仲間
ワニーラ……(´•ω•`)
特技『怪力』を発動し、更に『回転斬り』の特技まで使用して俺へと攻撃して来るワニーラ。巨大な斧を両手に持って水平に構えると体を限界まで捻り、その状態から横薙ぎに振る勢いを利用しての体ごと回転させて繰り出す連続攻撃だ。結果、俺は計7ポイントのダメージを喰らった。
大したダメージでもないし、とにかく先にリリムを解析してみる事にした。
♦♦♦
名前:リリム(魔王軍幹部)
魔物名(種族名):悪魔族
HP:?????
MP:????
特技:???・???・???
♦♦♦
うむ、名前がリリムという事と種族名が悪魔族という事しか分からん。
だが、『?』の数からHPが一万を超す事と、MPが千を超えている事が分かった。単純に見積もっても、ワニーラの十倍の強さである。
「ば、馬鹿な――ッ!!!? ワシの渾身の『回転斬り』だぞ!? しかも全てが頭にヒットした筈なのに、何故貴様は平然としておれるのだぁ!!!!」
しかし羨ましい。いくら表示が『?』とは言え、しっかりとした数字がリリムの解析結果に出ている。それに引き換え俺なんて……『Ω』一文字だけだぞ!? どれだけのHPがあるのかさえ分からん!
「き、貴様の様な人間が居るはずなど無い! ま、まさか……貴様は伝説の英雄の生まれ変わりだとでも言うのかッ!!!? それとも、まさか使徒なのか!? そんな奴、ワシが勝てる筈が無いではないか! いや、その容姿からして、女神がこの世界に顕現してるのか? ど、どちらにせよ……こんな小娘にワシが殺されてたまるかッ!!」
…………。
そろそろワニーラを殺すか。色々と喧しいし、いい加減コイツを倒してリリムの動向に注意を向けないと、もしかしたら取り返しの付かない事になる可能性がある。ぶっちゃけ、飽きた。決して八つ当たりでは無い。
「……さて。10秒が経ったな? 次は俺のターンだ。――ふんッ!」
「く、来るなァあああッ!!!!!! ――カペヒュ……ッ!?」
ワナワナと怯えて震えるワニーラにゆっくり近付き、軽くジャンプして頭を撫でる。ワニーラの頭はそれだけであっさりと爆散し、戦いの様子を見ていたリリムの上に肉片が降り注いだ。少しは動揺するかと思ったが、そんな素振りも見せないとは畏れ入る。
「……こんな辺鄙な村にワニーラを倒せる人間が居るとはな。しかし、ワタシが思ったより人間どももやる様だ。どうやら、『魔界』で策を練り直した方が良さそうだな。……また会おう、人間どもよ!」
そう言い残し、リリムは次元の裂け目の中へと戻って行った。リリムが次元の裂け目に消えるとその途端、割れた硝子が元通りになる様に次元の裂け目も消えていく。まるで、ビデオの映像が巻き戻るのを見ているみたいだ。
――魔物名ワニゲーター(ボスモンスター)のワニーラを倒しました。826ポイントの経験値を獲得しました。1800ゼルを手に入れました。グレートアックスを手に入れました。ユニークスキル『根性』の効果により、一定値以下の攻撃無効スキル『バリア』を覚えました。
ふむ。新たなスキルを覚えたみたいだが、俺……人間を辞めて化け物に転職した方が良いのだろうか?
ただでさえワニーラをあっさり倒せる力があるのに、更に一定値以下のダメージ無効って。……ま、まぁいいか。
新たに獲得したスキルについて何とか納得したその時……
『『『うぉおおおおおおおおおおッ!!!!!!』』』
……突然響き渡る村人達の叫びに、思わず俺は体がビクッとなる。ビックリしたなぁ、もうっ!
俺、前世の頃からお化け屋敷とか、そういう脅かし系の物は苦手だったんだよ。だって、心臓がビクッてなるし。
もしも、そのまま心臓が止まっちゃったらどうするのさ!? 死んじゃうよ? さすがの俺でも。
未だに心臓がドキドキしている俺へと村人達が群がり、口々にお礼を述べて来た。
「知らないお嬢ちゃん、ありがとう! あんたは村を救った英雄だ!」
「こんなに強い人間が居るなんて、まさか!? あんた女神様か?」
「バンイチ村の奇跡だぜ! 『村を救った天女伝説』の幕開けだな!」
うむ。ほぼ全員が俺を女と勘違いしている様だ。もはや訂正するのも面倒臭い。
そう思っていると、今度は『バンイチの虎』パーティの面々が俺を囲んだ。
「いやぁ、あんた可愛い顔してとんでもなく強いんだねぇ! あたしも若い頃はあんたみたいに可愛いくて強いって讃えられたもんだけど、あんたには負けたわ!」
マムが俺の肩を叩きながら、『可愛い』を強調してそう言う。
「今日兄ちゃんがこの村に来たのは、本当に良かった! 改めて礼を言わしてくれ。ありがとう!」
泥棒ヒゲのガチムチなおっさんことドロヒゲは、意外と優しい笑顔で俺に礼を述べて来る。
「カイトとこの村を救った英雄には、私の腕によりをかけたご馳走を食べてもらわないとね!」
デニーが腕まくりをして力こぶを作りながらそう言うが、悲しい事に力こぶは出来ていなかった。
「お嬢ちゃんには負けたぜ! おれに出来るお礼は『リキドウの盾』をくれてやるぐらいだが……受け取ってくれるよなぁ?」
ボーグは胡散臭い表情を作りながら、あの盾を俺にくれると言う。どう見ても脅してる様にしか見えん。
ともあれ、一頻りの歓声に包まれる中『バンイチ村の穴』事件はこうして幕を下ろした。しかし、名前だけを見るととても卑猥である。
……俺が考えたんじゃないからな!
☆☆☆
マムとデニーが営む宿『春のツバメ亭』に戻り、マムからお湯とタオルを受け取り先ずは体を拭いた。風呂に入りたい所だが、お湯で濡らしたタオルで拭くだけでもサッパリする。もちろん、大事なシンボルは念入りに拭いたぞ?
いついかなる時もシンボルを綺麗にするのは紳士の嗜みであり、義務でもあるのだ。その時になって『ちっちゃくて可愛い……けど、臭ッ!? 臭いから無理!!』なんて言われたら、俺は間違いなく再起不能だろう。
…………。
「……そろそろ夕飯に行くか」
体を拭き終え、インベントリから取り出した新しい布の服一式(当然ステテコパンツも)を着て一階の食堂へ向かう。良い香りが漂っているから、既に夕飯も出来ているのだろう。デニーが腕によりをかけると言っていたのだ、実に楽しみである。
あ、そうそう、震える黒いコインも今履いてるズボンのポケットに移しておいたぞ? 本当はインベントリにしまえば良いんだろうけど、何だかそれはやめた方が良い気がしてな。
思い返してみれば、今回の事件が起きた時と同じタイミングで震えてたのだから、何かしらの繋がりがあるのかもしれない。『穴検知機能』付きかもしれないし。……やはり卑猥に聞こえる。
「僕はタロウと一緒に出て行く!」
「あんたにはまだ早い。後一年は力を付けなきゃ認められないね!」
「まぁまぁ! カイトだって16歳でもう大人なんだから、許してやろうよマム」
「あんたは黙ってあたしの尻に敷かれてなぁ!」
卑猥はともかく、黒いコインについて考えながら食堂に着くと、マム達一家の家族会議的な話が聞こえた。カイトが、俺と一緒に旅立つ事を許してもらおうとしてるらしい。出来れば俺が居ない時に話し合ってもらいたいものである。何だか気不味い。
「母さんが何と言おうと、僕はタロウと行くからね!」
「ああ。俺もカイトと一緒に行くつもりだ」
「タロウだってこう言ってるし! 頼むよ、母さん!」
気不味いが、この際だから俺も話に参加させてもらおう。やはり、旅は一人よりも二人の方が楽しいものである。
それに、カイトは勇者になる事を夢見ている。つまり、俺が賢者に憧れているのと同じだ。カイトが勇者で、俺が賢者……夢のパーティはまだ二人しか居ないけど、その内きっと同じ様な夢を持つ仲間は集まる筈だ。
夢の為には努力も厭わないって言ったろ? だから俺からもマムを説得するのだ。
「お嬢ちゃん……。はぁ……分かったよ! まぁあたしも、カイトと似た様な歳の頃に旅立ったからねぇ。……餞別代わりだ! 村を救ってくれたお礼も兼ねて、お嬢ちゃんの宿賃は無料にしてやるよ!」
カイトと二人で真剣な表情を作りながらマムを見つめていると、根負けしたのか結構あっさりと許してくれた。……違うな。初めから俺が話に参加するのを見越して、このタイミングで話し合っていたのだろう。
だとするとカイトも共犯者になるが、仲間として旅立つんだ、それくらいは許そう。宿賃もタダになったし。
「ありがとう母さん! それとタロウ。これからよろしくね!」
「ああ、こっちこそよろしくだ!」
俺たちは互いの右手を握り合い、頷き合った。握手が仲間の誓いとは何ともアレだが、ともあれ仲間である。
これからは共に笑い、共に傷付き……俺はしないが、共に泣き、共に夢に突っ走るのだ。頼むぜ、相棒!
「さぁさぁ、話が纏まった所で夕飯としよう! マムが無料にしちゃったから大赤字だけど、カイトが旅立つ前の最後の夜だし、村を救った英雄をもてなすんだからヘッチャラさ!」
「その分デニーが稼いでくれるさ! さぁ、お食べ!」
マム達の昔話に花が咲き、美味しい夕飯に笑い声。この日の夜は、俺にとって忘れる事の出来ないものとなるのであった。
お読み下さり、ありがとうございます!




