で許可が下りない実験は、隠れて行っている。

 だからといって、街中でやらないでほしい。


「最初は郊外の道で行っていたのですが、道路の舗装状況などが街中と郊外では違うので、街中で走る情報も欲しいとなりました」


 エディスさんは淡々と答える。

 まるで文章を読んでいるようだ。


 シャーロットさんは話を聞いていない。

 その乗り物の中に入り、ぶつぶつ何かを言っている。


 一緒に話を聞いてください。


「夜遅く走るのは近隣の迷惑にもなりますし、きちんと許可を取っていただければ、たぶん大丈夫だと思いますよ」


「そうなのですか?」


 エディスさんは驚いている。


 もしかして、この人たち、許可とか確認とか取らない人なの。


「エディス、この動力は魔力石を使っているの?」


 シャーロットさんは、もうこちらの味方ではないようだ。


「はい。魔力石に魔力をためて、その力を利用します。速度が増すごとに容量が減っていきます。安定した速度で走るのが、一番容量が減りません」


「さっき、最後に急加速したのは?」


「一時的に加速度を最大限に上げることができます。その後は容量がなくなるので、遅くなりますけど」


「じゃあ、容量がなくなったら、魔力石を取り替えたら」


「おしまいです。シャーロットさん、エディスさん。ワトソンさんと合流します」


 私の一声で、二人は静かになる。


 周りの確認をしておく。

 被害はほぼない。

 音と、道路に溝ができているくらいだ。


 ワトソンさんがやってきた。


「やっぱりエディスか。いい加減、許可取りなさいよ」


「はい、すみません。ワトソン先生」


 エディスさんが、さっきと違う。


 なんだろう。

 先ほどまで人形だったのに、急に人間になったような。


「ステラに迷惑かけないの」


「はい、ワトソン先生」


 ワトソンさんがエディスさんを注意している間、シャーロットさんはいきなり魔法を発動した。


 円。


 周囲が蒼い光に包まれる。


「なるほど。素晴らしい構造ね」


 この人、本当に自由だな。


「シャル! 一言言ってからやりなさい」


 一言言っても、やらないでください。


「エディスさん、この道路の溝の修繕費は請求しますよ」


「え? それは困りましたね」


 エディスさんの表情は困っていない。


「というわけです」


 私は、エセリン監査官に報告した。


「そう。でもこれ、報告書を書いても、たぶんそのままね」


「はい。そう思います」


 魔導学園の実験。

 しかも貴族の。


 これで何回目だろうか。


 本当に、この国の貴族は困ってしまう。

 まだ被害が大きくないのが救いだ。


 ただ、この物体。

 なぜかレストレード監査官や一部の男性職員たちは、ものすごい興味を持っていた。


 馬を使わないので場所は取らず、速度も安定している。


「わかってないな、ステラ。これはロマンだよ」


 レストレード監査官が、珍しく熱く語っていた。


 ロマン?


 何を言っているかわからない。


 それを聞いた私とエセリン監査官は、ドーナッツを食べながら顔を見合わせるしかなかった。


 なぜか監視局に、レジナルド准教授の乗り物がある。

 レジナルド准教授はもうそれに飽きているらしく、監視局と魔導学園の共同開発になっていた。


 そのため、道路の修繕費は監視局持ちになった。


 これが研究を売る理由かと、私は思う。


 シャーロットさんも入り浸っている。

 昨日からずっといるので、学園にほぼ帰っていない。


 また怒られますよ。

 ハドソン寮長に。


 ワトソンさんが呆れていた。


 側にいるエディスさんが、なぜか顔を赤くしている。

 研究引き継ぎでいるらしい。


 レジナルド准教授の研究室の学生が何人かいる。

 彼らとシャーロットさんが話しているのが見える。


 よく考えると、シャーロットさんは無関係だな。


 監視局の中では、整備室が引き継ぐようだ。

 魔法具の整備や補修を行うところで、魔導銃もここに預けている。


 事件や事故があった場合は、この整備室で調査をしている。

 前回の砂のゴーレム事件でも調査をしてもらった。

 報告書を書く時に、調査資料として載せている。


 実用化される日が近くなったら、早速乗ってみたい。


 馬よりも速い乗り物。

 非常に興味深い。

 どれだけの速度が出るのか楽しみだ。


 そうそう、名前は。


 通称、ファントムだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ