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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第58話:逆回りの秒針、あるいは三日間の迷宮

千影の姿が掻き消えた後のカウンターには、ただ一枚のコインが、鈍い音を立てて転がっていた。



店内に残されたのは、狂ったように進み始めた白い花の秒針の音。

チク、タク、チク、タクと、冷酷に、けれど確実に、俺たちに残された「三日間」という猶予を削り取っていく。



「……カイトくん、すまない。僕のタブレットでは、今の彼の転移ログを完全に追いきれない」



阿良多が悔しげに髪を掻きむしり、画面を叩きつけた。

「この街のシステムが僕たちの作ったアプリを元にしているなら、彼は管理者権限ルートを持っているも同然だ。

この迷宮の構造をすべて把握している彼に対して、僕たちはあまりにも圧倒的に情報が足りない……!」



「弱気なことを言うな、阿良多! 情報が足りぬなら、足で稼げば良いだけの話だ!」



シルヴィアが木刀を床に突き立て、毅然と言い放った。

その腕の包帯には、まだ現実世界の兵器による痛々しい焦げ跡が残っている。

だが、彼女の瞳に宿る光は、どんな理不尽なルールをも一刀両断せんとする、気高い騎士そのものだった。



「千影とやらが何者であれ、この街で私たちが積み重ねてきた日々を『初期化』するなど、断じて許さん。

カイト殿、ルカ殿。まずはそのマスターキーとやらの手がかりを探しましょう」



シルヴィアの力強い言葉に、うつむいていたルカがゆっくりと顔を上げた。

彼の胸のエンブレムは、千影が去った後も、不安を訴えるように小さく震え続けている。



「……ユキちゃんが隠した、本物の現実へ戻るための鍵……。

もし、そんなものがあるとしたら、それはきっと、ユキちゃんが一番『守りたかった場所』にあるはずです」



「ユキが守りたかった場所、か……」



俺は鉄の棒を見つめながら、かつて彼女と過ごした日々を思い返していた。

図書室、駅前のあのベンチ、一緒に雨宿りをした古びた神社の軒下。

この迷宮のどこかに、それらの景色が、ユキの記憶の断片として組み込まれているはずだ。



「だったら、迷っている暇はないニャ! アタシの鼻なら、ユキの匂いの残りを嗅ぎ分けられるかもしれないニャ!」



ミアがピンと尻尾を立て、店の扉へと駆け出す。

彼女の野生の勘と、仲間を想う真っ直ぐな行動力が、沈み込んでいた全体の空気を一気に引っ張り上げてくれた。



「ええ、行きましょう、カイト」



リザが俺の隣に並び、その美しい碧眼で前方を真っ直ぐに見据えた。

「千影は私たちの感情をデータと呼んだ。なら、そのデータがどれほど強固で、どれほど不条理にあなたを愛しているか、思い知らせてあげるわ」



リザの言葉に、俺は深く頷いた。

そうだ。あいつがどんな天才で、どんな権限を持っていようが、ここは俺たちの生きる街だ。

一行のプログラムや、冷徹な効率だけで、俺たちの絆を消去させてたまるか。



「……よし、みんな。チームを二つに分けるぞ。

阿良多とルカ、リィナさんは店に残って、白い花の時計の監視と、迷宮の構造解析をお願いする。

俺とリザ、ミア、シルヴィアで、ユキの記憶の痕跡を追って、街の中心部へ向かう!」



「了解だ。カイトくん、僕も死に物狂いでこのバグの裏をかくルートを探し出すよ」

阿良多が眼鏡をキリリと指で押し上げ、頼もしく笑った。



俺たちは喫茶店『夜鴉』を飛び出し、夜の迷宮へと足を踏み入れた。



かつての駅前大通りは、左右を巨大なレンガの壁に挟まれた、不気味な一本道へと姿を変えている。

冷たい風が吹き抜ける中、ミアを先頭に、俺たちはユキが遺した「日常の鍵」を求めて走り出した。



だが、その時。

行く手を阻むように、行く先のレンガ壁がメリメリと音を立てて変形し、一つの巨大な「文字盤の怪物」が姿を現した。



それは、かつての監査官たちの残骸とも、千影の悪意ともつかない、歪んだ時計の形をした防衛プログラムだった。

その怪物の中心で、千影のあの人を食ったような笑い声が、風に混ざって響いてくる。



『さあ、第一関門だ。カイト、君たちの“熱量”が、どこまでこのシステムに通用するか見せてよ』



「――来やがったな。みんな、行くぞ!」



俺は鉄の棒を激しく振りかざし、迫り来る最初の試練へと飛び込んだ。

制限時間はあと、七十時間。

俺たちの、本当の終わりと始まりを賭けた、最後の三日間の戦いが本格的に始まった。

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