謁見する皇帝
謁見の間。
ヴィラン辺境伯から共和国の第二統領の謁見に応じて欲しいという口聞きがあったために、皇帝ーーダークサイド・デススターは謁見の間にて尋ね人を待っていた。
まだ面を合わせる前だというのに、すでに嫌な予感がする。
「閣下、第二統領のエリック・ハイザ殿が参られました」
「通せ」
ダークサイドが指示を出すと、謁見の間の扉が開けられ、白髪に褐色の肌ーー異国の種族の特徴を持った少年がビロードの上を歩いてくる。
「皇帝陛下、お目通り、誠に感謝致します」
「よい、表をあげよ」
「は」
ダークサイドはエリックが顔を上げたことを確認すると、おおよそ厄介ごとではあるのはわかりきったことなので乗り気はしなかったが、先を促した。
「して、用件はなんだ? 申してみよ」
「敵を滅ぼすためにわが国を侵略して欲しいのです」
支離滅裂なことをいきなり言い出した第二統領に内心ダークサイドは驚きつつ、思考を巡らす。
国が危機的状況に瀕して民を生かすためにわざと属領になるということはないでもない。
こと弱小国においてはしばしば起こることだ。
だが共和国については唯一の問題であった盗賊による侵略が、盗賊が滅んだことで、国が危機に瀕する問題ごとなくなったはず。
むしろ共和国の状況は改善の一途を辿っているはずで、ダークサイドには目の前の共和国のリーダーの一翼がなぜこんなことを言ってるのかわからなかった。
「侵略して欲しいか。一聞すると聞き心地のいい言葉だが、儂はこの国の安寧を守る立場にある皇帝だ。お主の国を侵略する利と不利を見極めねばならぬ。例えこの国の行く末を決める力のある英雄の後押しを受けているものであっても、即決はできぬ」
突き放すようにそう言うと、ダークサイドはエリックの顔に緊張が生じたのを見てとった。
相手は腹芸が得意ではない。
そう確信したダークサイドはエリックを注視する。
ここで嘘を突くようであれば即座に謁見を打ち切り、事実を述べるのあれば侵略の是非を決め、交渉に入ることを心に決める。
「皇国に与える利益は潤沢にある魔石と鎧の製造技術です。不利益は相手方の戦力による騎士の損失と戦後の民に対する生活を保証するための出資です」
嘘はついていない。
そう判断するとダークサイドは利益と不利益の吟味に入る。
民に対する生活の保障というのは莫大な出費になるが、利益として提示されている魔石と鎧の製造技術を天秤に掛ければ、大したデメリットではない。
むしろ頭を悩ませている魔石の枯渇と、他国と比べて遅れをとっている鎧の製造技術の問題が一挙に解決するのだから、皇国としては万々歳だ。
それに騎士の損失も今までの戦歴で、味方の損耗率0を常に叩き出しているヴィランが出撃すれば、無きに等しいレベルにできるので、侵略を実行しても国民から反感を買うこともない。
「ふむ。これ以上口を挟むのは野暮と言ってもいいほどの好条件だ。お主が望むものがないというのであればこのまま我が軍部と軍略について練ってもらうことになるが」
「これ以上のことは望むなど恐れ多いです」
「では軍略に移ってもらおうか」
騎士団長が前に出て、エリックを連れて行くと、当初あったダークサイドの予感とは真逆の結果で謁見を終えられたことに安堵する。
そして、心にゆとりができると唯一残った謎についてダークサイドの関心は向かった。
「此度のことはヴィラン辺境伯に一利もないことだというのに、なぜ第ニ統領の背を押したのだ? 暗部からヴィランと関わりがあったものは皆、胸糞というものに関心を寄せているものが多いと聞いているがそれが関係しているのか? 胸糞とは一体?」
思索を深めていくと、ダークサイドは無性に胸糞について気になり、暗部に胸糞について調査するように命令を出した。




