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ヴァンスの流儀 【元LAPDの賞金稼ぎ、アメリカ横断2,700マイルの逃走劇】  作者: Masa Max Hase


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第八話:シボレータホとアウディRS7

 第八話:シボレータホとアウディRS7

 オクラホマ州オクラホマシティを過ぎ、真夜中のI-40をひたすら西へ疾走していた時のことだった。

 

 暗闇に包まれたバックミラーの中で、2基の異常に眩しいLEDヘッドライトが、猛烈な速度で巨大化してきた。

 シボレー・タホ。イリノイナンバー。                                 

 防弾ガラスと強化スチールプレートで全身を固めた、3トンを超える怪物だ。

 「遂に来た」

 マーカスは本能的にそう思った。

 目的は分からない、しかし、このスピード感は紛れもなく攻撃目的の接近だった

 「うわ、急になんか来た!」

 助手席のデレクが悲鳴のような声を上げた。

 マーカスはくわえたキャメルの煙を吐き出し、タイメックスの腕時計の文字盤と、道路脇の標識を交互に素早く確認した。

 あと1マイルで、州警察が厳重に管理する大型トラックの重量計測所(ウェイ・ステーション)だ。

 そしてその手前には、フットブレーキが壊れた大型トレーラーを物理的に停止させるための「緊急避難路(Runaway Ramp)」——深く敷き詰められた砕石の砂利坂が存在する。

 「デレク、ダッシュボードを掴んでろ」

 「……は!? 撃たないのか!?」

 「ハリウッド映画の観すぎだ。あんな動く金庫に銃弾を叩き込んだところで弾かれるだけだ。」

 

 マーカスはアクセルを床まで踏み込み、古いトラックのエンジンを叫ばせながらスピードを上げた。   

 追ってきたタホは、鼻先をトラックのリアバンパー数メートルまで接近させる。

 襲撃がなぜ「今」なのかは分からない。

 だが、とにかく生き延びねばならない。

 マーカスは脳内を満たす大量のアドレナリンを冷徹に抑え込み、自身を精密な機械へと変えた。

 こんな土壇場に少々不謹慎だが、警察時代を思い出す懐かしい感覚だった。

 

 ところが——後ろのタホはぴったりと一定の距離を保ったまま、一向に追突を仕掛けてこない。

 ふとサイドミラーを見ると、もう1台のタホがやや後方左側を、あえて蛇行するように走っていた。

 「何がしたいんだ、こいつら……」

 マーカスには彼らの意図が読めなかった。

 

 と、その瞬間——。

 2台のタホの間を縫うようにして、一台のガンメタのアウディのセダンが猛烈な加速でマーカスらの左側に躍り出てきた。

 

 アウディの窓は完全に開け放たれている。

 助手席と後部座席から身を乗り出したハイブランドのジャージ姿、一見してチンピラたちの手には、黒光りするポリマーフレームのオートマチック拳銃が握られていた。

  ——パン! パン!

 夜空に乾いた銃声が弾けた。

 アウディの男達がマーカスのトラックに向けて発砲したのだ。

 

 直後、絶妙なタイミングで猛スピードを出した背後のタホが、アウディのリヤフェンダーへ容赦なく巨体をぶち当てた。


 PITマニューバ(車体をスピンさせる警察の体当たり技術)だ。


 アウディは左向きに大きくスピンし、路外の土手に突っ込んで激しい土埃を巻き上げながら停止した。

タホは数メートルアウディを通り過ぎたところで急停止し、バックし始めた。

 アウディは慌ててそのタホをかわすように、大きくUターンすると、砂利を撒き散らしながら無舗装の道路を反対方向へ逆走し始めた。

 そして、タホはまるで獲物を追う肉食獣のように唸りを上げ、猛スピードでアウディの後を追ってバックミラーから消え去った。


 一方、マーカスらのすぐ後ろを走るもう1台のタホは、少し距離を取り直しつつも、相変わらず不気味に追従してくる。

 「ややこしいな……」

 マーカスは思わず呟いた。

 デレクは不安そうに顔を伏せたまま、両手で必死にダッシュボードにしがみついている。

 タホは直接的な攻撃をしてこない。

 それどころか、途中で割り込んできた謎の「新参者」を排除してみせた。

 だが、未だに味方であるという確証が持てない以上、この不気味な追跡者もここで排除しておくのが得策だろう。

 計測所の100ヤード手前。

 

 マーカスは左手一本でステアリングをがっちりと固定すると、右手でキーホルダーから外したスイスアーミーナイフを伸ばした。

 キャビン背面のリアウィンドウの隙間から腕を突き出し、荷台に積まれた資材を固定しているラッチの解除パドルを力任せに叩く。

   バチン!

 重い金属音が夜の風に弾けた。

 次の瞬間、荷台に積まれていたガードレール補修用の重いH鋼の切れ端と、鋳物でできた巨大な工具箱が、時速80マイルの暴風に乗ってアスファルトの上へ炸炸するように転がり落ちた。

  「なっ——!?」

 後続のタホのドライバーがパニックを起こし、猛スピードのままハンドルを右に切った。

 しかし、防弾仕様が施された3トンを超える車重にかかった凄まじい慣性の法則には逆らえない。

 横滑りを起こしたタホは、まるでマーカスが最初から誘導していたかのように、本線の脇に広がる「緊急避難路」の深い砕石の海へと一直線に突っ込んでいった。

  ズドドドドッ!

 凄まじい砂煙が巻き上がり、タホの巨体はキャタピラに飲まれた戦車のように、深く重い砂利の中にズブズブと沈み込んでいった。

 タイヤは虚しく空転し、腹がつかえた3トンの鉄の塊は、二度と自力では抜け出せない完全な金縛り状態に陥った。

 

 マーカスは静かに左ウインカーを点滅させ、何事もなかったかのようなスムーズな足取りで、I-40の本線へと車線を戻した。

 デレクは目を見開き、バックミラーの中で急速に小さくなっていく砂煙と哀れなタホの姿を、呆然と見つめていた。

 「……体当たりも銃撃もしないで、勝手に沈んだぞ……」

 死の恐怖からの解放と生の実感で、妙にテンションが上がり興奮気味のデレクに対し、マーカスはバックミラーから静かに視線を外すと、淡々と、しかし拒絶を許さない低音で言い放った。

「デレク、お前に聞かなきゃならないことが山ほどある」


とうとう襲撃?!アウディは何者?タホは味方?

そして、なぜ居場所がバレてる?

少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部の【★評価】やブックマーク登録をしていただけると、執筆の大きな励みになります!

次回第九話は11月3日18:30更新です。お楽しみに!!

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