表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/87

第47話:五つ星の監査官、あるいは抗うための歴史

「正史の世界……だと?」



俺は、石畳を軋ませて停止した巨大な鉄の列車の前で、鉄の棒を構え直した。



蒸気とも煙ともつかない灰色の霧を吐き出しながら、列車の重厚な扉が完全に開ききる。

中から整然と降りてきたのは、仕立ての良い黒いスーツを纏いながらも、首から上が完全に「金色の時計の歯車」で構成された異形の集団だった。



彼らの胸元には、鈍い光を放つ『五つの星』のバッジがピンで留められている。



「……阿良多、あいつらは何者だ。運営の生き残りか?」



「……いや、違う。彼らは運営なんていう現場の端末じゃない。

システムが世界の均一化を保つために派遣する、最終監査部隊……通称『五星の監査官クロノ・オーディター』だ」



阿良多が、震える手でタブレットのキーを叩く。

画面には、彼らの出現によって街の空間座標が「強制書き換え」のプロセスに入ったことを示す数式が、滝のように流れ落ちていた。



「彼らの目的は、バグによって生まれたこの『パッチワークの街』を解体し、僕たちを元いた『退屈で、互いに関わりのない正史の日常』へ無理やり送り返すことだ。

……僕たちの記憶を、完全に消去した上でね」



「記憶を消して、元に戻す……? そんなの、せっかくユキやルカを救った意味がねぇだろ!」



俺が叫ぶと、先頭に立つ最も大きな歯車頭の監査官が、チクタクと規則的な機械音を響かせながら一歩前に出た。



「……個体名カイト。君たちの抵抗は、局所的なエラーとしては実に見事だった。

しかし、大いなる調和の観点から見れば、この街はただの癌細胞に過ぎない。速やかに元のタイムラインへ収束させる」



「大層な理屈を並べて語るんじゃねぇよ! 俺たちはここで生きてるんだ!」



俺は地面を蹴り、監査官の顔面――歯車の中心に向けて鉄の棒を振り下ろした。

だが、鉄の棒が彼に触れる直前、カチリ、と不吉な時計の音が響く。



「……時間凍結。君の運動エネルギーを、三秒前に巻き戻します」



「なっ……!?」



次の瞬間、俺の体は突如として、自分が地面を蹴る前の位置へと「引き戻されて」いた。

攻撃を放ったという事実そのものが、歴史から抹消されたかのような奇妙な感覚。



「カイト殿! ――ハァァァッ!」



シルヴィアが疾風の如き踏み込みで、木刀を監査官の横腹へと叩きつける。

だが、それすらもカチリという音と共に、彼女が踏み込む前の位置へと強制的に巻き戻された。



「……無駄です。我々は『正史のルール』そのもの。

この空間の時間を支配し、あらゆる不合理なイレギュラーを『なかったこと』にできる」



監査官の静かな宣言とともに、他の歯車頭たちが一斉に右手を掲げた。

彼らの手のひらから放たれた灰色の光が、時計塔を、広場を、そして新しく敷き詰められたレンガの道を、じわじわと「無機質なオフィスの床」のような景色へと変貌させていく。



「いや……! せっかく、みんなで新しいページを使い始めたのに……!」



ユキが、白銀色に輝く日記帳を胸に抱きしめながら叫ぶ。

その日記帳の表紙にある、ルカの鍵と融合したエンブレムが、灰色の光に抗うように激しく明滅していた。



「……カイト、諦めないで」



リザが、俺の左手をそっと握りしめた。

彼女の細い指先から、驚くほど強い体温が伝わってくる。



「彼らは歴史の正しさを口にするけれど、そんなものに意味はないわ。

私が国を追われ、あなたに出会い、この街でみんなと不器用に生きてきた。

この泥臭い毎日のどこが、癌細胞だというの? ……私たちの歴史を、勝手に決めさせない!」



リザの瞳に宿る、気高くも激しい「王女の意地」。

その強い意志に呼応するように、ユキの日記帳から、これまでにない純白の光が扇状に広がった。



純白の光が灰色の侵食を押し留め、監査官たちの「巻き戻し」の領域を激しく押し返していく。



「……演算エラー。なぜ『正史の重力』に抗えるデータが存在する?

その白い本……一体、何を記録しているというのだ」



初めて、歯車頭の監査官の声に動揺が混ざった。



「教えてやるよ。そこにあるのはな、お前たちが『無駄』だと切り捨てた、俺たちの意地の記録だ!」



俺はリザの手を離し、再び鉄の棒を両手で構えた。

ユキの白銀の光が、俺の体にまとわりつき、監査官たちの時間操作を完全に無効化していく。



「阿良多、ミア、シルヴィア! あいつらの時計の針を、俺たちの手でブチ折るぞ!」



「ニャハッ! 待ってましたニャ!」



俺たちの反撃の咆哮が、静まり返った街に響き渡る。

正史という名の絶対的なルールを相手に、名もなき箱庭の住人たちが、本当の「自分たちの歴史」を刻むための戦いが始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ