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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第60話:紙の迷宮、あるいは最初の図書室

「……思ったより早かったね、カイト。この部屋の匂い、覚えてるかい?」



暗がりの図書室。無数にそびえ立つ本棚の奥で、千影は古い革表紙の本をパタンと閉じた。

窓から差し込む夜の迷宮の淡い光が、あいつの端正な横顔を冷酷に照らし出している。



「忘れるわけねぇだろ。三年前、俺とユキが最初に出会った場所だ」



俺は鉄の棒の端を強く握り直し、床の絨毯を踏みしめた。

この図書室の片隅で、いつも怯えたように本を抱えていたユキ。

その彼女が、この街を、そして俺たちを守るために自分自身を文字通り「書き換えた」のだ。

あいつの独善的なゲームのために、その想いを踏みにじらせるわけにはいかない。



「そう、ここがすべての始まりだ。不器用で、誰とも関われなかった君が、初めて見つけた居場所」

千影は本棚に背を預け、形の良い唇を吊り上げた。

「だからこそ、ここに最初の『鍵の手がかり』を隠すなんて、ユキちゃんも本当にロマンチストだ。

だけどカイト、阿良多くんから聞いたろ? 鍵を見つけたところで、僕のコインがなければ、君たちはここから一歩も出られないんだよ」



千影が指先でピンと弾いた黄金のコインが、チリンと美しい音を立てて宙を舞う。

そのコインが放つ圧倒的な存在の質量が、図書室の空間そのものを歪めていた。



「……千影。お前は昔から、他人の心を計算式でしか見ていなかったわ」



リザが前に出た。彼女の纏う「王女の気品」が、千影の放つ不気味な重圧を真っ向から押し返す。

「カイトがどれほどの痛みを越えてここに立っているか、私たちがどんな想いでこの日常を守ってきたか。

それをデータの一言で片付けるその傲慢さ、私がそのプライドごとへし折ってあげる!」



「ほう、元王女様の騎士道精神かい? 嫌いじゃないよ。だけど……」

千影がパチンと指を鳴らした。



その瞬間、図書室中の本棚から無数のページがバラバラと剥がれ落ち、宙を舞った。

紙切れは意思を持つように集まり、鋭利な刃の嵐となって俺たちに襲いかかる。



「シルヴィア、アタシの背中に隠れるニャ!」



ミアが素早く地を蹴り、シルヴィアの前に立ちはだかった。

動かない右腕を庇うシルヴィアの前に、ミアは四肢をバネのようにしならせて飛び込み、迫り来る紙の刃を鋭い爪で次々と切り裂いていく。

「シルヴィアの右腕が治るまで、アタシが前衛を張るって決めたニャ! 一枚も通さないニャアッ!」



「ミア……! すまぬ、恩に着る!」

シルヴィアは左手一本で重厚な本棚を掴み、驚異的な怪力でそれを引き剥がした。

「ならば私は、この左手で貴殿の死角を埋めよう! おおおおっ!」



シルヴィアが振り回した巨大な木の塊が、紙の嵐を力尽くで叩き潰す。

感覚を失ってもなお、戦場を支配する彼女の騎士としての執念。

そして、それを命懸けで支えるミアの野生の信頼。

二人のコンビネーションは、システムによる補正など遥かに凌駕する輝きを放っていた。



「カイト、今よ! あいつの足元!」

リザが鋭く叫び、千影の影をその視線だけで縫い止める。



俺は紙の嵐を突き抜け、千影の胸元へと鉄の棒を突き出した。

だが、千影は避けるどころか、愛おしそうに目を細めて俺の攻撃を凝視している。



「そう、その熱量だよ、カイト! 君が僕に向かって放つその純粋な怒りこそが、この世界を『現実』へと昇華させる最後のエネルギーなんだ!」



ガキィィィンッ!!



鉄の棒の先端が、千影が掲げた黄金のコインと激突した。

その瞬間、俺の脳裏に、ユキの消え入りそうな声が直接響いてきた。



『先輩……だめ……! 彼のコインを攻撃しては……それこそが、彼の本当の狙い……!』



「何……っ!?」



驚愕する俺の目の前で、千影の持つコインが、俺の鉄の棒が宿す白銀の光を吸い込んで、さらに眩しく輝き始めた。

あいつはマスターキーを探しに来たのではない。

俺たちが足掻き、攻撃を繰り出すことそのものを利用して、コインの側を『本物のマスターキー』へと強制進化させていたのだ。



「あははは! 気づくのが遅いよ、カイト!

ユキちゃんが遺した手がかりをありがたくエネルギーに変換させてもらった。

さあ、これで三日間の猶予は終わりだ。ゲームは僕の勝ち――」



千影が勝利の宣言を口にしようとした、その時。



図書室の床を突き破って、一本の「太い緑の蔦」が猛烈な勢いで伸びてきた。

その蔦は千影の足首を容赦なく締め上げ、あいつの身体を床へと縫い付ける。



「……演算、終了です。千影さん、あなたの行動パターンは、すべてユキちゃんの日記に『予測データ』として残されていました」



図書室の入り口に、息を切らせた阿良多と、胸のエンブレムを激しく光らせたルカが立っていた。

阿良多の手にあるタブレットには、千影の管理者権限を一時的に遮断する、ユキの隠しプログラムが起動していた。



「ルカ……! 阿良多……!」



「カイトさん、今です! 彼のコインを奪い取ってください!

ユキちゃんが遺した本当の鍵は、僕たちの『絆のデータ』そのものなんです!」



ルカの叫びとともに、俺の鉄の棒が、千影の手から黄金のコインを弾き飛ばした。

宙を舞うコイン。それを掴み取ろうと、俺と、そして蔦を引きちぎった千影の手が、同時に伸びる。

勝敗の行方は、コンマ一秒の混沌の中へと投げ込まれた。


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