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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第19話:静止する王都と、再定義される「管理者」

「……なんだ、これ。みんな、動きが……」



俺の言葉が、奇妙に間延びして聞こえる。



晩餐会の華やかな会場。

つい数秒前まで笑い声を上げていた貴族たちの動きが、スローモーションを通り越して、まるで粘り気のある水の中にいるように停滞していた。



宙に浮いたままのシャンパングラス、驚愕の表情で固まった国王。

この空間で「普通」に動けているのは、俺たち四人と神崎、そして入り口に立つ老人だけだった。



「これが『蛇の舌』の奥義……広域停滞結界『コキュートス』です。

この結界内では、意識以外のすべての物理現象が極限まで遅延する。

救世主殿、貴方の『導き』も、動けない体では無意味でしょう?」



老人が静かに杖を突くと、床を侵食する影がさらに色濃くなった。



「……くっ、体が重い……! まるで全身に鉄塊を括り付けられたようだ」



シルヴィアが歯を食いしばり、震える手で剣を抜こうとする。

だが、その動作一つに数十秒を要するほど、世界の「時間」が引き伸ばされていた。



「アタシ……足が動かないニャ……! アイツ、絶対ぶっ飛ばすニャ……!」



ミアが獣の牙を剥き出しにするが、その敏捷性すらも結界の強制力には抗えない。



「エリザベート……! 魔法でなんとかできないか!?」



「……無理よ、カイト。魔力の構成速度すらも遅延させられている……。

発動する前に、魔力が霧散してしまうわ……っ」



エリザベートが悔しそうに唇を噛む。

王族としての膨大な魔力すら、世界の理を止める「停滞」の前では形をなさない。



老人は満足げに頷くと、懐から奪ったばかりの宝物――「システムの残骸」である黒い立方体を取り出した。



「運のない救世主に、引導を渡しましょう。……影よ、彼らの命を刈り取れ」



老人の影が鋭い鎌へと形を変え、ゆっくりと、しかし確実に俺の喉元へと伸びてくる。

回避は不可能。仲間も動けない。

絶体絶命。



その時だった。



俺のポケットの中で、神崎から譲り受けた「壊れたスマートフォン」が、耳を貫くような高音を鳴らした。



『警告。外部からのクロック干渉を検知。

管理者権限の消失により、システムに重大なラグが発生しています。

これより……『ゲストユーザー:カイト』を、暫定管理者に再定義します』



「……え?」



俺の視界が、一瞬でデジタルなグリッド線に覆われた。

スローモーションだった世界が、カチリと音を立てて「等速」に戻る。



いや、違う。

俺の脳内の処理速度が、結界の遅延を上回るレベルまで「オーバークロック」されたのだ。



「……管理者権限、ブースト」



俺は無意識に、画面に表示されたコマンドをスワイプした。



『スキル:共同戦線の導き……強制アップデートを実行。

新機能:因果の等速化パッチ・イコライザーを承認』



「なっ……何をした……!?」



老人が驚愕に目を見開く。

彼の放った影の鎌が、俺の首筋に届く直前で、パリンとガラスのように砕け散った。



「シルヴィア、今だ! 右下から切り上げろ!

ミア、老人の背後の影の結界点を引き裂け!

エリザベート、俺の背中から最大出力の熱線を……座標固定なしで放て!!」



「「「動ける……!?」」」



三人が驚きの声を上げた次の瞬間には、彼女たちの体は俺の指示通りに動いていた。



再定義された俺の権限が、仲間たちにかかっていた停滞の呪いを「システムの不具合」として強制排除したのだ。



「おおおおおっ!!」



シルヴィアの放った一閃が、老人の防御結界を粉砕する。

同時にミアが影の隙間に潜り込み、結界の核となっていた魔法文字を爪で削り取った。



「焼き尽くしなさい!!」



エリザベートの放った真紅の熱線が、俺の体をかすめるほどの至近距離を通り抜け、老人の杖を直撃した。



ドォォォォンッ!!



激しい爆発と共に、王宮を包んでいた静寂の結界が霧散していく。

街に活気が戻り、晩餐会の会場には再び喧騒が溢れ出した。



「ぐ……あああ……っ! バカな、管理者はあの若造だけのはずだ!

なぜ、ただの大学生にシステムが従う……!?」



杖を失い、地に伏せた老人が血を吐きながら叫ぶ。



俺は手の中のスマートフォンを見つめた。

画面には、見覚えのある「初期化」の文字ではなく、今の俺たちを肯定するような力強い文字が並んでいる。



『現在の設定:世界を愛する者たちによる共同管理』



「……神崎。お前が言ってた通り、確率はなくなったかもしれない。

でも、誰かが勝手に決めた『絶望の数字』なんて、俺たちが書き換えてやるよ」



俺は神崎の方を振り返り、ニッと笑ってみせた。



「……ふん。やっぱり君は、最高にタチの悪いバグだよ、カイト君」



神崎は呆れたように笑いながらも、その瞳には初めて「未来」を信じるような光が宿っていた。



だが、倒れた老人は、消えゆく意識の中で不気味に口角を上げた。



「……喜ぶがいい、救世主よ。貴方がシステムを再定義したことで……

『あの方』が、ようやくこの世界へログインする準備が整った……」



「……あの方?」



俺が問い返すよりも早く、老人の体は黒い霧となって消滅した。



王宮に平和が戻ったはずなのに、俺の背筋には冷たい汗が流れていた。

スマートフォンの画面に残された、最後の一行。



『待機中……プレイヤー2:ログインをリクエストしています』



俺の幸運を巡る戦いは、ついに「もう一人の異邦人」との対決へと加速していく。


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