タロウ、『ファイア』を唱える
ようやく出発です(´•ω•`)
ノエルを肩車したまま井戸から出ると、当然の如くカイトがツッコミを入れてきた。どうして幼女を連れてるのだとか、何で井戸の中に知らない幼女が居たのか、とか。
正直に言って、説明するのは面倒臭い。だが、仲間として旅をする以上説明しない訳にもいかない。
という訳で説明したのだが……
「不思議な祠に不思議な台座……そこに黒いコインを嵌めたら封印が解けて、それでノエルちゃんが復活した……って事? ふーん……」
……案の定、信じてない様だった。
「……疑ってるって顔だな」
「だって、そんな話聞いた事無いし、だいたいこの村の井戸の中にそんな場所があるなんて信じられる訳ないよ!」
「じゃあ、現にノエルがここに居る事をどうやって説明するんだ?」
「それは……予めタロウがどこかで攫って来て、村を旅立つまで井戸に隠してた……とか?」
「アホか! この村にカイトよりも幼い子供なんて居ないし、かと言って俺の故郷のロゼ村でも俺以外の若い奴は居ないんだぞ!? どこから攫って来るって言うんだよ!」
「うーん……あ! 井戸の底がカンドセの街に繋がってて、それで攫って来たって事だ!」
「これから向かう所で攫ってどうする!? ……とにかく、これからはノエルを含めた三人で旅をするんだから、俺の話を素直に信じろ!」
「……分かったよ。とにかく、いよいよ出発って事だね。僕、この村以外を知らないから凄く楽しみだよ!」
カイトが信じたかは微妙な所だが、とにかく俺たちはバンイチ村を後にして、カンドセの街を目指して歩き出した。
ちなみにだが、ノエルは俺に肩車された状態で寝ている。見た目が三歳児だからなのか、直ぐに疲れて寝てしまう所まで三歳児だ。
バンイチ村の中央付近の井戸から東の門まで歩くだけで疲れたらしく、村から出た辺りで歩きながら船を漕ぎ始めた為、仕方なく俺が肩車をする事になったのだ。
契約上俺の方が主なのに、これじゃどっちが主だか分からん。まぁ寝顔が可愛いから許せると言えば許せるけど。
ともあれ、カンドセの街が在る東方向へと街道を進んでいると、バンイチ村を出て初めてとなる魔物が姿を見せた。
そいつの顔は大変醜く、身長も150cm程と比較的小さい。暗緑色の肌と、額から生えてる小さな角が特徴だな。
現れたのは、ファンタジー物のゲームで、スライムと並んで有名なゴブリンである。
「カイト、頼めるか? 俺はこんな状態だし」
「ゴブリンくらい任せて! 訓練代わりにいつも倒してたからね!」
ノエルを肩車している俺は、ゴブリンの討伐をカイトに頼んだ。気持ち良さそうに寝ているノエルを起こすのも偲びないし、勇者を目指すカイトの為でもある。
カイトはインベントリからグレートアックスを取り出し、それを両手で持って戦闘の構えを取った。
ちなみに、カイトが装備しているグレートアックスは、ワニーラからドロップした物だ。俺は使わないし、どうせならカイトに使ってもらおうと思って渡したのだ。
しかしここで一つの疑問が。
カイトに渡したグレートアックスは、ワニーラが使っていた物と同じ筈なのだが、ドロップした物は大きさが変化していたのだ。
ワニーラが使ってた時は刃の部分だけで2m程の大きさだったのに対し、今のグレートアックスの大きさは半分程になっている。ドロップした時はインベントリに直接入ったから分からなかったが、考えてみると実に不思議である。
しかし、大きさが変化したからこそカイトも使えるのだから、その辺は深く追求したらダメなんだろうと思う。きっとこの世界の仕様なんだろうな。
「はぁぁぁッ!」
――ズシャアアアッ!!!!
「ギャアアアァァ……ァ……」
グレートアックスについて考えてる内に、そのグレートアックスを装備したカイトにゴブリンは一撃の下に葬り去られた。ゴブリンの左肩から右腰にかけての一撃である。
カイトの重たい一撃はゴブリンを切断するだけに留まらず、切り離された上部を5m程後方へと吹き飛ばしていた。
「うーん……初めてグレートアックスって使ったけど、技術ってより力ずくって感じだね。僕の技量が足りないのもあるけど、武器に振り回されてる気がするよ」
グレートアックスを一振りした後、その様な感想を述べながらインベントリへとしまうカイト。相手がゴブリンとは言え、やはり納得のいく使い心地ではなかった様である。
「回数をこなせば使いこなせる様になるさ。と言うか、ボーグから貰った『リキドウの盾』と併用して使えないと強敵が現れたら危ないぞ?」
俺はカイトにグレートアックスだけじゃなく、『リキドウの盾』も渡していた。
あの親父、俺は要らないって断ったのに無理やり渡してきやがった。力が上がる魔法が付与されてるから悪い盾ではないが、俺には必要ない。村を出た所でカイトにグレートアックスと同時に渡していたのだ。
「そっか! あの盾を装備すれば重たいグレートアックスでも片手で扱えるかもしれないね。次の機会に試してみるよ」
「そうしてくれ。さて、行くか」
ゴブリンとの戦闘を難無く終え、再び歩き出した俺たち一行。ノエルは相変わらず俺の肩車で爆睡中である。
どれだけの期間封印されてたのか分からんが、封印されてる間も眠ってたとなると、とんでもない寝坊助だなノエルは。……寝顔が可愛いから構わないが。
ともあれ、その後もカイトがゴブリンを倒しながら進み、夕暮れを迎えたので街道脇に一本だけ生えてる木の根元で夜を明かす事にした。
「盾を装備しながらだとグレートアックスも使いこなせてる感じだね。随分と慣れてきたよ」
「確かにそうだな。見ていて安心感が出てきた。後は強敵にも同じ様に戦えるかって所だな。……カイト、焚き火を熾してくれ」
「タロウ様、それくらい我にお任せを! 『ファイア!』」
夕方になってようやく起きたノエルが、少しでも俺の役に立とうと集めた枯れ枝に火を点ける。うむ、特技の一つが魔法なだけあって、余分な魔力を使用しない鮮やかな着火である。
「そう言えばタロウは賢者を目指してるって言ってたけど、その時に自分の意思で魔法を使いたいって言ってたじゃない? 生活魔法の『ファイア』ならタロウだって使えるんじゃないの?」
「使えん!」
「誰でも使えるのに!?」
「カイトとやら。タロウ様の言う事が信じられんと申すのか!」
「ごめんよ、ノエルちゃん。でもそういう事じゃなくて、生活魔法でも使い続ければ賢者にならなくても魔法を使える様になるかもしれないじゃない?」
「それはそうだが、タロウ様には深いお考えがあるのだ! この、たわけが!!」
「た、たわけ!? 酷いよノエルちゃん……」
ノエルが俺を庇う発言は置いといて、カイトの言う事にも一理ある。
この世界では職業に就かなくても攻撃魔法などを習得する事があるのだ。その事から、恐らく熟練度システムも実装されてるのではと推測しているのだが、前にも述べた通り、俺は生活魔法を唱えるととんでもない被害を出してしまう。
だが良い機会だ。この際だから、俺が生活魔法を使えない所をカイト達に見せるとするか。仲間なんだから秘密は良くないよな。
「カイト、俺が生活魔法を使えないって言った意味を見せてやる。……人が居ない方向はどの方角だ?」
「……何で?」
「いいからどっちだ?」
「うーん……南は『フォース砦』が在るし、西はバンイチ村だし。かと言って東はカンドセの街だし、北は【ファミリア共和国】が在るからなぁ。……あ、北西方向ならどこまで行っても何も無いはずだよ!」
あっちこっちと指をさしながら悩んでいたカイトだったが、ようやく何も無い方角を教えてくれた。ロゼ村とバンイチ村しか知らない俺よりは地理に詳しい様だ。
「分かった。じゃあ見てろよ? ――『ファイア!』」
――MPを100万ポイント消費しました。
北西の方角へと右手の手の平を向け生活魔法の『ファイア』を唱えた瞬間、脳内アナウンスが消費したMPを伝えてくれる。やはり、生活魔法なのに消費MPの桁がおかしい。
――ゴオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!
生活魔法の『ファイア』とは、説明した通り種火くらいの炎を出す魔法である。
だが俺の放った『ファイア』は直径が30m程の炎球となって撃ち出された。尾を引く姿はまるで夜空に流れる流星である。
大気を切り裂く様な轟音を上げながら遥か彼方まで瞬時に到達した俺の『ファイア』は、どこかに着弾した瞬間に大爆発を起こした。
辺りは既に闇夜となっていたが、『ファイア』が着弾したと同時に昼間へと変わる。その光景は、さながら第二の太陽が地上に誕生したが如くであった。
「――ッ!!!? ――ッ――!!!?!?」
「さすがタロウ様……素敵にございます♡」
イケメンが絶対してはいけない顔をするカイトと、頬を赤らめて何故か太腿をモジモジと擦り合わせるノエル。二者二様の表情を見せるが、これで俺が生活魔法を使えないという事が分かっただろう。
だから俺は、精一杯の笑顔を作りサムズアップしながらこう言うのだ。
「な? 使えないって言ったろ?」
「二度と使うなァァァァーッ!!!!!!!!」
カイトの叫びが昼間の様に明るい夜に木霊していた。
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