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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第85話:夜明けの重機、あるいは不屈の鉄格子

「——来たニャ」



六日目の朝、午前五時。

まだ薄暗い商店街の路地に、複数の巨大なディーゼルエンジンの重低音が地鳴りのように響き渡った。

窓から外を覗くと、御子柴の手配した数台の大型解体重機と、黄色いヘルメットを被ったガラの悪い男たちが、喫茶『夜鴉』を取り囲むように展開していくのが見えた。



法的な差し止めが間に合う前に、店を物理的に破壊してすべてを闇に葬る。

御子柴の容赦のない、現実世界の狂暴なチェックメイトが、夜明けの光とともに牙を剥いた。

「カイトくん、法務局への不正証拠の提出は、オンライン申請で午前九時の窓口開始と同時に受理される。

それまでのあと4時間……この店が物理的に解体されたら、すべてが水の泡だ……っ!」

阿良多がノートPCの画面を見つめ、血の気の引いた顔で叫ぶ。



ルカとリィナは、お互いの肩を寄せ合い、消えかける自分たちの存在を繋ぎ止めるように激しく震えていた。

店の外では、拡声器を持った男の「これより、本土地の不法占拠物に対する強制執行を開始する!」という冷酷な声が響き渡る。



「……ふん、紙切れの次は鉄の塊というわけか。どこまでも浅ましい奴らだわ」

カウンターの奥から歩み出てきたのは、エプロンを外し、かつて迷宮の街で身にまとっていたあの気高き『王女の礼服』に袖を通したリザだった。

その碧眼には、絶望など微塵もない。むしろ、国を背負う者としての圧倒的な威厳と、大切な居場所を守り抜くという冷徹なまでの戦闘意志が満ちていた。



「シルヴィア、ミア。私たちの『日常の戦場』の守り方を見せてあげなさい。

カイト、あなたは厨房で、最高の珈琲を淹れる準備をして。

この暴風雨が過ぎ去った後、勝利の祝杯をあげるためにね」

リザが不敵に微笑み、優雅な仕草で店の正面扉を開け放った。

王女としての冷徹な指揮と、仲間への絶対の信頼。その圧倒的なカリスマ性に、誰もが目を奪われていた。



「御意、我が主。……このシルヴィアの左腕、まだ完全に錆びついてはいないぞ!」

シルヴィアが、物置から持ち出した鉄の太刀を抜き放ち、朝日にその刃をギラリと輝かせた。

彼女の放つ、本物の『戦場の死線』をくぐり抜けてきた異世界最強の騎士の気迫に、重機を操作しようとしていた男たちが一瞬で怯み、動きを止めた。

右腕が動かなくとも、彼女の戦闘美は一切衰えていない。



「アタシの縄張りで、好き勝手させないニャアアッ!」

ミアが地を蹴り、驚異的な身体能力で先頭の重機のキャタピラへと飛び乗った。

彼女の鋭い爪が重機の配線を一瞬で引き裂き、火花とともにエンジンを沈黙させる。

猫の恩返しはまだ終わっていない。彼女の野生の躍動が、現実の重機を次々と機能停止に追い込んでいく。



「な、何をしている! 早くその小娘たちを排除して、店を叩き潰せ!」

後方の高級車の中から、御子柴が窓を開けて怒声を張り上げた。

だがその時、商店街の奥から「ふざけるんじゃねぇぞ、御子柴のタヌキ!」という怒号が響き渡った。



魚屋の源さんを先頭に、八百屋、肉屋、時計店の店主たち……。

これまで地下ルートで夜鴉の味を届け、絆を繋いできた商店街の住人たちが、エプロン姿のまま、重機の前に人の壁を作って立ち塞がったのだ。

「この店はな、俺たちの胃袋と心を救ってくれた、この街の大事な場所なんだよ!

書類の偽造までして、若者たちの居場所を奪おうなんて、地主が聞いて呆れらぁ!」



伏線は、完全に回収された。

御子柴がどれだけ公権力や暴力を動かそうとも、夜鴉たちがこの数日間、命と記憶を賭けて配り続けた『料理の熱量』が、この街の人々の心を本気で動かしたのだ。

住人たちの必死の抵抗と、シルヴィアたちの人外の防衛戦により、重機は一歩も前に進めない。



そして、時計の針が午前九時を告げた瞬間。

阿良多のノートPCから、鮮やかな緑色の確定アラートが鳴り響いた。



「カイトくん! 法務局が御子柴の不正を正式に受理した! 土地の売却、および強制執行の『即時停止命令』が出たぞ!」



「な、何だと……!?」

高級車の中で、御子柴が手元の端末を見て、初めてその老顔を恐怖に歪めて愕然とした。

勝負は決した。現実の法律と、街の人情、そして異世界の絆の力が、百年の呪いを完全に打ち破ったのだ。



重機が退散し、歓声に沸く商店街の中で、俺はリザの淹れたての珈琲を、集まってくれた皆に配り始めた。

ルカとリィナの胸のエンブレムは、もう冷たくない。現実の朝日に照らされて、これまでで一番温かく、チクタクと力強い日常の鼓動を刻んでいた。



だが、安堵したのも束の間。店のカウンターの隅で、千影が静かに、一枚の『古い写真』を見つめていた。

それは、十年前、店主さんと親父、そしてもう一人、顔の部分が不自然に切り抜かれた『三人目の開発者』が写っている写真だった。



「カイト。御子柴の件は終わったが、僕たちのシステムには、まだ消えていない『本当の最初のバグ』が残っている。

……店主さんを迷宮の街に引きずり込んだ本当の黒幕は、御子柴じゃない。この写真の、三人目の男だ」



写真の裏に書かれた、不気味な血文字の数式。

日常を取り戻したはずの喫茶『夜鴉』に、さらなる深淵からの、本当の最終試練の影が忍び寄ろうとしていた。


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