第九話:密約
第九話:密約
マーカスはトラックを通常のスピードに落とした。
そして静かにデレクに話しかけた。
「なあデレク、さっきは、死んでいても不思議じゃなかったな」
デレクは真っすぐ道路を見つめ黙っている。マーカスは続けた。
「俺は死にたくない、お前もお前のばあさんも死なせたくない、しかし、このままでは多分全員殺されることになる、もう全部話せ、そうすれば対処できる、この状況から考えてお前は俺に頼るしかない。」
デレクが静かに口を開く、視線は相変わらず真っすぐ前の路面を見つめている。
「一体何からはなせばいいのか」
「俺もまさかこんなことになるなんて」
「もう嫌だ」
デレクの声に嘘は感じられなかった、マーカスが続く
「デレク、じゃあ俺が質問していくから、分かる範囲でいいから答えてくれ、想像を入れるな、実際にあったこと、聞いた事を話せ。」
デレクは頷いた。
マーカスはできるだけ簡潔に質問を重ねた。
「その1、襲ってきたアウディは何者だ。」
「その2、シカゴで盗みに入ったのは誰の家だ。」
「その3、何故盗品を売らずに隠したのか。」
「その4、ボルチモアまでどうやって帰った。」
「その5、ばあさんの家の外の監視を知っていたな、シカゴ警察だと知っていたのか。」
「先ずはこんなところだ。」
と、ここで一旦質問を切ろうとしたが、
「いや、まて、もう一つ、質問その6、手首の傷はLAで刑事にやられたのか?」
デレクは、少しマーカースの方に体を向け語り始める。
「ああ、あのアウディは、エディーとかいうチンピラとその仲間だよ。」
「俺が盗みに入った家の甥っ子らしい。」
「えっと、盗みに入った家は、名前は知らんけど、なんか偉い社長だって。」
「エディーとは移動カジノで知り合って、借金して、泥棒を命令された。」
マーカスは『移動カジノ』なるものを知らなかった、気にはなったが、そのまま話を続ける様に手振りでデレクに促した。
デレクは続ける。
「えーと、どこからだっけ?、ああ、それでエディーから聞いたパスワードで金庫を開けて金属製の箱と、現金1000ドル位を盗んだ。エディーとの待ち合わせ場所に向かったけど、居なかった。電話しても出ないし。」
「そしたら従兄から電話が入って、ヤバイ連中が俺を探してるって、従兄も地元に逃げるから、お前もスマホのシムを捨ててどこかに逃げろって、。」
「だから、その足でグレイハウンドと貨物列車を乗り継いでLAまで逃げた。」
デレクは、質問を思い出しながらたどたどしくも続けた。
「ああ、そうだ、盗品を隠した理由か、えーと、状況からしてどう考えてもヤバイ品だろ、保険になると思った、俺にはそれしかないと、そう思って隠した。」
「えっと、ボルチモアまでは警察の車に乗せられて帰った、ボルチモアでも別の奴らが監視をするから逃げたらお前もばあさんも殺すって言われた。ああ、アパートの外の奴らのことは知ってたよ。」
ここでマーカスに新たな疑問が生まれた、シカゴもLAも監視し続けてどうするつもりなのか?
「なあ、デレク、シカゴ警察とお前には何か予定があったのか?」
デレクは、語ることに慣れてきたのか、うなづきながら話し出した。
「ああそうだよ、あと4日後くらいに一緒に郵便局に行く予定だ。」
またも、マーカスの頭の中に大きな?マークが並んだ。
「おいおい、何だそりゃ?ずいぶん仲良しだな。」
デレクはマーカスを遮り続けた。
「仲良しじゃねえよ、LAで捕まる前に、残った現金をばあちゃんにあげようと思って、自分宛てに郵便局止めで小包を送ったんだ、ほとぼりが冷めたら取りに行こうと思ってたんだけど...」
「LAの刑事2人に取り調べ中に別の刑事が、さっき言った小包の受取書を持って来て、何かこそこそ話した後に、あいつらが勝手に受取書を例の箱のものと思い込んだようで、俺は苦し紛れに、そうだって言ってしまった。」
「殴られるし、怖くて、あ、手首のケガがそうだよ、刑事にやられた。」
「局での受け取りには本人確認が必要だから、ボルチモアまで戻されて、奴らに引き継がれた。」
「郵便料金をケチったから、到着が4日後なんだ。」
大体は分かってきた、ただし、何故シカゴの窃盗事件の犯人がデレクで、そして何故遠く離れたLAの刑事がそのことを知っているたのか、デレクの発見については、別件窃盗の現行犯逮捕がきっかけだとしても、何故二つの警察が躍起になっているのか?
『L.Aーシカゴコネクション』
聞き覚えがある響き、嫌な響きだ。マーカスはかつてシカゴで、あることの渦中にいた。
過去の事はいずれにせよ、今は目の前の問題に集中しなければならない。
「デレク、刑事の勘違いに乗ったのはいい判断だったかもしれない。」
「少なくとも時間稼ぎはなった。」
デレクは無表情のまま頷いた。
マーカスはここで、重要なことを伝えなければならない。
「デレク、確認だ。お前の公判は延期されたわけだ、俺がお前を検察に連れて行けば、公判日まで拘留されるか、または、運が良ければその場で略式裁判を受けて罰金刑か保護観察付き執行猶予だ、その後シカゴの奴らかLAの奴らとボルチモアの郵便局に戻る。とういう算段だな...」
「正直に言う、小包の中身が金塊ではないことがバレたら、お前もばあさんも危ないぞ、拷問か、少なくとも物が回収されるまでは殺されないがな。」
デレクが眉間に皺を寄せて、真っすぐな目で凝視してくる。マーカスは確信に触れた。
「但し、ばあさんの命までは保障できない。」
デレクは小刻みに震えだし、吐き出すように言った
「お、俺、どうすればいいんだよ」
「助けてくれよ、金はいつか必ず払うから」
これは無軌道な若い犯罪者によくあることだが、デレクにしてみればシカゴの窃盗以来、展開が目まぐるしく、暴力や恐怖から逃げたいあまり、まるで「他人事」のように、もやもやとしていた思考が、第三者との質疑応答で少々クリアになり始めて、先送りにしていた重大な問題が近づいていることを実感したのだろう
マーカスはスマホをポケットから取り出しながら答えた。
「箱の内容が何であれ、奴らに渡して命乞いしてみるか、それとも・・・」
但し、その前に全体像を探る必要がある。
それと、追跡が見当たらなかったにもかかわらず居場所がバレていた、GPSトラッカーだろうな、取り除くべきか、放置すべきか?
タホに守られた事実がマーカスの判断を迷わせている。
「ややこしいな。」
マーカスはキャメルのメンソールに火を付けた。
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次回もお楽しみに。




