表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/88

第46話:調和の共鳴、あるいは選択なき最適解

「……ルカ、その鍵をくれ。だけど、お前を消すためにも、ユキを倒すためにも使わない」



俺はルカの透けかかった手から、ひび割れた黄金の鍵をひったくるように受け取った。

掌から伝わってくるのは、凍りつくような冷たさと、消えゆく世界の微かな震えだ。



「カイトさん……それでは、どちらも救えません。僕の演算では、これが唯一の……」



「演算なんてクソ喰らえだ。俺たちがいつ、お前の予測通りの行動をした?」



俺は不敵に笑ってみせ、ルカの頭を乱暴に撫でた。

そして、黒い泥が波打つ時計塔の階段へと視線を向ける。



「阿良多! 過去の記録(日記)と、現在の観測(鍵)だ。この二つが揃ったら、何が起きる?」



階段の麓で、迫り来る亡霊の群れをタブレットで牽制していた阿良多が、ハッとしたように目を見開いた。

割れた眼鏡の奥で、彼の天才的な脳細胞が高速で火花を散らす。



「……まさか、同期させる気かい!?

ユキちゃんの日記が『過去の改ざん』なら、ルカくんの鍵は『現在の固定』だ。

理論上、二つを一つに重ね合わせれば、店主の書き換えプログラムを完全に孤立させられる……。

だけど、そんな精密な融合、手動でやれば二つのデータごと君の存在が消滅するぞ!」



「やってみろ、カイト殿! 貴殿の背後は、この私が命に代えても守り抜く!」



シルヴィアが叫び、ただの鉄の棒を凄まじい風圧とともに振り抜いた。

システムによる補正を失ったはずの彼女の剣技は、純粋な経験と鍛錬によって、むしろ以前より鋭さを増している。

亡霊の群れを次々と一刀両断していく彼女の姿は、まさに戦場の女神そのものだった。



「アタシも負けないニャ! カイト、ユキを絶対に連れ戻すニャアッ!」



ミアが四肢を地につけ、獣のような爆発的な加速で黒い泥を跳ね除ける。

彼女の鋭い爪が、ユキの周囲を展開する黒い防壁を外側から削り取っていく。

傷だらけになりながらも、仲間を信じて道を切り開く二人。その泥臭い執念が、俺の足を前へと進めた。



「……行きましょう、カイト。私たちの『今』を見せつけてあげるのよ」



リザが俺の隣を並走する。

彼女は溢れ出る黒いインクの奔流を、その身に纏う圧倒的な「王女の気品」と決意だけで押し留めていた。

彼女が隣にいるだけで、どんな不条理な世界でも戦える気がした。



「ユキッ!!」



黒い嵐の中心、日記帳を抱きしめて泣きじゃくるユキの前に、俺は飛び込んだ。

ユキの瞳から流れる黒い涙が、アスファルトを溶かしていく。



「先輩……来ないでって言ったのに……! 私は、みんなを……!」



「お前が何を書こうが、俺たちの絆は一行の文字なんかで消えやしない!」



俺は突き出された黒い触手を左腕で受け止め、肉が焦げるような痛みを無視して、右手の黄金の鍵をユキの日記帳へと突き立てた。

狙うのは、日記帳の表紙にある、あの古びた「鍵穴」の紋章だ。



ガキィィィィンッ!!



世界が静止した。

ルカの鍵から溢れ出した黄金の光と、ユキの日記帳から噴き出した黒いインクが、俺の手の中で激しく衝突し、混ざり合っていく。



過去と現在、拒絶と救済。二つの矛盾する定義が、俺という『欠番(特異点)』を媒介にして、一本の新しい線へと紡がれていく。



「……あ、あ、あああああっ!!」



ユキが悲鳴を上げる。だが、その声は恐怖からではない。

彼女の抱える日記帳から黒い泥が剥がれ落ち、眩いばかりの「白銀色」の輝きへと変わっていく。



『システム警告:未定義の統合プロセスを検知。……世界の再構築を開始します』



空に響く無機質なアナウンスが、今度は苦しげに歪んだ。

街を侵食していた黒い無の世界が、一気に反転し、温かい光となって弾け飛ぶ。



「……馬鹿なっ! 私の集めた、私の愛した過去の残骸たちが……上書きされていく……!?」



時計塔の最上階から、実体化した店主が血を吐くような悲鳴を上げた。

彼が従えていた亡霊たちが、光に包まれて穏やかな表情で消えていく。



ユキの瞳に、元の澄んだ光が戻った。

彼女の手にある日記帳は、もう誰も傷つけない、ただの「真っ白な新しい本」に変わっていた。



「先輩……私、生きて、いいんですか……?」



「当たり前だ。これから、その白いページに、みんなで新しい日常を書いていくんだよ」



俺はユキの頭を優しく抱きしめた。

ルカの方を見ると、彼の体は完全に実体を取り戻し、折れかけていた鍵は、ユキの日記帳の表紙に美しいエンブレムとして同化していた。

ルカは驚いたように自分の手を見つめ、それから小さく笑った。



全員が生き残り、店主の野望を打ち砕いた。

完璧なハッピーエンド――そう思った、次の瞬間だった。



グラリ、と。

今までのどれよりも巨大な地鳴りが、新しく生まれ変わった街の底から響いてきた。



「……カイトくん、まずい。店主のプログラムは止まった。だけど……」

阿良多が青ざめた顔で、足元の地面を指差す。



時計塔の影から、漆黒の霧を切り裂いて、見たこともない「巨大な鉄の列車」が、音もなく線路のない石畳を走ってきたのだ。

その車両には、運営のマークでも、店主の紋章でもない、不気味な『五つの星』が刻まれていた。



列車の扉がゆっくりと開く。

中から現れたのは、現代のスーツを着た、けれど頭部が完全に「時計の歯車」でできた異形の集団だった。



「……隔離フォルダ99の生存者たちへ。これより、あなた方を『正史の世界』へ強制連行します」



終わったはずの戦いの先に、この街の存在すら許さない、本当の「世界のルール」が姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ