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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第79話:二日目の監査、あるいは不敵な領地防衛

「……国税の監査官、ね。権力者がいかにも好みそうな、陰湿で確実な嫌がらせだわ」



翌朝、午前九時。開店前のミーティングで、リザが冷え切った声でそう吐き捨てた。

彼女の碧眼には、御子柴の汚いやり口に対する心底からの軽蔑が宿っている。

あちらの世界で王宮の財政を一本で叩き直してきた彼女にとって、税の監査という名の「法的な暗殺」は、かつて何度も見届けてきた政敵の常套手段だった。



「カイトくん、向こうは本気だ。御子柴の息がかかった監査官が、十時にはこの店の『営業許可』と『帳簿』の査察に入る」

阿良多がノートPCのキーボードを激しく叩きながら、焦燥感を露わにする。

「ユキちゃんがこの店を現実に固定したときのデータは、戸籍や登記までは完璧だけど、過去十年の『税務処理の履歴』までは完全に擬態しきれていない。

プロの目で突っつかれれば、一発で営業停止処分に追い込まれる……!」



ルカとリィナが、お互いの手を握りしめて不安そうに顔を見合わせた。

せっかくミアのバーガー作戦で掴みかけた商店街の信頼が、国家の書類一枚で、明日には消えてしまうかもしれない。



「フン、書類の不備で城(店)を追われるなど、騎士の面目が立たん」

シルヴィアが、今朝は金属製の靴べらではなく、分厚い『古いバインダー』を胸に抱えて不敵に微笑んだ。

「だが安心しろ、カイト殿。我が主の領地みせを書類ごときで奪わせはせぬ。

……リザ殿、例の“仕込み”は完了しているな?」



「ええ、完璧よ、シルヴィア。私たちの計算を、ただの役人が見破れるかしらね」

リザが不敵に口元を歪め、カウンターの上のハサミを上品に指先で弄んだ。

その、いつもの可愛らしい給仕係とは一線を画す「冷徹な支配者」としての横顔に、ルカたちは再び圧倒され、同時に強い憧れを抱いていた。



午前十時。カランコロンと、不気味なほど正確なタイミングで店の鈴が鳴った。



入ってきたのは、黒い革のブリーフケースを持った、眼鏡の神経質そうな男だった。

男は冷ややかな目で店内を見回し、カウンターの俺の前に一枚の身分証を突きつけた。

「国税局の者です。喫茶『夜鴉』の過去十年の確定申告、および経営実態の監査を行います。

事前通告の通り、帳簿の整合性が取れない場合、本日付で一時的な営業停止および資産凍結の処分を下します」



男の言葉は機械的で、最初からこちらを潰すという結論が決まっているかのような冷酷さがあった。



「どうぞ、お調べください」

俺が静かに席を外すと、入れ替わるようにリザとシルヴィアが男の前に立った。

シルヴィアが、ドン、と音を立てて積み上げたのは、あの一見ボロボロに見える、だが精密に数字が書き込まれた十冊以上の古い帳簿だった。



「これは……?」

監査官の男が不審そうに眼鏡を押し上げ、最初のページをめくった。

その瞬間、男の指先が、目に見えてピタリと止まった。



「それは、我が店の前店主が残した、十年前からの『すべての取引の原典』だ」

シルヴィアが腕を組み、上から見下ろすように男を威圧した。

「仕入れ先、客単価、さらには千影のフロント企業への“延命費用”の流出まで、一円の狂いもなく現実の数字と同期させてある。

阿良多殿のハッキング技術と、我が記憶力を侮るなよ」



「な……馬鹿な、こんな完璧な個人商店の帳簿があるわけが……」

監査官が額に汗を浮かべ、猛烈な勢いで電卓を叩き始める。

だが、どれだけ数字を精査しても、そこにあるのは完璧な「合法」の履歴だった。



昨夜、阿良多が親父の口座から吸い上げた十年前の決済データを、リザが王族の算盤そろばんで現実の税法に完璧に適合するよう「逆算」し、シルヴィアがその驚異的な身体能力の精密さで、古い紙に完璧な手書きで偽造トレースしたのだ。

異世界で国家の予算を動かしていたリザの財政知識の前に、現実の地方役人の監査など、子供のパズルも同然だった。



「どうされました? 早く次のページをめくったらどうなの、監査官さん」

リザが男の背後に音もなく回り込み、その耳元で冷たく囁いた。

「それとも、あなたをここに差し向けた『御子柴一族』の、過去の不正土地買収のデータも、この帳簿の裏に書き足してあげましょうか?」



「ひっ……!?」

男はガタガタと椅子を鳴らして立ち上がり、リザの放つ本物の「王族の殺気」に気圧され、ブリーフケースを掴んで逃げるように店を飛び出していった。



「やったニャアアアッ! 大勝利ニャ!」

ミアが厨房から飛び出してきて、リザの腰に抱きついた。

リザは「もう、制服がシワになるわよ」と困ったように笑いながらも、その頬を嬉しそうに緩めていた。



二日目の国家の奇襲を、夜鴉たちはチームワークと異世界の知恵で完璧に退けたのだ。

カランコロン、と、それを見計らったかのように、外から次のお客が戻ってくる。

「ハンバーグ、まだあるかい?」という常連の声に、俺は「最高のやつがあります!」と声を張った。



しかしその日の夜。阿良多のPCの画面に、千影から再び短いメッセージが届いた。



『二日目もクリアか、やるねカイト。

でも、御子柴が次に動かすのは、法律(紙切れ)じゃない。

あの一族が百年前にこの街の地下に埋めた、本当の“物理的な暴力”だ。

三日目、君たちの店の前を、本当の暗闇が包むよ』



画面の向こうから、不気味な地鳴りのような音が、喫茶『夜鴉』の床下から微かに響いてきた。


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