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VSワニーラ

カイト君……

 

 カイトの横薙ぎの攻撃はワニーラの左脚へと命中するも、ワニーラは意にも介さず、その手に持つ巨大な斧をカイトへと振り下ろした。いくらマム達が攻撃してる最中とは言え、ワニーラもさすがのボスモンスター。標的をマム達から、力の劣るカイトへと切り替えていたのだ。


「う、うわああああああッ!!!?」

 確実に死が訪れるであろうワニーラの攻撃に、思わず悲鳴を挙げるカイト。覚悟していたとは言え、その表情には絶望の色が浮かんでいる。


 このままだとカイトが死ぬ! くっ……間に合うか――ッ!?

 俺は咄嗟に地を蹴り、ワニーラへと迫った。


「グハハハハハハハハッ! 死ぃねぇえええッ!!!!」

 ――ズッダァアアアーーンッ!!!!!!


 5mを超す巨体を誇るワニーラの無常なる一撃は、大地を揺るがす威力を以て炸裂した。そのあまりの威力に、辺りにはもうもうとした土煙が舞い上がっている。

 誰もが壮絶な光景を想像し、一瞬の静寂がその場を支配していた。


「カイトォーッ!!!!」

 悲しき静寂を打ち破る様に、マムが魂の叫びを上げている。


「クソォッ! 俺が旅人の兄ちゃんと一緒に避難させてればこんな事にはならなかったのに……ッ!」

 ドロヒゲは自らの責任を感じ、沈痛な面持ちでそう呟いている。


「お前は勇者を目指してたんだろう? 死ぬのは父さんが先だろうに……」

 息子を失ったデニーの心情は幾許(いくばく)か。その頭は、これ以上ない程に項垂れている。


「おれがケチらずに盾を安く売ってやれば、こんな事には……」

 ボーグの唇から、後悔から噛み締めた歯が折れたのであろう血が滴り落ちていた。


『バンイチの虎』全員が……いや、この場に居る村人全員が、呆気なく閉じられてしまったであろうカイトの命を悔やみ、一様に悲しみを(こら)えて視線を伏せていた。


 やがて土煙が晴れ、悲嘆にくれるマム達の様子が俺の視界へと入って来る。それと同時に、死を覚悟したカイトが必死の形相で歯を食いしばっている姿も見えた。うむ、イケメンはどんな表情でもイケメンである。


 ――2ポイントのダメージを受けました。

「くぅーッ! 久しぶりにダメージを喰らったぜ。……大丈夫か、カイト?」


 死を覚悟していたカイトは、呆然と俺の事を見つめている。そんなに見つめられると、男の俺でも恥ずかしいぞ?

 それともアレか? ワニーラの巨大な斧を軽々しく左腕で受け止めた事に驚いてるのか?

 どっちでもいいが、とにかく俺の声に反応するなりして、安全な所まで下がって欲しい所だ。


「え……? あれ? ……タロウ?」


 ふぅ……。ようやく状況を呑み込めたか。


 死を覚悟して飛び出すのは良いが……いや、良くないが、せめて盾を手に入れてからにして欲しい。せっかく見付けた仲間(の予定)に勝手に死なれるのは困る。命を大事に、ってやつだぞ?


「止めたのに、飛び出して行く馬鹿が居るか!? ……とにかくカイトは下がれ! 俺と、勇者になる夢の為にエターニアまで行くんだろ? だったら、命を粗末に扱うんじゃねぇッ!!!!」

「ご、ゴメン!! で、でも……何でタロウが僕の前に居るの? それに、何でワニーラの斧を素手で受け止めてるのさッ!!!?」


 うむ。やはりそこに気付くか。だが、この状況でそこに気付けたのはさすがだな。カイトは、勇者の素質の一つである、状況分析力に優れているのだろう。

 どんな逆境からでも起死回生の策を練り、勇気を以て最善の結果を出しうる勇者としての素質に。


 それはさておき、俺がワニーラの巨大な斧を素手で受け止める事が出来たのは、意味不明な文字が表示された俺のステータスでも分かる(?)通り、最強だからだ。ダメージは負ったが、俺の左腕には毛ほどの傷も無い。相変わらずの美肌である。


「ほう……。本気では無いとは言え、ワシの一撃を喰らっても平気な人間がおるとは。貴様は他の人間とは違う様だな、これは驚いたぞ! だぁーが! ワシの本気の一撃は防げまい! 『大烈断!!!!』――グルルルルアアアアアアアアア!!!!!!」


 俺がカイトと話してる隙に、ワニーラは次なる攻撃を仕掛けて来た。今まで片手で持っていた巨大な斧を両手に持ち、頭上高々に振り上げると、全身の力を込めて振り下ろして来る。特技を使用したからか、その斧は仄かに光を帯びていた。

 自信を持って放つ事から、その特技がワニーラの最強の攻撃である事が窺い知れた。俺には効かんだろうが。


「――ッ!!!? 危ないッ!!!!」


 ワニーラの姿を視界に入れていたカイトがそれに気付くと、俺を守ろうと突き飛ばそうとして来る。俺の身代わりになるつもりだろう。

 だが俺は、そのカイトを逆に突き飛ばした。俺とワニーラの戦闘に巻き込まれたら大変だからな。

 せっかく助けた命をそんな形で失ったら、さすがの俺でも悔やむというものだ。マム達と一緒に、大人しく見ていてくれ。


「……遅くて欠伸が出るぜ。――そりゃッ!」


 完全な戦闘モードに突入した俺に、ワニーラの攻撃は遅すぎた。俺に斧が当たる前に、千回はワニーラを殺す事が出来る程だ。

 ワニーラの振り下ろす斧に俺はそっと手を据えて軌道をずらし、すかさずワニーラの背後へと回る。だが攻撃する訳じゃない、コイツの驚く顔を見る為だ。

 ボスモンスターを相手に、一度やってみたかったんだよ、こういうの。良く漫画とかアニメとかで目にするだろ? 特に強大な敵が自分の力を見せ付けるみたいにさ。

 それを主人公側がやったらって……うむ、そんなシチュエーションもあった気がするな。仕方ない……あっさり倒すか。


 だが、どうする? 魔王軍が何とかって話してたが、もっと情報が欲しい。……が、今の俺が軽くでも攻撃すればコイツは死んでしまう。


 さて、困ったぞ?


 ――警告。悪魔族がこの世界に現れます。


 は? 悪魔族?


 ――ズダァアアアアアアアーーンッ!!!!!!!!

「グハハハハハハハハ! 木っ端微塵になりおったわ! 肉片すら残っておらん。ワシとした事が人間の恐怖に歪む顔も見ずに殺してしまうとは……まぁよい。残った人間どもで楽しむとしよう」


 脳内アナウンスの三度の警告に呆然とする俺をよそに、ワニーラは俺をあっさりと殺したと勘違いし、地面にめり込んだ斧を再び片手に持ってマム達へと視線を向ける。背後に居る俺に気付かないとは、ボスモンスターとは言えやはりこの程度か。


 それよりも気になるのは、まだそのままだった次元の裂け目から現れた、漆黒の骨で造られた鎧に全身を包む奴だ。髑髏を象ったフルフェイスの兜の側頭部から突き出た二本の角が禍々しいし、腰の両側には瘴気を纏った剣を佩いている。双剣遣いなのか?


 脳内アナウンスでは悪魔族と言っていたから恐らくコイツがそうだとは思うが、魔物とは一線を画す雰囲気に只者ではない異様さを感じる。ボスモンスターのワニーラとは明らかに格の次元が違う事が分かった。


「貴様は阿呆か、ワニーラ! 敵は貴様の後ろだ!」

「何を……ッ!!!? こ、これは『リリム』様! 何故、この場においでで……? なっ……貴様! ワシの『大烈断』をどうやって避けた!!!?」


 どうやら、この骨鎧野郎がワニーラの言っていた魔王軍幹部のリリムという奴らしい。ワニーラのオドオドとした態度が笑える。

 しかしリリムという奴、全身を骨鎧に身を包んでいるから声がくぐもって聞こえ、男なのか女なのかすら分からん。強そうだというのは分かるが。

 だがその言葉の雰囲気から察するに、リリムはワニーラに任せるみたいだな。負けるとは思わないが、リリムの力が分からん以上手を出して来ないのは正直助かる。


 ともあれ……殺るか!


「どうやって避けたもクソも、お前の攻撃は遅すぎる。俺が見本を見せてもいいが、お前が弱すぎて一撃で終わっちまう。だから10秒間、俺は手を出さないでジッとしていてやる。その後は攻撃するからな?」


 スマンな、殺ると言ったのは嘘だ。せっかく上司のリリムが来たんだ、ワニーラにも見せ場を与えてやらんとな。


 だが念の為、俺は『解析Lv.1』でワニーラを見てみる。危険予知というやつである。


 ♦♦♦


 名前:ワニーラ(ボスモンスター)

 魔物名:ワニゲーター(魔王軍)


 HP:1056

 MP:237

 特技:体当たり(MP2)・怪力(MP5)・回転斬り(MP10)・大烈断(MP15)


 ♦♦♦


 うむ、ボスモンスターとなっている以上、配下であったバウンドドッグ達よりも遥かに強い。マム達ですら勝てるか微妙な所だ。

 だが、やはりそれだけだな。俺に負ける要素が無い。ワニーラよりもリリムを解析してみるか?


「言うに事欠いて……よそ見だとぉ!!!? 舐めおってぇ〜ッ!! ――『怪力!』グルアアア! 『回転斬り!』――死ねぇえええッ!!!!」


 ガンッ! ガンッ! ガンッ! ギンッ! ガガンッ!!

 ――1ポイントのダメージを受けました。

 ――1ポイントのダメージを受けました。

 ――1ポイントのダメージを受けました。

 ――1ポイントのダメージを受けました。

 ――3ポイントのダメージを受けました。計7ポイントのダメージを受けました。


 激昂したワニーラは、いつの間にか俺に攻撃を開始していた。

お読み下さり、ありがとうございます!

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