補佐官は、やっとため息をつける。
久しぶりに家に帰れた。
朝に、貴族塔のリアの部屋を出てきた。
リアは、めちゃくちゃ寂しそうな顔をしていた。
「ステラの部屋は残しておきます。いつでも来てください」
えっと、残さなくていいです。
訪ねる用事はあるかもしれませんけど。
「だから、ステラの家にも私の部屋を作ってください」
何を言っているのだろう。
私の家は、この部屋よりも狭いですよ。
場所などありません。
相変わらず、王女様の言うことはよくわからない時がある。
玄関の扉を開けた瞬間。
モフモフが珍しく飛びついてきた。
あったかい。
落ち着く。
昨日、エセリン監査官から連絡が来ていた。
モフモフ、家で待ってるわよ、と。
よし、今日からはずっと一緒だ。
目に少しだけ嬉し涙が溜まった。
窓を開けて、空気の入れ替えをする。
洗濯も溜まっている。
掃除もしなきゃ。
気づくと寝ていました。
ソファーで。
モフモフも横で寝ていた。
気持ちがいい。
昼を過ぎていました。
急いで、洗濯と掃除をする。
部屋が片付くと、なぜか心が安らぐ気がする。
モフモフも、なぜか私の後ろについてくる。
掃除の邪魔だけど、心地がいい。
やっとひと段落。
よし、夜は美味しいものを食べよう。
あとで買い物に行こう。
モフモフ、行こうね。
買い物をしていると、目の前から見たことのある美人さんが歩いてきた。
「あら、ステラ。買い物?」
「はい、ワトソンさん」
「大変だったわね」
「ええ。でも、まだ色々と残ってますけど」
「そうよね。これからの方が大変よね」
まあ、それは後で考える。
今日は仕事のことは考えない。
「あ、そうだ。これ食べて」
そう言うと、ワトソンさんは持っていた紙袋から何かを取り出した。
「新しくできた屋台で売っていた、鶏肉の揚げ物なの。おいしいわよ。ついつい、いっぱい買っちゃって。お裾分けよ」
「ありがとうございます」
私は、遠慮なくいただく。
おいしそう。
「じゃあ、またね」
そう言うと、ワトソンさんは来た道を戻って行った。
「わん」
モフモフも、さよならを言う。
もしかして、私の家にこれを持ってきてくれる途中だったのだろうか。
ありがとうございます。
美味しくいただきます。
さあ、帰ろう。
た、食べすぎた。
お、お腹が苦しい。
事件がひとまず片付いたから、ほっとしすぎた。
く、苦しい。
朝。
今日は静かだ。
ここ最近は、リアの声とおいしい香りで起こされていた。
よし、起きよう。
隣にいるモフモフを軽くなでる。
久々の監視局。
上司に報告が終わる。
これから忙しくなりそうなことを言われた。
私は席に戻る前に、周囲を探す。
レストレード監査官はいない。
エセリン監査官もいない。
まあ、二人とも忙しいのだろう。
周りの同僚に挨拶をして、自分の席に行く。
私の机には、書類がないはず。
そんなわけがなかった。
いつもの倍。
いや、それ以上ある。
何で。
私、しばらくいなかったよ。
「おはよう、ステラ。久しぶり」
「お、おはようございます。エドガー先輩」
私は、隣にいるエドガー先輩に挨拶する。
「ああ、書類だろ。できるものは結構やっておいたけど、どうしてもレストレード監査官と学園関係は難しくてな」
「いえ、ありがとうございます」
とても助かります。
よし、頑張るか。
気づくと、昼を過ぎていた。
少し遅い昼を、カフェで食べる。
久しぶりのカフェ。
このコーヒーがおいしい。
懐かしい味だ。
新作の料理も色々あったけど。
ここは、定番にいってしまう保守的な私。
「今日は遅いご飯ね」
エセリン監査官だった。
「はい。モフモフを預かってもらって、ありがとうございます」
「いいのよ。私も楽しかったし、また一緒にいたいわ」
「はい」
よかった。
会えて、お礼が言えた。
「まさか、貴族の館事件がつながっていたとはね」
「はい。この件は、もっと深いです。私たちでどこまでできるか」
「そうよね。この前の四つの署名事件ですら、解決したとは言えないし」
元東インド研究所の職員が起こした事件。
多くの貴族が関わっていたようだが、証拠がないため公に捜査ができない。
さらに、軍の関与もある。
今のままでは、監視局は何もできない。
被害を止めるだけで精いっぱいだ。
そして、責任だけ取らされる。
エセリン監査官も、この事件で悩まされていた。
魔法省と軍と貴族の間で、話し合いがあったらしい。
口外するなと。
私のような下っ端ですら、腹が立っているのだ。
きっと監査官たちは、もっとだろう。
「レストレードは何て言っているの?」
「はい」
昨日の段階で、リアの警護と捜査は終了となった。
ある程度、犯人の目星と目的がついたからだ。
しかし、王族には手が出せない。
ここが一番の問題だ。
レストレード監査官とシャーロットさんが言うには、この事件を裏で糸を引いている者がいる。
こんな都合の良い誤作動など起きない。
起こしたい者が、あのタイミングで起こした。
そうできる力と能力がある。
そして、尻尾はつかめても、頭まではたどり着かない。
何をしようとしているのかが、まだわからない。
「マリア」
「はい?」
「四つの署名の事件でも、彼女の名前が現れたのよ」
「あのベリルの王冠の事件の首謀者ですよね」
「ええ」
「彼女のやり方は、かき回すだけかき回して、そして解決させるの。被害もあまりないのよ。もっと被害を拡大させることができるはずなのに。嫌なやり方よね。まるで、我々の技量を測っているみたい」
あなたたちは、きっとここまでなら調べられますよね。
そう言われているようだ。
そんなことはないと思う。
私たち監査局だけでなく、様々な部署が捜査している。
シャーロットさんも助けてくれていた。
「とりあえず、今度みんなでまた女子会しましょう。ステラがいないから、みんな我慢していたのよ」
ありがたいです。
楽しみができた。
私は、報告書に負けない。




