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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第75話:一週間のメニュー表、あるいは王女の算盤

御子柴が去った後の喫茶『夜鴉』には、重苦しい沈黙と、先ほどまで漂っていた珈琲の残り香だけが虚しく充満していた。



毎月の売上の八割か、あるいはルカとリィナの身柄。

突きつけられたのは、暴力ではなく、この街の歴史と権力に裏打ちされた冷酷な二択だった。

「一週間で、御子柴の息がかかったチェーン店に売上で勝つ……。

あの男、本気で僕たちを潰しにきてるよ。相手は商店街の入り口に新しくできた、あの全国展開の大手カフェチェーンだ」



阿良多がノートPCの画面に周辺の店舗データを叩き出しながら、苦々しく首を振った。

「あっちの客席数はうちの五倍、資金力も知名度も桁違いだ。

いくら千影のシステムを書き換えてこの店を現実に固定したからって、純粋な『商売の数字』だけは、ハッキングじゃどうにもできない……っ」



「……いいえ、阿良多。ハッキングで勝てないなら、なおさら私たちの領分だわ」



どん底の空気を切り裂いたのは、リザの凛とした声だった。

彼女はエプロンの紐をもう一度きつく結び直すと、カウンターの上に真っ白なノートを広げた。

その碧眼には、絶望など微塵もない。むしろ、国を揺るがす財政難や他国との経済交渉を乗り越えてきた『王女』としての、不敵なまでの闘志が宿っていた。



「相手が組織力と資金力で攻めてくるなら、こちらは『個の熱量』で迎撃する。

カイト、店主さんの遺したあの『最初の珈琲豆』……あれ、まだ少し残っているでしょう?」



「あ、ああ……焙煎したやつが、あと数杯分なら厨房にあるけど」



「なら勝機はあるわ。シルヴィア、ミア、あなたたちも手伝って。

異世界の戦場でも、敵の補給路を断ち、こちらの価値を高める基本は同じよ。

一週間でこの寂れた商店街の人間を全員、私たちの『日常の虜』にしてみせるわ」



リザはノートに素早い手つきで、これからの作戦スケジュールを書き込んでいく。

その無駄のないペン捌きと、一瞬で全員の役割を見抜いて指揮を執るカリスマ性に、ルカとリィナは憧れを孕んだ目で、すっかり見惚れていた。



「アタシ、チラシ配るニャ! 商店街の隅から隅まで、全部の人間にこの店の匂いを叩き込んでやるニャ!」



ミアが両手をグッと握りしめ、人間の姿のままでありながら、いつでも地を蹴り出せるようにしなやかな身体を弾ませた。

猫耳が隠れても、彼女の「仲間を絶対に奪わせない」という一途な忠誠心は、今や店の誰よりも強い光を放っている。



「ならば私は、店の警備をしつつ、呼び込みを担当しよう。

異世界での民衆誘導パレードの経験なら、私にもあるからな、カイト殿」



シルヴィアが、未だ手に持っていた金属製の靴べらを剣に見立てて、美しく鞘に収める仕草をした。

左手一本でも立ち居振る舞いの美しさは一級品だ。

彼女が店の前に立つだけでも、現実の商店街では物凄い客寄せの看板になることは間違いなかった。



「みんな、ありがとう……。よし、メニューの再構築だ。

千影のゲームには勝ったんだ。ここで日常を奪われてたまるか」



俺はリザの隣に立ち、彼女が広げたノートに新しいメニューのアイデアを書き込んでいった。

ユキが命を懸けて現実に繋ぎ止め、親父が十年間守り抜いたこの場所。

法律や国税をチラつかせる地主が相手だろうと、俺たちの泥臭い反撃は止まらない。



その時、店の電話がジリリリンと鳴り響いた。

受話器を取ると、聞こえてきたのは、拘束を解かれてどこかへ姿を消したはずの、あの千影の声だった。



『僕の完敗の後に、まさか街の生霊(御子柴)が出てくるなんてね。

カイト、僕のフロント企業のデータ口座に、御子柴が過去に犯した“不正土地買収”の証拠が、まだ一つだけ残っている。

一週間、君たちが数字で持ちこたえられたら、そのパスワードを教えてあげるよ』



かつての親友からの、歪んだエール。

すべての伏線が、この一週間の商戦へと収束していく。

喫茶『夜鴉』の運命を賭けた、一番熱くて泥臭い一週間の幕が、今ここに上がった。


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