VS魔王軍(ザコ)
最初に手を出して、後は見守るスタイルの主人公(´•ω•`)
「ぎゃあああああああ!!!!」
特技『丸齧り』で、ビッグマウスに左半身を噛み付かれている村人B。噴き出す血の多さに、相当大きなダメージを負っている事が分かる。
『解析』スキルの表示を見ても、残りのHPは既に3である。もう一噛みされれば命を失ってしまうだろう。
「させるかよッ!」
――ボゥンッ! バアァァンッ!!
――魔物名ビッグマウスを倒しました。3ポイントの経験値を獲得しました。5ゼルを獲得しました。
俺は瞬時に村人Bに噛み付くビッグマウスの脇に移動し、すかさず拳を繰り出した。軽く殴ったつもりだが、ビッグマウスの上顎から上の頭は木っ端微塵に吹き飛んでいく。まるで汚い花火である。
「これで回復してくれ!」
「う……あ、あ……? ッ! ありがとう……助かった……!」
俺がインベントリから出した回復薬を村人Bは震える手で受け取り、傷の痛みに耐えながら何とか飲み干した。薬草よりも効果の高い回復薬により、村人Bはたちまち回復していく。『アルラウネ』がドロップする回復薬だけに、その効果は薬草の比ではなく抜群である。
「く、来るなぁーッ!」
「ウウウゥ〜ッ!! 『バウゥッ!!!!』」
「――ッ!!!? げぶぅぅぅッ!!!!」
俺が村人Bの回復にホッとしたのも束の間、今度は村人Cがバウンドドッグの『キャノンボール』を受けて激しく吹き飛んでいた。腹にまともに喰らっている為、内蔵を損傷している恐れがある。いや、口から血を吐き出している事から、内蔵が破裂しているのかもしれない。それを示す様に、村人CのHPは1を表示していた。
そこへ、村人Cにトドメを刺そうと三匹のスライムが近付いていた。同時に、村人Cを攻撃したバウンドドッグも再び狙いを定めている。村人Cの命は風前の灯火であった。
「くそ……! 俺一人なら数が多くても楽勝なのに、守る人間がいる戦闘がこんなに難しいとは……!」
瀕死の村人Cを助けに行こうにも、他の村人たちも危ない。何人かの村人たちも、かなりのダメージを受けているのだ。HPが残り1の村人Cよりはマシだが、あと数回でもスライムの攻撃を喰らえば、それだけでその何人かの村人は死んでしまうだろう。
いくら『努力』の効果で最強と言えるステータスを手に入れたとは言え、俺一人ではさすがに手が足りない。せめて、魔法使いや神官が居てくれればと思うのだが……!
「させないよ! 『疾風斬り!』どりゃあぁああああッ!!!!」
「ギャウウゥゥン……」
村人Cを瀕死に追いやり、更に狙いを定めていたバウンドドッグに、マムが『疾風斬り』を繰り出した。目に見えない空気の刃が疾走し、バウンドドッグの丸い体を両断する。危機一髪であった。あと数秒遅ければ、二度目の『キャノンボール』で村人Cは死んでいただろう。
「回復は私に任せてくれ! 『ライトヒール!』」
更に、村民たちの後方から村人Cへと、回復魔法の淡い光が降り注ぐ。内蔵破裂の激痛で気を失っている村人Cだが、回復魔法の効果によってみるみる内に顔色が良くなっていく。HPも20まで回復したから、とりあえずは大丈夫だろう。
「村の仲間に手を出す奴は、おれの魔法で燃やしてやるぜ! 『フレイム!』」
「「「ピキャー!」」」
村人Cに迫っていたスライム三匹だが、回復魔法を唱えてくれた神官の居る辺りから飛んで来た炎によって、瞬く間に焼け死んでいった。
いくら辺鄙な村とは言え、このバンイチ村には神官も魔法使いも居た様である。これで幾分かは俺も安心出来るというものだ。
「皆の命は神官の私が守ってみせるから、安心して魔物と戦ってくれ! 逆に、私の命は皆が守ってくれよ?」
そう宣言する神官の声には聞き覚えがある。間違いなく、カイトの親父のデニーの声だろう。
だからデニーはヒョロヒョロの体型だったのか。神官と言うならば、正に納得の体型というものである。太った神官は、イメージ的にろくな奴が居ないだろう。
「おいおい、デニーよぉ……おれが居るっつうのに、もう怪我する奴なんて居ねえっての! 何せ、おれの魔法が魔物どもを蹴散らすからなぁ!! 『アイスニードル!』」
「ヂュウウゥ……ゥ……ゥ……」
魔物を蹴散らすと豪語する男は、そう言いながらも魔法『アイスニードル』を使用し、カイトに近寄っていたビッグマウスを一匹仕留めた。大きく開けた口の中に、鋭い氷の長針が脳を目掛けて何本も突き刺さったのだから、いくら魔物とは言え一溜りも無いだろう。
「『ボーグ』さんも来てくれたのか! 父さんと母さん、それにドロヒゲさんと合わせて『バンイチの虎』パーティの勇姿が見れるなんて思わなかったよ!」
スライムを斬り伏せながら、カイトが目を輝かせてそう叫んでいた。自らの危機を救ってくれた人物の事を良く知っているのだろう。カイトの視線はデニーの隣に居る男に向けられており、その人物とは胡散臭い盾を扱う防具屋の店主であった。
しかしボーグって名前だったのか、あの胡散臭いオヤジは。防具屋の店主の名前がボーグだなんて非常に分かりやすいが、ダジャレも程々にしとけと言いたい所存である。
「久しぶりに集まったんだ。あたしらで蹴散らすよ!」
「マムはかなり太……鈍ってるんだから、気を付けてくれよ?」
マムの言葉に、デニーが注意を促す。……が、失言を咎めるマムのギロリとした視線に身を竦めた。うむ、尻の下に敷かれている様だ。
「ハッハッハッハッ! デニーとマムは相変わらず仲が良いな! だが、心強い! ボーグも魔法の腕は鈍ってないな? 『バンイチの虎』の強さを魔物どもに味わわせてやろうぞ!」
「援護はおれに任せなっ!」
いつの間にかドロヒゲとボーグもマムの近くへと集まり、四人はフォーメーションを取り始めていた。前衛に近接職のマムとドロヒゲが陣取り、後衛に神官のデニーと魔法使いのボーグが続く。正に理想的なパーティの在り方である。
その効果は凄まじいもので、並み居る魔物を次々と屠っていく。マムとドロヒゲは前衛という事もあり多少の傷は負っているが、デニーの回復魔法によって直ぐに癒されている事もあり、苛烈な攻撃で魔物を駆逐している。俺の懸念でもあったマムの膝の傷も既に治っている様だ。
デニーも負けてはいない。攻撃魔法で魔物を牽制し、かつ隙あらばトドメを刺している。
ともあれ、その四人の連携によって魔物たちの多くは討伐されたのだった。
マム達『バンイチの虎』が多くの魔物を駆逐する中、俺がいったい何をしていたのかと言うと、負傷した村人を助けつつ回復薬を渡してまわっていたのだ。
いくらデニーが神官とは言え、やはり回復魔法を使うにも残りMPには限界があるだろうし、下級職の神官だから範囲回復魔法は覚えないので使用出来ない。
そうなると当然、怪我をした村人全員の回復は出来ないし、先程の俺同様、デニー一人の手では足りない状況になって来る訳だ。つまり……俺、密かにファインプレー中だったのだ。見た目は女と間違われようと、俺は出来る男なのである。
「グハハハハハハハハッ! この様な辺鄙な村ゆえ侮っておったが、ワシが相手せねばならん人間もおる様だな。だが、果たしてこのワシに勝てるかな? どこからでも掛かって来るが良い! グルルルルアアアアアアアアア!!!!」
俺が村人を助けまわり、マムが最後のバウンドドッグにトドメを刺した所で、ボスモンスターであるワニーラの言葉が辺りに響き渡った。ワニーラは巨体ゆえに、その言葉と相まって迫力満点である。
ワニーラは、巨大なワニの体に人間の様な手足が生えた魔物だ。その手には巨大な斧を装備している。5mを超える身長も然る事ながら、迫力あるその姿はボスモンスターとして恥じないものである。
そんなワニーラの前から、距離を取る者たちが居る。マム達以外のこの場に居る村人だ。その村人たちは、自分たちでは太刀打ち出来ないと理解したのか、ジリジリと後退し始めていた。実に賢明な判断であると言えよう。
ワニーラの前に残っている俺たち以外の村人のレベルは、高くてもせいぜい10くらい。しかも職業は根っからの村人な上、カイトみたいに訓練は積んでいない。例え逃げたとしても、誰も文句など無い筈だ。
「安心しな、あんた達! あたしら『バンイチの虎』が居る限りあんたらには手を出させないし、こんなワニくらい簡単にやっつけてやる! 行くよ、みんな!!」
「「「おうッ!!」」」
マム達とワニーラの戦闘が始まった。その四人の後ろからカイトも攻撃を仕掛けようとしているが、今のカイトじゃ明らかに力不足だ。止めた方が良いだろう。
「待てよ、カイト! お前じゃ足手まといになる!」
「僕だって戦える! それに力不足くらい分かってるさ……! だけど、囮になるくらいは出来る。それに……僕は勇者を目指してるのに、こんな奴に怖気付いたんじゃ先が思いやられる! ――でえぇぇぇいッ!!!!」
俺の制止も聞かず、カイトはワニーラへと攻撃を仕掛けてしまった。
「カイトッ!!!? あんたは下がってなぁーッ!」
「ワシにそんな攻撃が効くと思っておるのか? グルアアアアッ!」
マム達の横をすり抜け攻撃を仕掛けたカイトへと、ワニーラの巨大な斧が振り下ろされようとしていた。
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