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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第16話:バグと化した管理者、そして『不運』の真実

黒い泥のような翼を広げた神崎の姿は、もはや人間のそれではなくなっていた。



彼の周囲の空間が、テレビのノイズのように歪み、点滅している。

システムに選ばれた『管理者』自らが、システムのルールを破り、巨大なバグ(不具合)そのものへと変貌したのだ。



「あはは……。痛いな、悲しいな。なんで僕ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないんだ」



神崎のうわ言のような声が、地下空間に不気味に響き渡る。



「君はいいよね、カイト君。チートみたいな幸運をもらって、可愛い女の子たちに囲まれて。……僕なんて、この世界に来た瞬間、スライムに消化されかけたんだぞ」



神崎が泥の翼をひと羽ばたきさせると、不可視の衝撃波が放たれた。



「カイト殿!」



シルヴィアが瞬時に俺の前に立ち、聖剣を構える。



だが、神崎の放った攻撃は、物理的な衝撃ではなかった。

それは『絶対に命中する』という、システムが書き換えた結果そのものだった。



シルヴィアの防御をすり抜け、衝撃波が俺の胸を直撃する。



「がはっ……!」



肺の空気が強制的に押し出され、俺は床に激しく叩きつけられた。



「カイト!」



「カイト、しっかりするニャ!」



エリザベートとミアが悲鳴を上げて駆け寄ってくる。



「無駄だよ。今の僕の攻撃は『過程』をすっ飛ばして『結果』だけを相手に与える。運がゼロになった今の君たちに、回避する術なんてない」



神崎が虚ろな瞳で笑う。

彼の言葉通り、これは剣や魔法の技術でどうにかなる次元の攻撃ではない。



だが、俺は口の中に広がった血の味を吐き出しながら、ゆっくりと立ち上がった。



「……なるほどな。確かにデタラメな攻撃だ。でも、ノーダメージじゃないみたいだぞ?」



俺が指差した先。

神崎の黒い翼の根本から、ボロボロとピクセル状のノイズがこぼれ落ちていた。



「無理やり世界のルールを捻じ曲げてるせいで、お前自身のデータも崩壊し始めてるんじゃないか?」



「……それがどうした! 僕が消える前に、君たちを完全にデリート(削除)すればいいだけだ!」



神崎が激昂し、無数の黒い槍を空中に展開する。

そのすべてが『必中』の属性を持った、致死のバグ攻撃。



絶望的な状況。

しかし、俺の視界には『共同戦線の導き』が示す、一筋の青い光のラインがはっきりと見えていた。



「シルヴィア! 橋の崩落の時に使った、あの『呪いの力』は出せるか!?」



俺の問いに、シルヴィアは聖剣を見つめた。

黄金の刃の奥底に、禍々しい紫色の光が静かに脈打っている。



「……ああ。この聖剣が吸い込んだ負のエネルギー、まだ残っている。だが、これを解放すれば、聖剣そのものが砕け散るかもしれないぞ」



「構わない! 神崎の攻撃はシステムの『絶対命令』だ。なら、それを相殺できるのは、システムを破壊する『呪い(ウイルス)』しかない!」



俺の意図を即座に理解したシルヴィアが、聖剣を上段に構え、深く息を吸い込んだ。



「ミア、エリザベート! シルヴィアの剣が届くまで、神崎の意識を逸らせ!」



「任せるニャ! アタシの爪は、運命だって切り裂くニャ!」



ミアが弾丸のような速度で飛び出す。

彼女は神崎の放つ必中の槍を、持ち前の野生の勘と驚異的な反射神経で、文字通り『紙一重』で躱していく。

システムが計算するよりも早く、彼女の直感が体を動かしているのだ。



「私の旦那様を傷つけた罪、その身で贖いなさい!」



エリザベートが両手をかざし、真紅の業火を放つ。

彼女の膨大な魔力が空間を焼き尽くし、神崎の黒い翼を一部焦がした。



「鬱陶しい……! 雑魚はすっこんでろ!」



神崎の意識が、一瞬だけミアとエリザベートに向いた。



「今だ、シルヴィア!!」



俺の叫びと共に、シルヴィアが床を蹴った。



「おおおおおおっ!!」



彼女の裂帛の気合いと共に、聖剣から紫色の雷光が迸る。



それはかつて、この王都を崩壊させようとした厄災の呪い。

システムから外れた『異物』のエネルギーが、神崎の張った絶対防壁に激突した。



ガガガガガガッ!!



凄まじい火花が散り、空間そのものがひび割れるような悲鳴を上げる。

必中のバグと、破壊のウイルスが、互いの矛盾をぶつけ合って融解していく。



「ば、馬鹿な……! 僕の管理者権限が、こんな剣一本に……!」



「剣ではない! これは、私たちがカイト殿と共に紡いできた『絆』の重さだ!」



パァァァンッ!!



ガラスが砕けるような音と共に、神崎の防壁が粉々に打ち砕かれた。

そして、役割を終えた聖剣もまた、光の粒子となってシルヴィアの手から消え去っていく。



丸腰になった神崎の胸ぐらを、俺は渾身の力で掴み上げた。



「神崎! お前は一人で数字と睨めっこして、勝手に絶望してただけだ! 運が悪いなら、他人に助けてもらえばよかっただろうが!」



「誰が……僕なんかに……!」



「俺たちがいるだろうが!!」



俺は握りしめた右拳を、神崎の頬に思い切り叩き込んだ。



鈍い音が響き、神崎の体から黒い泥が霧散していく。

バグの鎧が剥がれ落ち、彼はただの貧弱な大学生の姿に戻って、冷たい床に転がった。



「……あーあ。負けちゃった」



神崎は大の字に倒れたまま、天井を見上げて力なく笑った。



「君の言う通りだね、カイト君。……僕も、君みたいに馬鹿みたいに誰かを信じてみればよかったのかな」



彼の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。



俺が神崎に手を差し伸べようとした、まさにその時だった。



『警告。管理者権限の喪失を確認。特異点の増殖を検知』



部屋の中央にあるコンソールから、先ほどとは全く違う、冷酷で機械的な音声が響き渡った。



『これより、システムは最終フェーズへ移行します。本施設及び、周辺領域の完全初期化フォーマットを開始します』



部屋全体が、危険を知らせる真っ赤な光に包まれる。



「……どういうことだ、神崎!」



俺が振り返ると、神崎は驚愕の表情でコンソールを見つめていた。



「嘘だろ……。システムが、僕という管理者ごと、この空間を切り捨てる気だ。王都の地下どころか……この国全体が、空間ごと消滅する!」



神崎の言葉に、シルヴィアたちも息を呑む。



敵はもはや、目の前の男ではない。

この世界を盤面として弄んでいた、冷酷な『システム』そのものが、俺たち全員を消し去ろうとしていた。



「……カイト君。君たちは逃げろ。僕が最後に残った権限で、少しだけ時間を稼ぐ」



神崎がふらつく足で立ち上がり、コンソールへと向かおうとする。

その背中は、すべてを諦めた生贄のようだった。



俺は――。


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