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王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


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12/19

補佐官は、のんびりしたい時もある。①

「はい、ありがとうございました」


 私――ステラ・ホプキンスは、今、捜査中だ。

 久しぶりの通常業務。

 少しだけ新鮮さを味わう。


 通報者からの聞き取りも終わり、周辺の状態を確認する。


 馬車の車輪跡や人の足跡はある。

 それとは別の形がある。


 見たことがない大きさだな。

 幅が広いが、浅い跡だ。


 その跡はかなりの距離まで続いている。

 私が調べただけでも、一区画は少なくともある。

 きっと、もっと広いかもしれない。


 ただ、それだけで他に何も被害がない。

 捜査的には、優先順位が高くない。


 通報者には申し訳ないが、また時間があったら再調査をすることになりそうだな。


 よし、一旦監視局に帰る。


 その前に、この近くに新しい屋台ができたという情報を、この前の女子会で得た。


 決して、それを目的に調査するわけではないです。


 本当です。

 信じてください。


 これか。


 甘くて、少しスパイシーな香りがする。


 ジンジャーブレッド。


 焼き菓子だ。

 砂糖と生姜の匂いがする。

 食欲をそそる。


 店主に注文し、受け取る。

 そこで、さっきの調査のことを聞いてみる。


「あー、俺が来る頃には跡があったな」


「どんな形でしょうかね?」


「わからないなー。大きい馬車かな?」


「そうですか。ありがとうございます」


「また来てな」


「はい」


 もちろん来る予定だ。

 蜂蜜味とチョコレート味もあったのだ。

 来ないわけがない。


 一つ摘まみながら帰る。


 美味しい。


 歯応えがあり、黒糖の甘さと生姜の香り、そして若干の辛みが甘さを引き立てる。


 紅茶飲みたい。


 何か気配を感じる。

 ものすごくうまく隠されているが、知った感じの気配だ。


 少しだけ早歩きをして、通りの角を曲がり、待つ。


「こんにちは、ステラ様」


「あ、はい。こ、こんにちは」


 現れた人にいきなり挨拶をされ、私の方が驚く。


 エディス・グレイヴス。


 レジナルド准教授の助手だ。

 なかなかの経歴がある人だ。

 元軍人で、なぜか今は准教授の助手をしている。


「どうして、私をつけていたのですか?」


 こういうタイプは、直接聞いた方がいい。

 駆け引きをしない。

 私が得意じゃないのもある。


「はい。ステラ様がおいしそうにジンジャーブレッドを食べていましたので、食べ終わった頃に声をかけようと思っていました。それが今です」


 は、恥ずかしい。


 聞かなきゃよかった。

 だって、おいしそうだったから。


「あ、ありがとうございます。おいしかったです」


 私は、なぜかお礼と感想を言う。


「何か調べていたのですか?」


 エディスさんは細身で、両手には何も持っていない。

 服装は珍しい格好をしている。


 ドレスのように見えるけど、体のラインがよく見える。

 スタイルが良い人しか着られない。

 ワトソンさんとか似合いそう。


 表情は優しいが、その瞳の奥には危ない光が見える気がする。


「ええ、ちょっとした市民からの調査依頼でして」


「そうですか」


 それで、話は終わった。


 エディスさんとそこで別れ、監視局に戻った。


「エセリン監査官、お土産です」


 私は、エセリン監査官に先ほど屋台で手に入れたお菓子の袋を渡した。


「あ、ステラ。ありがとう」


「いえ、おいしいですよ」


 私は、先ほど味わった感想を言う。


「どうだった?」


「うんと、そうですね。あまり問題ないようです」


「そう?」


「どういうことですか?」


「いえね。その調査と似たようなものが、色々な地区で起きているようなの」


「そんなにですか?」


「そう。でも、大きい道路沿いだけなのよ」


 私のところもそうだった。


「資料、頂けますか?」


「ええ」


 明日、もう一度調べ直そう。


 さて、これからは報告書だ。


 学園関係の書類が溜まってきた。

 そろそろ、周りの視線が強くなってきている。


 仕方がない。

 明日は先に学園へ行ってから調査しよう。


 後は、この前の事件報告書の確認をレストレード監査官としなければならない。


 どこまで書いた方が良いだろうか。

 あまり突っ込んだことを書くと、様々な部署に多大なる迷惑をかける。


 私も大人になった。

 全然いい意味ではない。


 このイライラが溜まったら、またワトソンさんに愚痴を聞いてもらう。

 私の憩いの一つでもある。


 もちろん、一番はモフモフだ。


 次の日。


 よく考えれば、事件以来来ていない。

 リアにも会っていない。


 普通は、王女殿下に会うことなどあまりないので当然だけど、毎日一緒だったから麻痺していた。


 まずはハドソン寮長室へ行く。

 温かく迎えてもらい、紅茶を頂く。


 学園関係でシャーロットさん以外の書類は、ハドソン寮長がまとめてくれるので助かる。

 そんなに多くはないけど。


 さて、次はシャーロットさんがいる部屋に行く。

 塔の一番上だから、階段を上るのが疲れる。


 何人か学生とすれ違う。


 私もこの前まで、制服を着ていたな。

 懐かしい。


 しかし、あのスカートの長さは、普段の服では無理です。


「失礼します」


 シャーロットさんの部屋の前。

 私は扉をノックして、少し待つ。


 あれ?

 いないのかな?


 もう一度扉を叩き、そっとドアを開ける。


「失礼します。シャーロットさん? ワトソンさん? いますか?」


 シャーロットさんがいた。

 机の椅子に座っている。


 何かをしているのか、集中しているようだ。


 どうしようかな。

 声もかけづらいし、入った手前、出づらい。


 そう思っていると。


「ステラ、どうしたの?」


 シャーロットさんが、いつの間にかこっちを見ていた。


「え、こんにちは、シャーロットさん」


「報告書でしょう」


「はい」


 机の上から、持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


 私は、頂いた報告書を確認する。


 よし、大丈夫。


 あ、これ、この前の事件のか。


 内容を見る。


「これって、他にもあったのですか?」


 報告書の中には、貴族の館ゴーレムと同じような建物が何個かあった。


「ええ。さすがに街中にはなかったけど、郊外にはあったわ。探すのにかなり時間がかかったけど」


 だから、最近いなかったのか。


 結構行動力があるな、シャーロットさん。


 閉じこもって研究ばかりしているわけじゃないんだな。

 ここにいる間、講義で一回も会わなかったのは、これのためなのか。


「全て同じ貴族が行ったのですか?」


「ええ。でも、それぞれ目的が違う感じね」


 目的が違う。


 どういうことだろう。

 同じ研究の方が、やりやすいのでは。


「同じ形のゴーレムなのですか?」


「そうね。基本設計は。でも、出来上がった形は違ったけど」


「どんな形なのですか?」


「えっと、人型でももう少し小型だったり、動物のような形もあったわ」


「そうですか」


 私は、淹れていただいたコーヒーを飲む。


 美味しいな。

 腕がどんどん上がっている。

 カフェでも開けそう。


 そこで、この前の件を思い出す。


 しまった。

 忘れていた。


 この前、蜂蜜をいただいてしまったことを。


「あの、この前、レジナルド准教授のところでシャーロットさんの蜂蜜を頂きました。とってもおいしかったです」


「レジナルド准教授に会ったの?」


「はい。ゴーレムのことをシャーロットさんに調べてもらったから、もう一つのゴーレムのことを調べていると」


「あの人の言うことは、あまり信じない方がいいわよ」


 どういうことだろう。


「今回のゴーレム騒動も、たぶんあの人が何かしているはず」


「それは、どういうことですか?」


「証拠もないから何も言えないけど、軍で通らなかった研究を貴族に売りつけて、やらせるのよ。そして結果を見て、情報だけもらうのよ」


「え、でも、調査の依頼をされたのですよね?」


「売った研究が又売りされたようだから、私のところに来たのよ」


「それは、その、監視局には」


 と言いかけて、思い出す。


 レストレード監査官の秘密の捜査がこれか。

 危ないことをしている。


「あんまり公にすると、軍も困るから内密にしているのよ」


「じゃあ、あのもう一つの砂のゴーレムもそうなのですか?」


「ええ、そうよ。新しい警備システムとして作ろうとして、却下されたはず。でもそれを、第二王子の派閥に売ったみたい」


「でも、研究していた教授は亡くなったって言ってましたよ」


「そうね。元東インド研究所の、ある教授の研究を使ったのよ」


「あの人、途中までやるのだけど、飽きるらしくて投げ出すのよ。そしてまた新しいことを始めるのよ。そうなると今度は研究資金が足りなくなって、中途半端な研究を売って新しい研究費用にするの」


 め、面倒な人。


「ただ、砂のゴーレムは、元東インド研究所で一体だけ成功したらしいの」


「そこで、二つのゴーレムが開発されていた。張りぼてのようなゴーレムと、きちんとした命令ができるゴーレムね」


「そのゴーレムは、消えてなくなるのですか?」


「消えても、何度でも生み出せるはず。すぐには無理でしょうけど、魔法石とコアを組み込まなければいけないから」


「命令ゴーレムは、たぶん遠隔操作しているはず。きっとアグラの秘宝が関与していると思うけど、まだわからないわ」


 シャーロットさんは、少し遠くを見た。


 アグラの秘宝も、元東インド研究所が関与していた。

 タワーブリッジに、それはある。


 そういえば、その近くで昨日、エディスさんを街中で見た。

 少し不思議だった。


 なんとなく聞いてしまった。


「昨日、調査中にエディス助手に会ったんですよね」


「どこで」


 珍しく、シャーロットさんが聞いてきた。


 私は昨日のことを言う。


「それは、まずいわね」


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