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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第18話:平穏な祝宴と、消えない「蛇」の影

王都を揺るがしたシステム崩壊の危機から数日。



王宮の広間では、街の修復完了と平和の再来を祝う盛大な晩餐会が開かれていた。



「カイト殿、見てくれ。新しい聖剣……ではないが、王家に伝わる名工が打ち直してくれた長剣だ。今度は私の魔力にしっかり応えてくれる」



正装に身を包んだシルヴィアが、腰に下げた新しい剣を愛おしそうに撫でる。

ドレス姿の彼女は相変わらずどこか落ち着かない様子だが、その立ち姿は凛としていて、会場中の貴族たちの視線を集めていた。



「似合ってるよ、シルヴィア。……ミア、お前は少し食べすぎじゃないか?」



「お祝いニャからいいニャ! この『王宮特製・銀河魚のポワレ』、一生食べていたいニャ……!」



ミアは頬袋をリスのように膨らませて、豪華な料理を次々と平らげている。

自由の身になり、心の底から笑う彼女の姿は、見ているこちらまで幸せな気分にさせた。



「あら、主役がそんなところにいていいのかしら?」



背後から聞こえた華やかな声。

振り返ると、そこにはまばゆいばかりの白銀のドレスを纏ったエリザベートが立っていた。



彼女は自然な動作で俺の腕に自分の腕を絡めると、挑戦的な笑みを浮かべる。



「今夜の貴方は、私の公式なパートナーとして招待したのよ。……逃がさないわよ、カイト」



「王女殿下、職権乱用だぞ……」



苦笑いしながらも、俺は彼女の温もりを拒むことはできなかった。

幸運値がゼロになっても、俺の周りにはこれほどまでに暖かく、騒がしい日常が戻ってきたのだ。



そんな喧騒から少し離れたテラスの隅。

神崎が一人、ジョッキに入ったエールを黙々と煽っていた。



「……神崎。お前も中に入ればいいのに」



俺が声をかけると、神崎は面倒くさそうに視線を向けた。



「僕みたいな不運の塊が、あんな眩しい場所にいたら空気が濁るよ。……それに、この『酒』というやつ、案外悪くないな」



彼は少し赤くなった顔で、初めて「美味しい」という感情を知った子供のような表情を見せた。



「カイト君。君に一つだけ、忠告しておかなきゃならないことがある」



神崎の目が、一瞬で鋭い「管理者」のものへと戻る。



「システムが正常化したということは、この世界から『絶対的な確率』が消えたということだ。……それはつまり、悪意を持つ者が、自らの努力と計略で、いくらでも結果を操作できるようになったことを意味する」



「……どういう意味だ?」



「『蛇の舌』だよ。彼らの本質は、確率操作じゃない。人心を操り、裏から組織を動かす、泥臭い政治と暗殺のプロだ」



神崎は空になったジョッキをテーブルに置いた。



「管理者の僕が消え、君の幸運もなくなった。……彼らにとって、今こそが最も『カイトを殺しやすい』状況なんだよ」



その言葉が現実となるのに、時間はかからなかった。



「緊急事態です! 陛下! 王立宝物庫の封印が破られました!」



一人の衛兵が、血相を変えて会場に飛び込んできた。



静まり返る広間。

王立宝物庫には、この国の建国以来の秘宝と、そして……俺たちが地下から持ち帰った「システムの残骸」が保管されていたはずだ。



「……始まったか」



神崎が低く呟く。



俺は『共同戦線の導き』を発動させた。

視界に映る青いラインが、会場の中に紛れ込んでいる「異質な気配」を指し示している。



一人の給仕係が、混乱に乗じて会場の出口へと向かっている。

その歩き方、そして袖口からチラリと見えた、あのみすぼらしいカジノで見たものと同じ「逆さ蛇」の紋章。



「逃がさないニャ!」



ミアが弾丸のように飛び出す。

だが、給仕係は不気味な笑みを浮かべ、懐から小さな笛を取り出した。



ピーィッ!



鋭い音が響いた瞬間、王都の空が、不自然なほどの「静寂」に包まれた。



「……何だ? 街の音が……消えた?」



シルヴィアが剣を抜き、周囲を警戒する。



窓の外を見ると、王都の街明かりが、次々と塗りつぶされるように消えていく。

それは魔法でも、物理的な破壊でもなかった。



「……街が、眠らされている? 精神操作系の広域禁呪か!?」



エリザベートが驚愕の声を上げる。



「いいえ、お姫様。これは『停滞』ですよ」



会場の入り口に、一人の老人が立っていた。

かつてカジノの裏で消えたはずの領主の腹心……いや、その正体は、より巨大な組織の影。



「幸運な若者よ。貴方の『運』が消えた今、この国に何の価値がある?……この世界を本来の姿、すなわち『絶望が支配する箱庭』に戻させてもらいましょう」



老人の影から、無数の黒い影が這い出し、王宮の壁を侵食し始める。



「……カイト殿。どうやら今夜の晩餐は、デザートの前に一仕事あるようだな」



シルヴィアが俺の隣で剣を構える。



「アタシ、お魚の邪魔をされるのが一番嫌いニャ。アイツ、絶対に許さないニャ」



ミアが鋭い爪を光らせ、殺気を放つ。



「カイト。私の隣にいる以上、世界を救うくらい当然よね? ……さあ、指示を頂戴」



エリザベートが不敵に微笑み、俺の背中を押し出す。



幸運値ゼロ。

チートもなければ、絶対的な勝利の保証もない。



だが、俺の手には、あの神崎すらも羨んだ「最高のリソース」が揃っている。



「……ああ。この最悪な夜を、最高のハッピーエンドに書き換えてやるよ」



俺は奪われた秘宝と、そしてこの国の未来を取り戻すため、新たな戦場へと足を踏み出した。



その時。俺のポケットの中で、かつて神崎から手渡された「壊れたスマートフォン」が、静かに青い光を宿した。



『未確認のアップデートを確認。……真の『管理者』を再定義します』



俺たちの冒険は、まだ本当の始まりに過ぎなかった。


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